13話 ジークフリードvs■■□□オン
キョウザメエルは、ムクリと起き上がった。自身のスーツについた砂をぱんぱんと、丁寧に払う。ひと通り綺麗にし終えると、目の前の巨大な紅い機体を見上げて、じっと見つめ、口を開いた。
「なるほど、こうなりましたか……。先程、いっそ自分も気絶させてしまって、より平等な条件にして大人しくしておこうかと思いましたが……、そうしなくて良かったです。『スタンガンは自分の身体で試すな』とは、昔の人はよく言ったものですね。」
「……何から何まで、言っている意味がわかんないよ。故郷が名産地とかでいらっしゃる?」
オンのツッコミを受けて、キョウザメエルはオンの方へと向いた。
「それはさておき……これは、あなたがおっしゃる通り、テコ入れが必要ですね。こんな我々に相応しい、『演出』とともに、力を与えましょう。準備は……よろしいですね。」
「うん、お願いします……!」
「では……参りましょう。」
キョウザメエルは、右手の中指と親指を重ねると、腕を高く掲げ、構えた。
――パチンッ!
キョウザメエルが、小気味良い音とともに、指を弾く。
すると、オンの視界が、今度は――、蒼く静かな光によって染まり、意識が遠のいた。
◇◇◇
――とある、シアタールーム
オンが次に意識を取り戻したとき、彼は、見覚えのないシアタールームに立っていた。後ろを振り向くと、キョウザメエルがおり、さらにその後方には、シアタールームの入り口のドアが見えていた。
キョウザメエルに促され、前方へと進む。何が映っているのかと、画面の方を眺めながら、歩く。その大きな画面には、先程まで自分が立っていたはずの、城下町と、紅きスーパーロボット、ジークフリードが映し出されていた。
(誰かが、――僕を観ている、ということか……?)
画面を観ながら、不思議に思っていると、観客席の方向へ、人の気配を感じた。オンは、その方向へと振り向いた。
比較的出入り口近い席で、映画を観ていた、男女の二人組は、オンのよく知る人物であった。
思わず、オンは、声を挙げた。
「……なんで、こんなところに……?」
「俺はトイレが近いからさ、映画を観るときは、出口に近い席って決めてるんだ。席を立つ時、なるべく他の観客の邪魔にならないように……。」
「……そういうこと、聞いてるんじゃ、なくない?やぁ、オン、久し振りー!もうね、囚われのお姫様って言うのは、やることが無くって暇だね。眺めてるだけなんて、……うずうずするー!」
「主人、ポタ姉……。」
サジとポタル。
オンとともに冒険し、確かに別れたはずの二人が、そこに、いた。
「オン……、もう、俺は主人じゃないんだ。自分の主人は、自分自身だって、そう、学んだんだろ?」
長い髪をひとつにくくった男性、尾張匙は、オンとともに冒険したときの、異世界の衣服を身に纏い、客席に座っていた。
「もー、サジ……。会っていきなり、ボケたり、お説教してみたり……。自分に責任が無い立場だからって、おじさんムーブがひどいよ。ねぇ?オン?」
栗色の髪をツインテールに束ね、笑顔でオンに向き合う女性、ポタル・ギムズ。こちらは、オンのよく知る、彼女の正装――召喚士らしい、だが地味な色合いの、髪色に近いローブとともに、目を護るためのゴーグルを首から下げていた。
「これは……一体……?」
オンは、後ろを振り向き、キョウザメエルに答えを求めるが、天使は何も答えず、表情も変えなかった。その代わりに――、オンの疑問に答えたのは、サジだった。
「さっき、天使から聞いた通り――演出、だよ。」
「当然、俺達がここにいるはずは、ない。使い古された安い言葉を借りるなら――、『いなくなった人も、心の中で生きている』、『どこかで支えになっている』。ま、そんなところだと思ってくれれば良いさ。」
サジの言葉に、ポタルはすかさず、強くツッコミを入れた。
「もー!すーぐ、そういう捻くれた言い方をするんだから……!こういうときはさ、『応援しに来たぞ、ずっと見てたよ!』で良いのにねぇ?」
ニヤリと笑うサジを横目に、ポタルは続けた。
「でね、オン……わたし達が渡しに来たのは、これ。もちろん、覚えてるよね?」
そう言うと、ポタルは鞄から、小さなトロフィーを出してみせた。
「それは……」
オンの記憶が蘇る。
――『んー?それ、気に入ってるの?よかったら、オンにあげようか。わたし達三人の思い出だもんね』――
