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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第六章 メリッサの物語

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第二十七話 密かに燃える者

 時は少し遡り、箱庭コンテスト予選の日。


 1位通過 アメリア。

 2位通過 メリッサ。


 スカーレットのギルドチャットは、歓声と安堵で満ちていた。


【cat】「やっぱり一位はアメリアだね!」

【さつき】「メリッサさんも二位通過! これはもう本戦も楽勝でしょ!」


 二人の言葉に、周囲も同意するようにスタンプが流れる。


 だが、その空気を切り裂くように、ひとつの冷静な声が入った。


【もも】「……でも本戦は、他のギルドも一丸になって高難度ダンジョン回るわよ」


 一瞬、チャットが静まる。


【cat】「えー、またそういうこと言う」


 だが、当のアメリアは否定しなかった。


【アメリア】「……その通りね」


 意外な反応に、数人が驚く。


【cat】「えっ?」

【さつき】「アメリアさんまで?」


 アメリアは淡々と続けた。


【アメリア】「本戦はテーマ固定。しかも、素材も演出も限られた条件の中で勝負する」


 予選のように、自由なテーマで“映える庭”を作れるわけではない。


【アメリア】「いくら私たちが、始めた頃から戦闘無視で箱庭ガチャばかり回してきたとしても、使えるものには限界があるわ」


 その言葉に、catとさつきの表情が少しだけ曇る。


【cat】「じゃ、じゃあ……」

【さつき】「予選みたいな点数は……?」

【アメリア】「万超えは無理ね」


 現実的な分析だった。


 本戦は芸術点だけでは勝てない。素材の質、演出の説得力、テーマ解釈。すべてが問われる。


 焦る二人をよそに、静かに口を開いたのはメリッサだった。


【メリッサ】「でも、あるのでしょう?勝ち筋が」


 アメリアが微笑む。


【アメリア】「もちろん」


 余裕のあるやり取り。

 だが、その裏には確かな戦略があった。


【アメリア】「おしゃれ度で差をつける」


 聞き慣れない言葉に、数人が首を傾げる。


【cat】「おしゃれ度?」

【さつき】「そんなステータスあったっけ?」

【メリッサ】「あるわ。ごく一部の装備に付く数値」

【アメリア】「おしゃれ度を持つ装備は、総じて戦闘性能が低い。だから戦闘派の人たちは、そもそも存在すら意識していない人も多い」


 攻撃力、耐久力、スキル補正。それらを犠牲にしてまで、見た目を重視した装備。


【メリッサ】「おしゃれ度は、箱庭評価に影響している」


 その一言で、空気が変わった。


【cat】「……え?」

【さつき】「マジで?」

【アメリア】「庭の雰囲気、統一感、視覚的な美しさ。そしてその庭のプレイヤーのおしゃれ度」


 戦闘では役に立たない。だが、箱庭では武器になる。


【メリッサ】「私たちは、ずっとそれを積み上げてきた」

【アメリア】「だから条件が厳しくても、戦えます」


 スカーレットの強さは、戦闘力ではない。

 美への執着と、積み重ねた選択。


 catとさつきは、顔を見合わせたあと、ゆっくりと笑った。


【cat】「……なるほどね」

【さつき】「さすが二人」


 こうして、スカーレットは静かに、しかし確実に本戦への準備を整えていく。


 温かい冬というテーマの下で、芸術の牙は、さらに研ぎ澄まされていくのだった。


 数時間後。スカーレットのチャットが静まり、各自がログアウトしていく中。


 篠宮玲華は、自室のデスクに向かっていた。


 高性能なモニターが二枚。片方にはスカーレットの箱庭編集画面、もう片方には本戦のテーマ資料。


「温かい冬」


 白を基調とした部屋の中で、玲華は静かにマウスを動かす。家具も、照明も、配置も、すべてが整えられた空間。


 無駄のない美しさ。


「制限があるからこそ、腕の見せ所ね」


 小さく、独り言のように呟く。

 本戦は予選のように、好き放題できる場ではない。

 素材も、エフェクトも、演出の幅も限られる。


 玲華は装備一覧を開き、「おしゃれ度」の数値が高い装備をいくつもチェックしていく。


 戦闘性能は低い。

 だが、色味、質感、統一感。


 箱庭の空気を作るための装備。


「戦う人は、強さを見る。私は……景色を見る」


 画面に映る仮配置の庭には、淡い光を放つランタンと、雪を思わせる白い装飾、そして暖色の焚き火エフェクト。


 ()()()()というテーマに、無理なく寄り添う構成。


 玲華は少しだけ目を細めた。ふと、別ウィンドウに映るアメリアの成績表を見る。


 圧倒的なスコア。

 戦闘力も、判断力も、まさにトッププレイヤー。


「……やっぱり、すごいわ」


 素直な尊敬。でも、その視線は静かに自分の箱庭へ戻る。


「でも、私は……あなたを越えたい」


 玲華は新しい装飾アイテムを配置し、全体の色温度を少しだけ上げた。


 冬なのに、寒くない。雪景色なのに、どこかぬくもりがある。


「……これが、私の温かい冬」


 画面に映る庭を見つめながら、玲華は静かに微笑んだ。


 机の上には、紅茶のカップ。湯気がゆらりと立ち上る。外は冬の夜。けれど、この部屋も、この庭も、冷たくはない。


 玲華はマウスを置き、そっと背筋を伸ばした。


「本戦……楽しみね」


 その声は穏やかだったが、胸の奥には、確かな熱があった。


 アメリアに並び、そしていつか越えるために。

 スカーレットのもう一つの戦いは、すでに、静かに始まっていた。

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