2人の吸血鬼に好かれているのか狙われているのか分からない学園生活
田舎から出てきたばかりで、都会の生活にも周りにもなじめずにいました
そんなさえないあたしは、ある日高校イチのイケメンに呼び出され…
吸血鬼な彼
放課後の屋上へ通じる扉を開けると、まだ初夏なのに陽射しが強く残っている
そこにいるひとりの男子
両手で手すりを持ちながら空をみている
切れ長の二重の目
グリーンの瞳
地毛と主張している銀色の髪の毛が風でゆれる
屋上の扉の音に気づき振り向く彼
スラリとした足をこちらに向けて、歩いて来た
彼の名前は「霧夜真琴」
まだ高校に入学して一学期も終わっていないのに、女子の間で霧夜ファンクラブができるほど
いわゆる、女子達のあこがれの的だ
そんな、あたしとは全く無関係そうな男子が、あたしの所へ来たのは昼休みのことだった
「放課後、屋上で待ってる、話があるんだ」
教室の机でお弁当を食べていると、突然後ろから耳打ちされた…
おどろいて振り返ると、軽く手を振り去っていく
広い肩幅
大きくて長い指
顎のラインと喉仏が男っぽく見えた
「カノちゃん、ねぇカノちゃん!」
ハッ!
「アイツなんて?」
横でお弁当を食べていたハルノ君が顔を近づけて聞いてきた
「あ、う、うん、何か話があるって…」
「な、な、なんでアイツがカノちゃんに!僕のカノちゃんにー!」
いや、僕のって…
ハルノ君は隣の席の男子
席が隣りだったせいか、入学してすぐに話しかけられた
ちょっと長めで耳まで隠れた栗色の髪の毛
つぶらな瞳は髪の毛と同じ色
背はあたしより高いけど、女装させたら女の子でも通用しそうな顔立ちだ
小中学生と合わせて、初めて普通に話せる男子のクラスメイト
でも、その見かけから何だか一緒にいても女子と話しているみたいで、変な緊張感はなかった
「だ、男子が女子を呼び出すなんて…まさかまさか、僕のカノちゃんにアイツ!」
「ただ話があるって言ってただけよ」
「僕が先にカノちゃんに目を付けたのにー!」
目を付けたって…席が隣りだっただけでしょ
あたしは本宮花音
小学校も中学校も異性とは無縁の学園生活
でも女子の友達は普通にいたし、周りの子だって彼氏がいたわけじゃない
ただ、この高校に通う前、中学までは山と川と空しかない田舎に住んでいた
高校入試前に引っ越すことが決まって、新居から近いこの高校を選んだ
生まれ育った田舎を離れ、密集する住宅とアスファルトと電柱ばかりの街にやってきた
クラスメイトの女子達は、どうすればそうなるのか分からないような髪の結い方をし、かわいい飾りを髪に付け、潤んだように見えるリップを塗り、爪は綺麗に手入れしてあって、着崩した制服もどこかオシャレだ…
周りの子がみんなオシャレに見えた
クラスメイトがみんな雑誌のモデルに見えた
都会に出てきたことを実感していた
そんな都会の住宅地にある高校なのに、あたしのナリは田舎から出てきたそのままだ
黒いゴムで2つのお下げ
乾燥予防のリップしか持ってない
クラスメイトが話すことは、半分くらいあたしが知らない話題、話についていけない
何となくイントネーションも違う気がする
どう考えてもあたしは場違いだった、浮いていた
周りにも都会の暮らしにもなじめず、友達がなかなか出来なかった時、最初に声をかけてくれたのがハルノ君だった
ハルノ君が高校最初の、そして今のところ唯一の友達といえた
そして今日、霧夜君に声をかけられた
初めて異性に呼び出された
オシャレなクラスメイト達がキャーキャー言う霧夜君だ
そんなはずはない、霧夜君が、彼みたいな人があたしなんかに興味なんてあるはずがない
頭ではそう思っていても、そんなことは分かっているのに…
緊張する、緊張して胸がドキドキする
いったいあたしに何の用?
放課後の屋上で二人きり
霧夜君があたしに近づいてくる
何度否定しても、ドラマで見た告白シーンが頭をよぎる
「あ、あの…何の用ですか?」
ハルノ君と違って緊張する…
目の前まで来た彼
うわっ、背が高い、肩幅広い…
男の人なのに、綺麗な顔…
見上げるあたしに彼が話し始めた
「君の血を吸わせてくれ」
………は?
