第二十八話 黄金の檻
ブラッドハウンドは南東銅を勝ち取った。
南西ではウィンドクローバーが土壇場で踏みとどまり、辛くも勝利。
西ではウィンドクローバーが布告したことでブルーアーチが守られ、ついに三すくみの布告構図が完成する。
ただし、ブルーアーチは北西銅区画でフローライトに競り負け、陣地の拡大までは届かなかった。
【牙】「よし……じゃあ、高みならぬ低みの見物といくか」
中央金区画。
この夜の主役は、ブラッドハウンドでもウィンドクローバーでもない。
ダークキング vs 王国騎士団。
牙と仲間たちは観戦モードで戦場へと飛び込んだ。
ミニマップには、赤と青の光が折り重なり、
画面越しでも伝わってくる、レイドとは桁違いの圧。
そこに集ったのは、現サーバー総合力ランキングの頂点。
サーバー総合力ランキング
1位 カノン
2位 黒王
3位 椿
4位 ランスロット
5位 すなっち
6位 オニッシュ
7位 ペイン
8位 ガラハッド
9位 鬼朱雀
10位 シン
攻めるのは王国騎士団。
布告しているのは彼らだ。
この包囲を破らなければ、金区画は永遠にダークキングのものになる。
【ランスロット】「全隊、陣形を崩すな!」
【ガラハッド】「突破口を開くッ!」
バフが重なり、騎士団の装備が光を放つ。
彼らは突破の陣形、攻める姿勢だ。
だが、その先には三人の化物が立っていた。
【椿】「全部吹き飛ばす」
完凸した天十握剣が風を裂き、振るうたびに竜巻が戦場を削り取る。
【オニッシュ】「邪魔」
大槌が鎧ごと叩き潰す。
【ペイン】「切り裂く」
双剣、イビル・イン・ライトが喉元を断つ。
三人だけで前線が瓦解していく。
【ガラハッド】「突破できない……!?」
【ランスロット】「火力差が異常だ……!」
攻める側が焦り、守る側は余裕。
【黒王】「その程度か、王国騎士団」
侵入すら楽しんでいるかのようだった。
【牙】「やべぇ……あれ、一生崩せる気しないぞ」
誰も返事をしない。
ただ画面を見つめる。
そして――
【カノン】「少しだけ、本気を見せてやる」
刀に黒炎が走る。
【カノン】「閻魔一閃」
光でも音でもない。
ただ、結果だけが画面に残った。
《ランスロット 撃破》
王国騎士団の最高戦力が、一撃。
【ガウェイン】「な、何が……!?」
【レオネル】「回避不可……!」
【カノン】「寝てろ、英雄」
灼熱の影が跳ぶ。
【鬼朱雀】「オラァァァ!!」
【トリスタン】「早!?」
【システム】《トリスタン 撃破》
【シン】「俺もやるぜ!」
【マーリン】「くそ…」
シンの雷光が閃く。
【システム】《マーリン 撃破》
【ジェイ】「くそ、一旦距離を」
【椿】「逃がさないよ」
【システム】《ジェイ 撃破》
その後、ベディヴィアやレオネルといった後衛も壊滅。最後に残ったのは巨大な盾を掲げるガラハッドだけ。
【ガラハッド】「俺が……止める……ッ!」
黒王が歩み出る。
【黒王】「悪いが、手は抜かない」
容赦なく黒剣が閃く。
【システム】《ガラハッド 撃破》
中央金区画。
たった数分で、王国騎士団は全滅した。
【牙】「……バランス崩壊してんだろ、あれ」
プレイヤースキル、課金、装備、反応速度。
すべての頂点が、そこにいた。
決着後、ブルーアーチ・ウィンドクローバー・ブラッドハウンドの三ギルドの主力はディスコードに集まっていた。
マイクは光っているのに、誰も喋らない。
【リキ】「……あれ、絶対に勝てねぇだろ」
【アリス】「トップランカー多すぎ」
【Miley】「王国騎士団で無理ならもう……」
【らん】「銀を取っても……金があれなら意味ないよ……」
【ファントム】「……化け物の巣窟だな」
重い沈黙。
だが、牙だけが笑った。
【牙】「……フッ」
【アリス】「……何が面白いの?」
【牙】「いや、完敗すぎてな。バケモン揃いだ」
そして、誰も予想しなかった一言。
【牙】「でも、奴らは金区画という檻の中にいる」
【黒鉄】「……は?」
【リキ】「檻って……中央金だぞ?」
【らん】「何言ってんの?」
【牙】「銀に布告する条件、覚えてるか?」
沈黙。
条件が脳裏に蘇る。
銀への布告には、銅区画を二つ以上、または銀区画を一つ以上保持している必要がある。
そして、大区画を持つギルドは隣接区画にしか布告できない。
※ただし、大区画無しなら好きな銅に布告できる。
【らん】「……あ」
【Miley】「ダークキング……中央金しか持ってない」
つまり――
【リキ】「……動けない……?」
【らん】「つまり……金区画は!」
【Miley】「……檻!」
【牙】「金区画は王の座じゃねぇ。」
ゆっくりと言い放つ。
【牙】「あそこは檻だ。ダークキングは出られねぇ」
最高報酬の中央金大区画は、ダークキングがいる限り二度と手に入らないかもしれない。しかし、サーバー初期の頃のような、全支配には至らない。絶望だったディスコが、希望で塗り替えられた。
――― 第五章 牙の物語 完 ―――




