107話 5月24日#01
翌朝。
どこかへ姿を消していたテンが、俺たちが朝飯を食べている間にふらりと戻ってきた。今日の朝刊を手にしていた。
「言うまでもないことだけど、昨日の騒動が一面記事に載ってるよ」
「どんなふうに書いてあるの?」
「そうだねえ……」テンはざっと紙面を眺めた。「大きく分けると、『ウグイロン』のことと、『カジノの火事』についてかな」
「「「あ……」」」
――そういえば、カジノの1階を、ほぼ全焼させたまま放置していた。
「……まあ、あのカジノについては、あんまり大きな問題はないみたいだね。領主がケガをしたくらいで」
「そ、そうか……」
――それなら、まあ、いっか。
「問題は……ドラゴンの方かな」
テンは次のページをめくった。
「さすがに僕たち、目立ちすぎちゃったからねえ」
「え?」
「『ドラゴンを倒した人』の性別とか見た目の特徴とか、いろいろ書いてあるよ……」
「………………」
「……さっさと逃げるぞ」
レイはそう言って立ち上がった。
「でも、わざわざ桟橋まで歩いて船に乗ろうとするのは、見つかるリスクが高いわね」
リアの言うことはもっともだ。
「じゃあ……」
『このまま別の街に移動しますか?』
「……そういえば思ってたんだが、」俺は首を傾げた。「ピエール号で直接ヴィクトリアへ行くのはダメなのか?」
『ムリです』ピエール号はきっぱりと言った。『ワタクシ、実は飛行できる高度がそんなに高くなくてですね……間にある山脈が越えられないんです』
「だったら、海の上を行けば……」
『たぶん目立ちますね』
ピエール号はため息をついた。
『普通の飛空艇|(軍艦を除く)は、海の上や海の近くを飛ぶのが難しいんです。理由を説明するのは難しいんですけど……』
「……じゃあ、海の近くを通ると、『普通の飛空艇』じゃないってバレるってこと?」
『はい。巨大ドラゴンを倒すのと同じくらい目立つことになります』
「それは……避けたほうがいいかもね」
そうつぶやくと、テンは新聞を閉じて、裏面の記事を見つめた。
『ここから西は山が多いので、どうしても谷筋の森の上を移動することになりますが……』
「谷筋の森……嫌な予感がする」
『そうですよねー。モンスターの宝庫ですもんねー』
「でも……他には方法、なさそう……?」
「……いや、あるよ」
テンはそう言うと、テーブルの真ん中に新聞を広げた。
「今の話、西の方を進むってことでしょ?……僕は逆に、東へ進んだほうがいいと思うよ」
「……ヴィクトリアが西にあるのに?」
みんなで首を傾げていると、テンは新聞の下の方を指さした。
「これ、イェリナで運行している定期船全部の航行スケジュールなんだけど、『トリトン』って街からヴィクトリアへ直行する便がある」
「トリトン?」
「ここの東にある小さな街。人気のある景勝地だよ」
その言葉を聞きながら、俺はガイドブックのページを探した。
「おお、ホントだ。『漁業と観光業が盛んな街』……湖もあるんだな」
「うん」テンはテーブルに手をついて、身を乗り出した。「ここから東の方はほぼ乾燥地帯で見晴らしがいいから、逆にモンスターに襲われにくいと思うんだけど」
『確かにそっち方面の方が、行くのは楽かもしれませんね』
「じゃあ、そうする?」俺は他のメンバーを見回した。
「まあ、森の中突っ切って、昨日一昨日みたいなことをまた体験するより、ずっといいわよね」
「目立ちにくいなら……それがいい……」
「じゃあ、そうするか!」レイはそう言って、謎の方向を指さした。「朝のうちにさっさと『トリトン』へ出発するぞ!」
「そっちは南西方向だね……」テンは苦笑いしていた。
『決まりましたね!』ピエール号がガタンと動いた。『テンさん、方向の指示をお願いします!』
「りょーかい!」テンは、テーブルの上のパンを2つ手に取った。「じゃあ僕、船長室行ってくるから!」
「楽しそうだな……」
俺はぼんやりとテンの後ろ姿を見送りながら、「また面倒事が起こらないといいけどな……」と心の中で思った。