「君の血を吸わなければ守りきれない」
何言ってんのこの人…??
「俺は吸血鬼と人間のハーフなんだ」
この人、いわゆる厨二病???
「ほんの少しでいい、君の血を吸わせてくれ」
「な、なにバカなことを…」
「そうしないと、君は危険なんだ!」
そう言って両手を前に出してきた
ヒ!
「ヤメテ!」
バシッ
「ぐはぁ…」
抱きつかれる寸前に厨二病患者に思わず平手打ち
そいつはあたしの血を吸うことなく、自分の鼻から出血しながら後ろに倒れた!
訳のわからない厨二病セリフ
突然抱きつこうとするデリカシーの無さ
午後の授業中のフワフワした気持ちは、一気に吹き飛んだ!
大の字になった彼をしり目に、屋上から戻るため階段へ向かう
この瞬間、あたしの脳内で「女子のあこがれのイケメン」から「厨二病のヘンタイ」に上書きされた!
そんなはずはない、とは思っていたけど、あまりにもひどい
ひどくからかわれたような、バカにされたような気持ちになった
「なんなの…」
屋上から降りる階段を早歩きで降りると、踊り場にハルノ君がいた
「カノちゃん、アイツなんだって?」
心配そうなハルノ君
「さぁ、何だか変なこと言ってた」
平静を装って話す
「変なこと?」
「何か、血を吸わせろって、厨二病みたいなセリフ言ってた」
「血を?」
「もういきましょ」
「ふぅーん…」
ハルノ君と話したら、少し落ち着いた
「カノちゃん、一緒に駅まで帰ろうよ」
上履きをしまって靴に履き替えている時に、声をかけられた
「ハルノ君、今日部活は?」
「うん、今日はいいんだ」
手芸部という、これまた女子力が高そうな部活に入っているハルノ君
「ちょっと心配だからさ」
「ありがとう、でも大丈夫!ハルノ君、手芸好きなんだから、部活に行ってきなよ」
「もう部長に休むって言ってきちゃったから」
「そっか…」
さっきの出来事を心配してくれて、部活を休んで誘ってくれたんだ
せっかく心配してくれているんだし…
いつもは1人で向かう駅までの道を、ハルノ君と一緒に帰ることにした
「しかし、アイツは変なこと言うね」
「ホント、なんだったのかしら」
「僕ならそんなバカなアプローチはしないよ」
「うふふ、そうね、ハルノ君ならきっと紳士的に…いや女子っぽくかな?」
「アハハ、もうやだなぁ、僕だってイザとなれば、強引に行くかもよ!」
そんな他愛もない話をしながら歩く道のりは、いつもと違って楽しかった
「ちょっと、寄り道していこうよ」
「寄り道?」
「うん、この公園、静かでいいんだ、僕、よくこの公園を通って帰るんだー」
住宅地の中にたたずむ大きな公園
緑の木々が生い茂り、何だか懐かしい
公園の真ん中あたりに来ると、芝生の広場になっていた
平日の夕方の公園はひとけが少なく、1組の親子が名残惜しそうに遊んでいるだけだった
赤くそまる公園の広場を2人で歩く
ゆるやかな風が木々をゆらす
ニコニコ笑うハルノ君
「ん?どうしたの?」
突然立ち止まるハルノ君
「アイツはホントにバカだ」
もう初夏なのにヒンヤリとした空気が足元を流れる
「ハルノ君?」
ねぐらに帰っていたはずのカラス達が耳をつんざくほど鳴き声をあげ、いっせいに飛び立った
「あんな人目のつくとこで、学校の屋上なんかで…」
立ち止まり、うつむいているハルノ君
「ハ、ハルノ…くん…」
「学校で血なんか吸えるはずないのに…」
ゆっくりと顔を上げたハルノ君は、目が釣り上がり、口もとを大きく横に広げながら笑っている
「こういう静かで人目につかない所がいいんだ、僕は最初からココって決めてた」
「ハ、ハル…ノ…」
あまりの豹変ぶりに声を失う
「人間とハーフのヤツなんかに、カノちゃんの血をやるものか」
その口からは、犬歯が、いや、牙が出ていた
「僕が最初に目を付けたんだ、カノちゃんの血に」
「あ、あ……」
「カノちゃんみたいな希少な血を他のヤツに吸わせてやるものか」
バァー!!
