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奈々が欲しいのは雅樹さんの誠実な愛だけ…

奈々と雅樹とセラが異空間で出会う。

天才美少女奈々VS天才サイコメトラーセラ


カフェリンダに降り立った長髪の男はうつむいていた顔をゆっくりと上げる。

すっかりとその顔が前を向いた時、俺の背中越しから片目だけ覗かせた奈々が小さく呟く。


「セ、ラ君? …セラ君!」

奈々がセラと呼ぶその男は女性と見間違うかのような美しい顔に微笑みを浮かべた。


「奈々ちゃん、無事でよかった。 隣の方が…ごめんなさい、お名前はわからないのですが奈々ちゃんの大切な人ですね」

「やだセラ君! 恥ずかしい。でもどうして奈々の大切な人だってわかったの?」

奈々がまんざらでもないような顔をしてセラに聞く。


「無意識の領域で確認できたよ。だけどこの空間はだいぶ特殊みたい。いつものように仔細に物事が把握できないし…何か規制の様なロックがかかっている感じだよ」


「セラ君、セラ君が言うようにこの異空間はかなり特殊。セラ君の言う規制もきっと存在すると思う。記憶を代表としてある種の情報が意図的にぼやかされたり再現を邪魔されてるみたい」

奈々が的確に答える。


「それより無意識の領域で奈々と雅樹さんのことが見えたんでしょ? どんな感じだった?」

奈々が急かすように言う。


無意識の領域で俺と奈々のことが見えた?

俺にはさっぱり理解できないが、ふたりにとってはアプリオリに共有された情報の様だ。


「異空間における無意識の領域はさっきも言ったように正常な空間とはかなり違う。だから今のところ自在には出来ないんけど、それでもふたりの気持がひとつになっていることや、とても深い愛で結ばれていることがわかったよ。だから奈々ちゃんの大切な人って聞いたんだ」

穏やかな表情で柔らかく話すセラ。


「無意識の領域でそう確認できたのね…」

そう呟くと何も言わず俺の胸に顔を埋める奈々。

奈々を軽く抱き寄せる。


「セラ君? で、いいかい?」

俺はセラと呼ばれる男に言う。

「お好きなように呼んで下さい。奈々ちゃんとはカフェリンダでの仲間です」

「ではセラ君、私は雅樹。早速なんだけど鏡の中から出てきたが、あれは一体どう言う事なんだろうか?」

奈々の知人だと言うことで何となく納得してしまっているが鏡から人が出て来るとは瓢箪から駒どころではないあり得ない話だ。


「そうですよね、そこからですよね。僕は無意識の領域を通してこの異空間にたどり着きました。僕の実体は元の世界のカフェリンダにいます。この鏡から異空間に出現したのは恐らく、無意識の領域にある奈々ちゃんと京子さんのエピソードから想起されたのだと思います」


「白馬の王子様! 京子ちゃんが奈々にお話ししてくれた物語で、王子様が鏡から出てきたの! 京子ちゃんはアンドレザジャイアント? みたいなでっかい王子様が白象に乗って助けに来るんだって」

無邪気に言い放つ奈々。

「アンドレザジャイアントってプロレスラーだぞ? それも昭和の時代の。京子ちゃん一体何歳なんだよ? で、白象に乗ってって…インドのお方か…でもそれだとタイガージェット・シンだぞ」

そんなこと言ってもここにはそれを理解してくれる同世代の人間はいないと気が付きやや孤独を感じる俺だった。

「奈々ちゃんと京子さんのエピソードの影響を受けて、鏡から登場すると言う形がとられたのだと思います」


「ねえねえそれで…奈々と雅樹さんはどうなるって?」

「奈々ちゃん、通常の無意識の領域であればある程度過去現在未来は見渡せるけど、今ふたりが異空間に存在している関係か、ぼんやりとしか先のビジョンが把握できないよ」


「なぁんだ、見えなかったのか…」

ガックリと肩を落とす奈々。

「でも近い未来でのふたりはとても深い愛で結ばれていたよ」


「うふっ。奈々、雅樹さんのこともっと信じて良かったのね」

「ん、ん~っ。さ・ん・ざ・ん・人を疑っておいて『もっと信じて良かったのね』って? 毎回毎回毎回毎回すんごい勢いで怒られて、それはもう捜査1課かCIA並みの取り調べを受け…どんなに怖い思いをしたことか」

