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ドッペルゲンガー


「やっぱり御神さんがおかしいのよ。私、同じ経験をしててもあんな風に出来るとは到底思えないもの」


 新谷さんが言った。


「え、今頃気づいたの?出来るわけないじゃん。カンナちゃんは生きてる世界が違うんだよ。嘘ついてるけど、ほんとは一家で陰陽師とかなんだよ」


 城戸さんが言った。


「もう、二人とも酷いじゃない。御神さん、私たちの為に頑張ってくれたのに」


 沢野さんが言った。良い娘。


「あんたらいい加減にしろよ」


 場所は図書館。今日は夏休みの宿題を皆でやりましょう会らしい。来たくはなかったが、ママンに家を追い出されてしまった。結果、言われたい放題である。


「危なくなったらあれくらい誰だってやるよ」


「いや、私命の危機すら感じ取れなかったんだけど」


「きっとカンナちゃんは予知とかしてるんだよ。数秒先の未来が見えるとか!!」


「見えねぇよ」


 もう霊能力者か超能力者かもわからねぇよ。


「でもさ、実際問題声をかけた女の子が殺しにかかってくるなんて思いもしないじゃない?まあ、廃病院にいたんだとしてもさ」


「あれは……」


 横に何か……。いや、誰か、か。そいつが確実に悪意をもってわたしを見ていることに気がついたから危険だと思ったんだけど。あれ、よく考えるとすげーこえーのよね。感覚的に多分大人だと思うから、身長の低いわたしの顔に合わせてしゃがんで見てたってことでしょ?しかも息のかかるくらい近いレベルで。さすがにわたしも見えてたら声を上げてたかもしれない。


 なんて事を言ったら、


「いや、それは引く。それ見て声を上げてたかもしれないって、それだけ?」


「私、失神しそう……」


「私は心臓が止まってしまいそうです」


 この言われよう。すでにわたしは女子ではないのかもしれんな。


「それで、あの娘は大丈夫だったの?」


「あの娘?ああ、あの女の子は……。大丈夫なんじゃない?詳しくは聞いてないけど」


 嘘である。


 あの後、お父さんが気を失っていたあの女の子を保護して、警察まで連れていったのだけど、ドギツい事実が分かった。


 正直、どうやってお父さんが警察から聞き出したのかは分からんし、面倒そうなので聞きたくもないけど、今朝新聞やニュースで報道された事件、この近辺で起こったある一家の無理心中の生き残った娘らしいのである。


 特に大きな問題も抱えていない、仲の良い一般家庭だったらしいのだが、父親が狂った様に暴れ始め、母親と二人いた娘の一人を殺害。通報は近所の人らしく、騒がしいので何かあったのか確認の為に見に行くと窓から殺人現場を目撃、父親は目撃者と眼があった瞬間自殺したそうだ。


 いや、言えねぇよ。中学生女子の話題じゃないもの。お昼のワイドショーの話題でしょうよ。わたしの周りに転がってる話はこんなんばっかだよ。


 絶対にわたしを見ていたやつが何かしたんだと思う。あの娘はそれに気がついて、もしくは見えていて、自分を守るためにアレと一緒にいた(厳密には見られてただけだけど)わたしたちを攻撃したんだと思う。


 だから、おねえさんたちもそうなんだ、だったんだろう。


 お母さんの力で消えてくれてれば御の字だけど、そうじゃなかったら厄介なのに目をつけられたかも。悩ましいね。


「あっ!」


 城戸さんが突然声を上げた。


「何?なんか忘れ物?」


 新谷さんが呆れ顔で言った。いつものやり取りなのは見ていればわかる。


 ただ、今回はちょっと違ったみたいだ。


「今本借りて出ていった人、めっちゃ私に似てた」


「恭子、それは一々驚きの声を上げなきゃ行けない程の事なの?」


「めっちゃ似てたんだって!!めっちゃ!!」


 いや、似てたからなんだと言うのだろうか。新谷さんもわたしと同じことを思ったらしく、何も言わずに勉強に戻ってしまった。


「ちょっと待って、ちょっと待って!そんな興味のなさそうな顔しないでよ!」


「恭子、興味はないの」


 新谷さんはバッサリ言う人だね。人の事は言えんけども。


「聞いてよ、理由が有ってさ」


「何の理由?」


「ドッペルゲンガーって、あるじゃん?」


 ドッペルゲンガー。たしかもう一人の自分が存在していて、それに出会うと死んでしまう、とかなんとか言う都市伝説だったか?