耳の奥をつつくような音
2人を中心に半径30メートルほどの半円状の「何か」が覆う
「こ、これは…」
「結界だよ、これなら人間に気づかれない」
「な、何を…」
ハルノ君は何を言っているんだ
何をしたんだ
何をしようとしているんだ…
「それにしてもカノちゃんもバカで良かった、アイツが厨二病だなんて、笑える」
ケラケラ笑うハルノ君は、もういつものハルノ君じゃない!
「ま、まさか…」
「そう、まさかじゃなくて、僕たちは吸血鬼、人間の血をエネルギーにする」
そんなバカな…
「特にカノちゃんみたいなめずらしい血は僕たち吸血鬼にとっては最高だ」
「な、なぜそれを…」
あたしが特殊な血液型だって、どうして知っているの…
「ニオイだよ、僕は隣の席だったからね」
「ニ、ニオイ…」
「そう、甘くていいニオイがするんだ」
あらためて自分の匂いを嗅いでみたけど、甘い匂いなんてしない
「アハハ、人間には分からないよ」
確かに、血液型でニオイが違うなんて聞いたことがない
「何度もニオイを嗅いでみた、カノちゃんに近づいて確認したんだ」
ハ、ハルノ君があたしに声をかけたのは…
「確認して確信に変わった時、アイツが来やがった」
ア、アイツ?
霧夜君のことか…
「カノちゃんはいい友達だったけど、他のヤツに渡すつもりはない」
今日、ハルノ君が誘ったのは、あたしの血を吸うため…
「知ってる?」
「な、なにを…」
「カノちゃんみたいな血を持った人間が、どうして少ないか」
「そ、それは…先天性の…」
「昔はね、大昔はたくさんいたんだ、なのに少なくなってしまった」
「ま、まさか…」
「カノちゃんみたいな血は、僕たち吸血鬼にとってはごちそう、すごいエネルギーになる、パワーが出るんだ」
クククと笑いながら舌なめずりをする
「みーんな、血を吸われて死んじゃったんだよ」
「な!」
「もうほとんど残ってない、最高の血なんだよ、バーディーバー」
そう、あたしはバーディーバーといわれる特殊な血液型
それは、20万人に1人いるかいないか、という稀な血液型だ
ハルノ君はあたしと友達になりたくて近づいて来たんじゃないんだ
ハルノ君が求めていたのは、あたしじゃなくて…
あたしの血だったんだ
「早く吸いたい」
満面の笑みで近づいてくるハルノ君
「心配はいらないよ、痛いのは最初だけだから、あとは気が遠くなってブラックアウトするらしいから、むしろ気持ちいいよ」
ヤバい
「気持ちよく死ねるよ」
ヤバいヤバい!
咄嗟に逃げ出した!
「ハハハ、どこに行くんだい?」
「誰か、誰か助けて!」
バァン!
すぐに何かにぶつかってしまった
「結界を張ったって言っただろう」
そんな…
ゆっくり歩いて近づいてくるハルノ君
結界の外には、さっきの親子が見える
必死に結界を両手で叩き、叫んだ
「た、助けて!お願い助けて!」
こちらからは見えるのに、親子は気づかない
母親は子供の手をとり家路についてしまった
「い、行かないで!」
「本当にカノちゃんはバカだなぁ、結界なんだから聞こえるワケないじゃん」
振り返ると、もうすぐそこまで来ていた
距離を少しでも取るために、結界沿いに走り始めた
「はぁ、はぁ!」
しかし、今度はものすごいスピードで先回りされてしまった!