恨み言を言い、ちょっと仕返ししてみる。

「ごめんなさ~い。でも雅樹さんがいけないと思います。もっと奈々が不安にならないようにしっかり抱き止めてくれなきゃいけないんですっ」

そう言いながら拗ねたような顔をして俺を見上げる奈々。


「ハハッ。奈々ちゃん? ちょっと椿姫見たくなってるよ」

セラがおかしそうに言う。


「セラ君? 笑ってる場合じゃないと思うけど? 奈々は今、椿姫ちゃんの気持が良~くわかるんですけど~」

今度はセラがやり込められている。

「僕らはそんなんじゃないよ。」

「あれ? じゃあ椿姫つばきちゃんが誰か他の人に取れれちゃってもいいの?」

奈々が意地悪く言う。


椿姫つばきひめはそんな子じゃないよ。だから心配なんてしていないよ」

セラは穏やかな顔のまま奈々に返す。


「え~っそんなこと言ってるとうちの雅樹さんみたいに『内房線の美神・エミリーが美しいとか、外房線の美姫・舞ちゃんが可愛いとか、浜辺美波ちゃんは切なくなるような可愛さだ』とか言っちゃってふらふらよそ見されちゃうんだから。そんなことになったら奈々は経験してるからわかるけど…とても辛いの…」

更に意地悪くセラに投げ返す奈々だが結局その言葉は俺に向けられていると気が付く。

「どうもすみませんでした…」

とりあえず謝ることをそれとなく仕向けて来たな奈々…

自分が知りたがって聞いたくせに随分な言われ方だ。

ふらふらよそみ…とは。


「もうよそ見しないでくださいね!」

釈然としない俺に向けて強気に放つ奈々。

やっぱりそう言うつもりだったか。

ってそんなに怒ってたのかよ…

ちょっとしたおじさんの遊び心だったのに。


しかしうちの雅樹さんとは…可愛い言い方だな。

「奈々? 『うちの雅樹さん』って… 刑事コロンボ』みたいだな『うちのかみさんがねっ』みたいな」

「雅樹さん? 刑事コロンボって何? 奈々わかりませんけど…」

「はい、すみません」

とんだジェネレーションギャップでした。

同世代なら絶対わかるのにな…

さみしい…


「私の雅樹さんだから、うちの雅樹さんでしょ? 何かおかしいですか? 雅樹さんも奈々に言って? 『俺の奈々だ』って!」

「は? 何だよ突然?」

何だこの展開は?


「『は? 何だよ突然?』じゃありません! ち・ゃ・ん・と、言って下さい」

「なぜ?」

「なぜって? 女の子は言葉でちゃんと言って欲しいんです! 言葉に出せば形になって実在するようになって実感できるから安心なの」


「だからそれはわかるけどなんで今なんだっての?」

「どうして今言えないの? やっぱり本当はそう思ってないんでしょ!」

語気を強める一方、瞳が潤み始めまた泣き出す寸前となる。


そうなればいつものパターン…

俺は大人しく従うしかないのだ。

 

「俺の奈々だ…」

可笑しいだろ突然こんなこと言いだす奴は!

「もっと気持ちを込めて奈々の目をしっかり見つめて大きな声で!」

って先生か!

「俺の奈々だっ」

もう勘弁して欲しい。

異空間とはいえ今はセラ君もいるんだっての。


「うん…雅樹さんの奈々です…」

そう言いながら、はにかむ奈々。

とんでもなくおかしな展開ではあったが奈々の可愛い仕草はその対価として十分だった。


「セラ君? このように女性はきちんと言葉で表現してもらって初めて心の平静と平和と愛を感じることが出来るのです。わかりますか」

ってなんだこりゃ?

奈々はすっかり先生気分でセラに言い放つ。

しかしセラは少しも慌てることなく奈々に返した。


「奈々ちゃん変わったね、とても明るく元気になった。現実世界から消えるちょっと前から元気がなくて顔色も悪くて、なんだかいつも思いつめたような顔をしていたから椿姫と心配していたんだよ。それから奈々ちゃん? 椿姫に頼まれてたんだろ? きっと『いつかチャンスがあったらお兄ちゃんに言ってやって』ってさ」

微笑みながら奈々に言うセラ。


「そうよ、セラ君。でも奈々にはわかったの。愛する人がちゃんと愛を感じさせてくれれば女の子はなんだって出来ちゃうって。奈々はなんにもいらないしどこにいたって良いの。どこにいても奈々が欲しいのは雅樹さんの誠実な愛だけ…」


カフェリンダの間接照明が周囲を柔らかく照らす。

光と影のコントラストは、大切ななにかを浮かび上がらせていた。





 



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