――『え……?ポタ姉、良いの?僕はただ観戦していただけなのに』――
「召喚大会の、トロフィー……?」
「そう。覚えててくれたんだね、嬉しいよ。」
ポタルはにっこりと笑った。
「わたしと、サジと、オンの絆の証。わたしは今そっちの世界にいないし……サジも来なかったことになっているけど――。これだけは、オンに所有権が移っていたから――、このトロフィーは、まだ、そちらの世界に残る権利があるみたい。」
「それでね。これに、わたしが力を込めて、オンの助けになれば、って――!」
そう言うと、ポタルは手元でマナをトロフィーに練り込みはじめた。
トロフィーの形が徐々に変質する、サイズ感は、そのまま、小さな、プラモデルのようなロボットを形作っていく。
曇りの夜空を纏ったような、鈍いネイビーのカラーリング。両腕がガトリングガンになっており、背中には、レーザー砲が搭載されていた。
シンプルで地味ながら、まとまった印象の機体。
先程まで対面していた、派手で目立つジークフリードとは、対照的だが――、間違いなく、『スーパーロボット』が、そこにはあった。
「ふっふっふ、どう?どう!?オンの、『蝕の機関銃』と、『蝕の加農砲』をそのまま応用してみました!これなら、公平な条件で、あの子と……戦えるでしょ?」
ポタルは、自慢のペットを見せるかのように、ロボットの両脇を抱え、出来上がったミニチュアをオンに見せつけた。
オンは、ポタルから機体を受け取った。
「そうだ……名前は?これ、名前はあるの?」
オンの疑問に、サジとポタルが、待ってました、とばかりに、それぞれ同時に喋り出した。
「よく聞いてくれた」「良い質問だね!」
「この機体は、ガンアームを武器にした機体だ。ガンアーム、すなわち射撃する手、そして、パイロット用の座席がついてる。射撃する手と、座席、ちょっと強引だが、略して"射手座"。射手座、すなわちSagittarius 。」
「この機体は、わたしたち、三人の冒険と、絆、偶然の出会いの証――。それでね、機体の名前も、サジ・ポタル・オン。この三人の名前から取ったの。」
「「だから、この機体の名前は――」」
「「――サジタルオン。」」
オンは、唖然として、そして、笑った。
「僕は、聖徳太子じゃないんだけど――。」
「ていうか、なんなの、その揃いっぷり――っていうか、バラけっぷり……。待ち時間で練習してたとか……?」
サジとポタルも、笑っていた。
「聞き取れなかったか?」「もう一回やろっか?」
「結構です。」
ひとしきり、笑い合って、オンの緊張が完全に解けたところで、キョウザメエルがオンへと声を掛けた。
「そろそろ……です。」
「そっか……、よし、行こうか、おキョウさん。」
サジとポタルは、オンへと、別れのグータッチの仕草を見せていた。
オンも、――それが現実なのか、あるいは幻想なのか、あえて、はっきりさせないために――彼らに触れないように、少し離れてから、グータッチを返した。
二人に背を向け、シアターの出口へと向かう。
その、出口の重い扉を開くと、オンとキョウザメエルは、白く眩い光に包まれた――。
◇◇◇
元の世界へ戻ると、オンの目の高さは、ジークフリードのコックピットと同じ高さになっていた。
――乗っている、"サジタルオン"に。
ただ、違っていたのは、ジークフリードと、サジタルオンのいる場所が、城下町ではなく、見覚えのない、ただ、開けた、何もない荒野になっていたことだった。
見上げると空は、夜空になっていた。まるでそれは、ロボットゲームであれば、トレーニングモードのステージのようだ、とオンは思った。
「なんだ……この空間は。そして、……悪役の、その機体は。」
ジークの声が、オンの耳に届いた。
(なるほど。あの演出は、あくまで僕の主観で――。こっちでは、そんなに時間が経ってないってことか――。)
次に、キョウザメエルの声が聞こえた。
「お二人とも、聞こえますね。」
「終点における決闘は、邪魔だてしない、平滑で、シンプルなステージと、相場が決まっているのです。そういうものなのです。」
「ここであれば、他の住民を巻き込むこともありません。戦いの結果を知るものも限られます。余計なことに気を回す必要は、一切ありません。自身の全てを発揮し――、大いに……戦ってください。――では、御二方、御準備はよろしいですね。」
「真に公平なる、最後の戦いです――。始めてください。」