「は!」
一瞬で目の前に現れ、ニヤリと笑う
肩にかけていた通学カバンを振り回す
「ムダなことを」
すぐにカバンは取られてしまった
反対側に走るが、今度は足がもつれて転んでしまう
「いたっ!」
「そろそろ大人しく…」
「いやぁー!」
腕を捕まれもみ合いになる
必死に抵抗するが、すごいチカラだ
「ほら、大人しくしてよ!」
その時、結界が揺れて何者かが中に入ってくる気配がした
「ほらー、カノちゃんが大人しくしないから、ジャマが入ったじゃん!」
「な、なに?今度はなに…」
あたし達がいる結界の反対側から男が歩いてきた
黒いシルクハット
初夏なのに膝下まである黒いロングコート
黒いマスクを付けて、ゴーグルのようなメガネをかけている
ひと目で普通じゃないのがわかった
「その獲物はガキにはもったいないな」
マスクをはずしニヤリと笑う口元は、ハルノ君と同じ牙が見える
「ち、やっかいなヤツに見つかった」
「な、なに?何者…」
って、たぶん吸血鬼なんだろうけど…
「カノちゃん、ちょっと待っててね」
そう言ってハルノ君はあたしから離れて、その男に歩み寄った
「カノちゃんは僕のものだよ、ジャマすんな」
「結界が張られていたから何かと思ったら、とんだ上玉じゃないか」
「ジャマすんなー!」
2人は闘いはじめた
バシッ!
ドカッ!
殴りと蹴りの応酬
格闘技は分からないあたしが見ても、人間わざとは思えない2人
しかし…
「クッ!」
互角に見えた闘いも、徐々にハルノ君が押され始めていた
「大人しくそいつを渡せば、もう痛い思いをしなくて済むぞ」
「ま、まだまだー!」
隙を見て逃げ出そうとするも、やっぱり結界は超えられない
吸血鬼のあの男は入って来れたのに…
「俺に血を吸わせろ」
「は!」
いつの間にか横に男がいる
「き、霧夜…くん?」
「ヤツらが闘ってる今のうちだ、俺に吸わせろ」
「な、なにを…」
何を言っているの?
「ほんの少し、1滴でいい、俺が君を助けてやる」
「た、助けるって…」
「吸血鬼に噛みつかれなければ死にはしない。君の血なら1滴でもすごいパワーが出るはずだ」
助けてくれるなら、いや、今この状況なら、霧夜君の言葉を信じる意外に選択肢はない
「1滴って…か、噛みつかないで、どうやって血を?」
「ほら、そこに」
「え?」
霧夜君はあたしの口元を指さした
そっと口をさわると、ヌルッとしたものが…
指を見てみると血が付いていた
「さっきの…」
さっきハルノ君ともみ合った時に口を切ったんだ…
「じゃ…」
霧夜君が顔を近づけてきた
「ちょ、ちょっと!」
「し!静かに!」
人差し指をあたしの口に立てる
「ヤツらは闘いに夢中になってる、声を出すな」
切れ長の目がまっすぐあたしを見る
「死にたくはないだろ…」
いや、そう言う問題じゃなくて
いや、そうなんだけど……
その間にも彼の顔が近づいてくる
銀色の髪の毛があたしの前髪と触れると、彼の瞳にあたしが写っているのが見えた
さっきまでの恐怖と違う鼓動が身体中を振動させる
もう、目を閉じることしかできなかった
彼と触れたのは…
唇だけ…
…のはずだった
「…っぐ!」
思わず彼を両手で突き飛ばした
「な、な…」
人生初のキスなのに…
「なんで舌を入れてくるのよ!」
しかしそんなことはお構いなしに立ち上がり振り返る霧夜君
「き、霧夜…くん?」
霧夜君の全身から黒いオーラが出ていた
「ここで待っていろ」
そう言って、闘う2人のもとへ走り始めた
黒いコートの男には右足の蹴り
ハルノ君には左ストレート
「はぅっ!」
「ぐわぁっ!」
2人は霧夜君の一撃だけでうずくまってしまった
「す、すごい…」
うずくまる黒いコートの男の顎をさらに蹴りあげる
「グハァッ!」
その蹴りの勢いは凄まじく、男はそのまま結界の外へ吹き飛ばされた
ゆっくりと振り向き、今度はハルノ君を睨みつける霧夜君
その目はさっきの優しい目ではなく、殺気に満ちている
「友達を装って、相手を油断させて襲うなんて最低だクソ野郎!」
「はぁ、はぁ…」
ハルノ君は苦しそうだ
「このまま永遠に復活できなくさせてやる!」
握りしめた拳はさらに黒いオーラがまとっていた
「死ねぇー!」
「待って!」
咄嗟に叫んだ
拳がハルノ君に当たる寸前、彼の動きが止まった
「もう、もう勝負はついてるでしょ!もうやめて!」
「本宮さん、コイツを生かしておけば、また…」
「そしたら、また霧夜君が守ってよ!」
「…」
「また、守ってくれるんでしょ!」
「……」
「ねぇ、霧夜君!」
今日の屋上でも、霧夜君はきっとそう言いたかったんでしょ?
