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どうして奈々がここに来たかったかわかりますか?

拡散力のあるインフルエンサーな方がおられましたら是非私の小説を世に出す力を貸してください!

よろしくお願いいたします!

奈々と雅樹のプチデート!

「おっ! 奈々、美浜大橋に着いたよ!」

ちょうど良い頃合いで到着してくれた。

これで奈々のテンションが切り替わってくれると・・・。


「着きましたね! 雅樹さん? それでは観念して白状しなさい!」

カモメのモニュメントの前に来ると奈々がまるで時代劇のお奉行様みたいにそう言った。


「だから何を白状しろっての?」

あきれたように奈々に返す。


「とぼけないで! 夜景がきれいな事、ベンチがあってそこから見える風景の描写! 昔のことだから忘れた? 嘘ばっかり・・・十分良く覚えているじゃありませんか! これだけ鮮明に覚えているということはさぞ大切な方といらしたに違いありません! そ・れ・が・だ・れ・か・と・聞いているんです! 正直に奈々に白状しなさい!」


「おいおい・・・奈々? 一体何になっちゃったんだよ・・・」

「『おいおい奈々? 何になっちゃったんだよ?』じゃありません・・・。し・つ・も・んっに答えて下さい!」


ヒステリックな女教師みたいに人差し指をぶんぶん振りながら捲し立てる。

「あーウソ偽りなくここにこうやって来るのは初めてなんじゃないかな・・・。ましてやこんなに可愛い女性と来るのは絶対に初めてだな」

奈々がじっと俺の目を見て強度な観察をしているのが痛いほどわかる。


「『初めてなんじゃないかな? ましてや・・・可愛い女性と来るのは・・・?』う~ん・・・」

俺の言葉を無茶苦茶噛みしめて吟味している・・・。


「どうも言葉の運び方に不自然さを感じますね・・・。言葉を濁すというか・・・どうにでも取れるというか・・・」

どうでもいいことを熟考するなって!

と、言ってやりたかったがここは沈黙して様子見。


「いやいや、そうそう! 初めて来た! ほらここって有名なデートスポットでもあるからさ! 来たことないなんて言うとちょっとあれじゃん? 奈々に見栄を張って来たことあるみたいに話しちゃった。ごめんごめん」


だいぶ不自然ではあるが今更急遽方向転換。

こんなことで奈々に不機嫌になられて『カフェリンダには行きませんから!』なんてことになると面倒だし。

「・・・・」

再び無言で観察に入る奈々研究員。


「雅樹さん? 奈々に見栄なんか張らなくていいんですよ?」

ようやく納得がいかれたようだ。

ここでもうひと押し。


「いやーやっぱり男って好きな女の子には見え張りたくなっちゃうんだな~ゴメンゴメン。あーかっこ悪い」

そう言いながら大げさに頭を掻く俺。

もしこんな俺の姿を昔からの友人が見たら、

『漫画かっ』って鋭く突っ込んでくれただろう。


「もう~雅樹さんったら~奈々照れちゃう」

奈々は奈々で、

『昭和かっ』って突っ込まれるな間違いなく・・・。


しかし、つくづく女性の勘は恐ろしい。

やはり奈々も紛れもなく女性。


奈々には絶対に言わないけどここは俺にとって結構な思い入れがある場所だった。

かろうじで嘘でない様に表現。


ここにこうして歩いてくるのは初めてだし、奈々ほど極度に可愛い女の子はそうはいないのだ。


美浜大橋には当時付き合っていた年上の女性の運転で立ち寄ったことがある。

総武線稲毛駅付近に住んでいた彼女はクラッシックバレエやら演劇やらとにかく多趣味な女性だった。


まだ若かった俺は彼女からいろんな影響を受けた。

ミュージカルやらクラッシックバレエの発表会やらなんてのは、それまでの俺の人生には全く無縁なものだった。


稲毛駅近辺の銭湯にも行ったな。

今のスーパー銭湯! 見たいのじゃなくて本当に素朴な銭湯。

思えば銭湯も初めて行ったんだっけ。


付き合って間もない頃彼女が俺に願った想いが鮮やかに甦る。


『私は何もいらないの・・・。欲しいのは誠実な愛だけ・・・』

そう言って俺のことを見つめる彼女の瞳は凛として澄んでいたが、どこか悲しい色をしていた。


そんな彼女と美浜大橋に来たのは、彼女のバレエ発表会の後だった。

発表会が終わってすぐに着替えもせず上着だけ羽織った彼女は、

『どうしても一緒に行きたいところがあるの』

と自ら車を走らせた。

俺が彼女の言葉に抗う理由なんてなにもなかった。


ちょうど夕暮れ時の美浜大橋にたどり着いたふたりは欄干に並び東京方面に沈む夕日を見ていた。

夕闇に落ちる間際のテトラポットがまるで古代遺跡のようだった。


シニヨンヘアのまま飛び出してきた彼女の顔が夕日に赤く染まる。

紅潮したような横顔を見つめていた俺に彼女は背伸びをしながらゆっくりと近づき唇を合せてきた。

波音が聞こえなくなる。

夕日は音もなく消え失せようとしていた。


夕闇が辺りを支配しようとする頃

『へっへ~これがしたかったんだ』

と、子供のように無邪気に笑いながら彼女が言った。


『今更どうしたの?』

俺が笑いながらそう言うと、


『美浜大橋の夕日の中でキスしたかったのっ』

無邪気な笑顔から一転、唇を尖らせ拗ねた様な顔を作る。


その豹変に呼応するかのように、今度は俺が強く抱き寄せふたたび唇を合せた。

『私は何もいらないの・・・。欲しいのは誠実な愛だけ』


今はもう遠い昔の懐かしい思い出だが、あの日彼女が欲した願いはいつまでも俺の心に留まり続けている。


『誠実な愛を・・・』


もう彼女の中に俺との記憶は無いだろう。

女は自分という記憶を男に残して消えて行く。

男が決して忘れることのないように。


そして記憶から男を消して行くのだ。

女は男を内在する。

だからいつまでも押しとどめてはいられない。


男はいつも空回りするだけの哀れな存在。

受け入れてくれる存在がなければ虚しく虚空に遊ぶばかりだ。


こんなセンチメンタルな思い出をバカ正直に奈々に話したところで心を波たたせるだけ。


って、こんなこと話そうもんなら『奈々と一緒にいるのにそんなこと考えてたんですかっ!』って今度こそギーって爪の餌食になるだけでは済まず喉元ガブリっとなるな。


俺は身の安全のためにも、再び心の奥の方に懐かしい記憶を優しく沈めた。


相手を想っての優しい嘘なら地獄には落ちないよな? 

奈々?


寄り添いながら無言で海を眺める奈々と俺。

その沈黙を奈々が破る。


「雅樹さん? どうして奈々がここに来たかったかわかりますか?」

奈々が小首を傾げてそう言う。


「海が見たかったんだろ?」

そのままを言う俺。


「雅樹さんと、一緒に海が見たかったんです~」

何もわかっていないんだからと不満気に奈々が言う。


「雅樹さん? 奈々はちゃんと言う事を聞いてカフェリンダに行きます。だからひとつだけ奈々のお願いを聞いて?」

奈々の瞳に映っているのが俺だとわかるほど近づきそう言う。


「願い事?」

「そう・・・願い事・・・。雅樹さんへの奈々からのお願い・・・」


目の前に広がる空と海は光を浴びてますますその青さを深め、美しさを誇示していた。

奈々の光にくすまぬ様にと。

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