表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第五章 牙の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/163

第二十七話 舐めんじゃねぇって話だわ!!

 土曜、本番の朝。空は薄く曇っていたが、サーバーの空気は完全に張り詰めていた。


 布告のルールは明確だ。自分のエリアと隣接した場所にしか布告できない。大区画無しのギルドは好きな銅区画に布告可能だが、銀区画に布告するには銅区画を二つ以上。または銀区画を一つ確保していなければならない。中央の金区画に挑む条件はないが、三つの銀区画に囲まれているため、必然的に銀区画を持っていなければ挑むことはできない。


 牙は早朝からログインし、らんやファントムと最終確認を行う。狩野の現場感覚は、画面の向こうでも変わらない。短いやり取りののち、作戦は確定した。


「目標は二つだ」


 牙は言った。


「一つは南東銅の奪還。前回、向こうに持っていかれた場所だ。二つ目はブルーアーチの西に布告を入れる。ウィンドクローバーは南西と西を狙う。ブルーアーチは北西銅を狙ってる。西はどっちが取ってもいい、戦わないからな」


 ウィンドクローバーのピノキオ、ブルーアーチの伯爵、ブラッドハウンドのファントム。三人の布告長がそれぞれのクライアントを固める。


 時計が7:29を指す。拠点チャットが落ち着き、全員の指先がキーボードにかかる。外側の世界では普通の夜だが、このサーバーの一帯は「次の一秒」で歴史が動くことを知っている。


 7:30ジャスト。互いにボタンを押す。


 システムログが瞬時に流れる。


【システム】《ブラッドハウンドが南東銅大区画に布告》

【システム】《ブルーアーチが北西銅大区画に布告》

【システム】《ウィンドクローバーが西銅大区画に布告》

【システム】《ウィンドクローバーが南西銅大区画に布告》


 チャットが一瞬にして沸騰する。


【らん】「取った! 南東、布告完了!」

【リキ】「ウィンドクローバーが西、取ったぞ!」

【カゲロウ】「ブルーアーチも動いた、計画通りだ!」


 ウィンドクローバーが西銅を押さえたため、ブルーアーチの西への布告は外部からの干渉を受けず安全になった。結果、ブルーアーチの算段通り、北西を狙える体勢が整う。


 同時に、牙の顔に小さな笑みが浮かぶ。歯を見せるような笑みだが、そこには冷たさが宿っている。


(奴ら、力を温存してやがる)


 牙はそう考えた。斬々抜断が今夜、南銀区画を狙うだろうという読みは当たっていた。しかし、そこを守る王国騎士団は金区画獲得のために全勢力を金へ振っている。南銀に全力を出してこない、戦力を温存しているのだ。


 その選択は理にかなっていた。だが牙は眉を潜め、腹に熱いものがわき上がるのを感じる。


(オニッシュはいねぇ。あいつがいたら、話はまた違ったかもしれない)


 それでも、牙の決意は揺れない。僅かでも戦力を削った奴らに、牙は目に物を見せてやるつもりだった。


(一匹残らず、見せてやる。俺たち凡骨の、本物の牙を)


 その言葉は誰にも届かない。だが、牙の手は確かに震えていなかった。


 夜が更け、チャットは緊張と計算で満ちる。布告が成功した地域は三ギルドの連携を示し、戦線は微妙に再編された。ブルーアーチの西はウィンドクローバーの布告成功によって守られ、牙側の南東奪還も現実のものとなった。


 しかし、空気の端に潜む緊張は消えない。斬々抜断は銀区画を挑む決意を固めているが、王国騎士団が金に注力していることは変わらない。


 牙の笑みはさらに深くなる。挑発でも冷笑でもなく、計算された予感だ。


(これからだ。ここから仕掛ける。奴らのぬるま湯を割ってやる)


 夜九時、ギルドバトル開始。


 南西銅、防衛側の中心に立つのは一人の男。


【マルメン】「全員、遅れんな。バッタの底、見せてやるぞ」


 指揮官であり、同時に前衛の主力。その背に、仲間たちの士気が乗る。対照的に、南東銅には静かな殺気が漂っていた。シャインが前へ歩み出る。


【シャイン】「リオン、ノイス、金糸雀。最初の一波、絶対に通す。遅れた瞬間に崩壊するからな」


 三人が頷く。


 そして、銀区画。この夜、斬々抜断は銀を確実に取ることに全てを賭けた。その布告に投入されたのは、現エースの二人。


【琉韻love】「……負けは考えない。やるだけ」

【たっちゃんパパ】「よし、行くぞ。俺の背中だけ追ってこい!」


 しかし相手は本日不在の下位の人物がソロで自動防衛だった。


 牙は南東銅の開始地点からマップ全体を俯瞰していた。ミニマップには、三つの戦場で燃え上がる炎のような光。


 銀区画では、たっちゃんパパと琉韻loveが真正面から殴り込みをし、早くも制圧。牙は鼻で笑った。


(捨てることが分かりきっているところに本気の二枚看板投入か。そりゃあ悪手だぜ。それに……)


【牙】「それで勝てると踏んでんなら、舐めんじゃねぇって話だわ!!」


 牙たちブラッドハウンドは南東銅を襲う。


【ファントム】「指示を。行けるなら行く」

【らん】「牙さん、合図を!」


 牙は短く、強く言い放つ。


【牙】「全員走れ。主のマルメンに集中攻撃! 数の暴力で叩き潰す!!」


 その瞬間、ブラッドハウンドの前衛が一斉に突撃した。


 マップが震える。剣撃エフェクト、爆風、チャットの怒号、響くサウンド。夜の空気が、火花で裂ける。


(凡骨で何が悪い。ここからだ)


 牙の目に宿る光は、誰よりも鋭かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