「…分かったよ」
霧夜君の殺気が消えていく…
「霧夜君…」
「うっ……」
そのままハルノ君は倒れて気を失った
すると結界は消えて、静かな公園に戻っていた
「ハ、ハルノ君!」
「待て!そいつならそのままで大丈夫だ」
近づこうとすると、霧夜君に止められた
「でも、ハルノ君、気を失ってる…」
全身傷だらけだ
「ヤツは吸血鬼、その程度なら、たぶん1時間もすれば傷は治る」
え?
そうなの…?
「それより早くここを立ち去ろう、もう1人の吸血鬼も死んじゃいないはずだ」
手を差し出す霧夜君
彼の手を取り立ち上がる
「は…」
そのまま抱き寄せられた
「き、霧夜…くん…?」
「守ってやる、守るからさ」
「う、うん…」
「また…」
また?
「キスしよう」
今度は舌は入れてこなかった…
翌朝、制服を着て家を出ると、門扉の外に霧夜君が立っていた
「き、霧夜君、何してるの…」
「迎えに来たんだよ」
昨日のことがあったばかりだから、霧夜君がいてくれたら安心だけど…
朝から顔が赤くなる…
「ずっとそばにいて、俺が君を守ってやる」
あたしの脳内パラメーターは、半分くらいイケメン男子に戻っていた
高校は下り方面だから電車はすいている
ちょうど2つ空いてる席があったから、隣どうしで座った
たくさん聞きたいことがあったけど、何から聞いていいのか分からない
(吸血鬼って、他にもたくさんいるの?)
(ハーフってことは、親のどちらかが吸血鬼?)
(血を吸うとパワーが出るの?)
(吸わなくても生きていけるの?)
(どうしてあたしを助けてくれたの?)
(どうしてあたしを守ってくれるの?)
『あたしのこと、どう思ってるの?』
「…あ、あの、」
「なに?」
「ど、どう思ってるのかな…て、」
「なにが?」
「そ、その…」
おもむろに立ち上がる彼
「ど、どうしたの?」
「降りるよ」
「え?」
「電車」
あ!
「着いたよ、電車降りよう」
並んで歩く通学路
右に彼がいる
昨日の公園が見えるけど、何事もなかったように静かだ
結局、何も聞けないまま校門に着いてしまった
「カノちゃーん!」
え?
ハルノ君が手を振りながら走ってきた
霧夜君が言ったとおり、ハルノ君に傷は見当たらない
ハルノ君も何事もなかったかのようだった
「ハ、ハルノ君!」
「てめぇ何しに来やがった!」
いきなりけんか腰の霧夜君
「うわぁ、霧夜君ヤメテよ、もうカノちゃんを襲ったりしないよ!」
「信用出来るか!殺そうとしてたクセに!」
そう言ってハルノ君の胸ぐらを掴む
「ま、待った!昨日、霧夜君はカノちゃんの血を少しだけ吸ったんだろ」
いや、血を吸ったというか、アレは…
思い出すとまた赤くなる
「だからなんだ!」
「ほんの少しだけでも、あんなにパワーが出るなら、僕も噛み付いたりしないよ!」
「霧夜君、離してあげて…」
「チッ…」
「僕も、僕もさぁ、カノちゃんを守るよ」
昨日のことがあるからハルノ君の言葉をそのままうのみには出来ないけど…
もとのハルノ君に戻って、ちょっと嬉しかった
「だからさぁ、カノちゃん!」
「なに?」
「カノちゃん、僕にもキスしてぇー!」
「ふざけんなゴラァ!」
バシッ!
結局ハルノ君は殴られて、鼻血を出しながら大の字に倒れてしまった
「ハルノ君大丈夫!もう、霧夜君もケンカしないで!」
そう言えば昔の歌でそんな歌詞があった
(ケンカをやめて…あたしのために争わないで…)
たしか、そんな歌詞だったけど
ハルノ君はあたしの血を吸いたいだけ
そして、もしかしたら霧夜君も…
この日を境に、あたしの高校生活は、2人の吸血鬼に好かれているのか狙われているのか分からない、不思議なものになった
つづく
読んでいただき、ありがとうございました!
評判よければ早めに更新します
よろしくお願いします