「もし今見たのがそれだったら、私ヤバくないかなって」


 新谷さんと沢野さんが止まった。三人の視線がわたしに集まる。


「いや、それ都市伝説じゃない。分からんけどそれだけで死ぬことはないんじゃない?」


 さすがにそこまで凶悪な霊障は簡単に転がってないだろう。


「んー、でもうずまきさまとかも都市伝説みたいなもんだったしなぁ」


 たしかにそれを言われると強気で無いとは言いきれない。仕方がない、辞書を開こう。


「ちょいと待ってて」


 わたしは鞄にしまってあったスマホを取り出すとお父さんにメールを送った。


『聞きたいことがあるんだけど今大丈夫?』


 少しして。


『どうした?』


 返信が来た。三人はわたしのやり取りを結構真剣に見守っている。


『いやさ、お父さんドッペルゲンガーって知ってる?』


『お前見たのか?』


『どうなんだ?見たのか?』


 早い、返信が早い!てか、焦ってる?


『いや、ちょっと話題に上がったから聞いてみようってなってさ』


『そうか、ならいい。しかし、ドッペルゲンガーは不味い』


 不味いって。


『何が不味いのよ』


『ドッペルゲンガーは、死んだ自分だ』


 死んだ、自分?


『ドッペルゲンガーを見たから死ぬんじゃない』


『近い未来に死んだから、見えるものだ』


 …………。


 それはっ……。


 思わずわたしは頭を抱えた。


「ん?御神さんどうしたの?」


 新谷さんにわたしの挙動が不審に見えたのか声をかけられたが、


「いや、何でもない」


 と、言いつつ内心どうしたものかと頭を捻った。


 お父さんが言った事は簡単に言うと、明日死んだ自分の霊が今日見えた、と言うこと。


 時間と空間の概念が曖昧な霊体なら普通にある。何なら、自分の体に入っていたモノだ、普段霊を見ない人でも見えてもおかしくない。


 近い未来とはよく言ったものだ。今の自分に見た目が近いほど早い死が待っている。逆に自分と見分けがつかないほど歳が離れて死んだ自分とも出会う可能性があるわけだ。


 それがドッペルゲンガーと言われる都市伝説の真相。


 ……え、どうしようもなくね?


 もうこれは確定した未来を変えるとかの話になってくる。わたしはSF畑の人間では無いのだ。


 出来るとしたら精々本当に見たのがドッペルなのか確かめるくらいなものだけど、方法も思い付かん。


 詰んだ?


「はぁ、まあいいわ。ちょっとお手洗い」


 スマホとにらめっこしたまま何も言わないわたしに焦れたのか、新谷さんはそう言ってトイレに行ってしまった。ちゃんとお手洗いって言うのは女子だからだろうか。わたしはトイレに行くと言って行く事だろう。


 ――ヴヴッ。


 あ、メール、と思って開くと中身は。


『面貸せ』


 ひぃっ……。




「で、何隠してんの?」


「いや、隠してると言うか」


 メールを見てしまったので仕方なく、わたしもトイレ、と元気よく言って出てきた先、自販機の前で新谷さんが飲み物を持って待っていた。


 残してきた二人には少し休んでから戻ると連絡はしたらしい。


「これ」


 渡されたペットボトルの変わりにスマホを渡す。画面にはお父さんとのメールが表示されている。


「あ、あの子は……!」


 まあ、そうよね。頭抱えるよね。


「いっつもいっつも面倒事ばかり!!目が離せない!!」


「と言うわけで、どうしようかと頭を捻っていた訳ですよ」


 ほんと、どうしたもんか。


「いや、どうしたもこうしたも無いでしょ」


「?」


「まずは聞きに行かないと」


「何を?」


「だから、本を借りていたんでしょ?受付の司書さんに聞けば分かるじゃないの」


「あー?ああ!」




 今回の解決編と言うかオチと言うか、何かそう言うやつ。


 新谷さんはずかずかと聞こえそうな勢いで戻ると城戸さんを捕まえ、受付の司書さんの前に突き出すと、


「コイツに似た人がさっき本を借りて行きませんでしたか?」


 と尋ね、


「ええと、ああ、たしか先ほど少し似た感じの方が何冊か借りて行かれましたね」


 と返された。


 何かモヤる感じの返答だったが、居たは居たらしい。


「少しね。少し……。どうなのよ?めっちゃ似てたんじゃないの?」


「え、あー、遠目で直ぐ行っちゃったから……似てたよ?」


 ゴツンッ!!と頭に痛そうなゲンコツを貰った城戸さんは、その後涙目で、帰るまで黙っておとなしく勉学に勤しんだのだった。


 しかしこりゃあ自衛の為にも、少し都市伝説とか、なんだったら妖怪とか、そう言うネタも調べとかんといかんかも知れない。今回は笑い話で済んだけど内容が洒落になってなかった。


 ドッペルゲンガーか。


 わたしが死ぬ時、それは普通の死に方が出来るのだろうか。


 早いか遅いかは別として、出来ればまともな最後を遂げたいものである。


 うん、割りとマジで。

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