『シェルドレイクの仮説』
時間軸の設定が難しい。空想科学小説は時々矛盾が出てくることありますので気がついたら教えて下さい。よろしくお願いいたします!
静まり返るカフェリンダ。
ドキンっ!
そんな中ドキンちゃんが両肩を上げびっくりした様なジェスチャーをとる。
「キャハハハ~なんで気ぃつかへんかってんやろ! アホやんか! キャハハハハ~」
「ドキンちゃんどうしたの? 急に笑い出すから椿姫びっくりしたよ!」
椿姫だけでなく突然静寂を破ったドキンちゃんのけたたましい笑い声と関西弁に皆呆気にとられている。
しかしそんなことはお構いなしに笑い続けるドキンちゃん。
「ドキンちゃん? 何か思いついたのね?」
リンダがそう問うと、
「リンダちゃん、わてら無駄な心配しちょったんや! 考えてもみぃ~奈々はんは記憶をなくしてこっちに戻りはってもカフェリンダのことは忘れたりせ~へん! 当たり前や、奈々ちゃんは前からここのこと知ってはるんやからな!」
魔女の気怠い雰囲気から一転、けたたましく関西弁でまくし立てるドキンちゃん。
「あっ!」
ドキンちゃん以外の3人もそれに気がつき、同時に声を上げ笑い出す。
つまり全く無駄な心配をしていたのである。
「そうよ! 奈々ちゃんは京子と違って異空間での記憶を失くしてもそんなの関係なくカフェリンダには来ることが出来る! それこそ異空間のことなんてさっぱり忘れててもあたしはここにいれば奈々に会える!」
京子は青いノートを読み異空間で自分が『奈々』と呼んでいたこと、そしてまるで恋人みたいに過ごした日々を把握した。
ノートによって再構築された記憶が奈々の存在をグッと近くに引き寄せ結果、奈々と呼ばせることとなっていた。
「後は奈々はんがこの神秘の青いノートをちゃーんと拝める様にしてやらなあかん! せやないと京子はんが帰って来はったことわからへんからな! あとは時期の問題や」
ドキンちゃんの指摘にリンダが反応する。
「そうね! 青いノートによれば漆黒の津波は原則的に7日に一度出現する。 それはから別のページには異空間の時間は正常空間の約2000倍の速さで過ぎているって書いてあったわね」
「椿姫まだそこ読んでない。だけど2000倍も早く時間が流れてたら奈々ちゃんアッと言う間におばあちゃんだよ?」
椿姫が心配気に言う。
「椿姫ちゃん大丈夫よ、異空間は内的時間に関しては逆行しているみたいなの。正確な速度は把握されてないけど、つまり若返ってる? でも時間が2000倍で流れているのならそれ以上の逆行ではなければならないはず。だけどそれだとアッと言う間に赤ちゃんになってしまう。内的時間の逆行速度は単純な法則ではなさそうね・・・」
リンダが椿姫に伝えながら自分自身ももう一度咀嚼し、そして解釈しようと試みる。
「良かった、椿姫おばあちゃんになった奈々ちゃんなんてまだ見たくないよ」
椿姫がホッとした様に言う。
「問題は・・・次にいつ異空間に新たな空間が・・・もたらされるか・・・」
ドキンちゃんのテンションが元に戻る。
「京子ちゃん? 京子ちゃんが正常空間に戻ってから今まででどのくらい時間が経過してる? なんやかんやあったけどカフェに来てからはまだ1時間は経過してないわよね?」
リンダが確認する。
「多分トータルでも1時間切るくらいだと・・・体に書かれた文字と青いノートの記述を見て居ても立っても居られず、すぐこちらに来ましたから」
京子は、中空を仰ぎなら言う。
「そうすると・・・異空間から京子ちゃんが居なくなってあちらでは約1ヶ月経過している感じ・・・。原則的には7日間に一回漆黒の津波が来るから次の到来は異空間での時間で約5日後ね」
リンダが計算する。
「時折3日くらい目で到来することがあるとも記録されていました。だから前回の到来から3日経過した場合そのエリアには極力近づかないとも」
京子は自ら記録したノートの内容を新しい知識として認識する。
「だとすると・・・ここ7日間は神秘の青いノートを固定的に・・・設置しておこう。置いておく場所は・・・」
ドキンちゃんが辺りを見回す。
「ここ、ここ! 奈々ちゃんがいつも座っている席!」
椿姫が窓際の奈々がいつも座っている席に駆け寄る。
「そうね! そこにノートを置いておけば奈々ちゃんきっとノートを見るわ。几帳面な奈々ちゃんはノートがいつもの場所にない違和感にきっと気づく!」
リンダは愛しい教え子の行動パターンを読み解く。
「タイミング良く神秘の青いノートが、奈々ちゃんの元に届くと良いが・・・」
ドキンちゃんが心配気に言うと、
「ドキンちゃん。大丈夫だと思います。さっきのリンダ先生の計算でほぼ間違いないと考えます。」
「お兄ちゃん! 目を覚ましたの!」
椿姫が真っ先に声をかけそばに駆け寄る。
「ただいま椿姫、帰って来たよ」
セラが駆け寄ってくる椿姫に優しく言う。
「リンダさん、異空間へのアクセスはかなり難しく今のところいつもの様には行きませんでした。だけど奈々ちゃんが無事であることは確認出来ました。リンダさんの計算通り京子さんが居なくなってから約1ヶ月くらい奈々ちゃんは独りで過ごしている様です。」
「奈々ちゃん可哀想。椿姫だったら絶対に無理、お兄ちゃん奈々ちゃんはまだひとりぽっちなの?」
「正常空間と異空間でシンクロしているたった今の状況ではまだひとりぽっち。だけど、これも異空間ではいつもより把握が困難だったんだけど、近い未来にひとりぽっちではない奈々ちゃんの心の移ろいを察知出来ました。遠からず奈々ちゃんはひとりぽっちではなくなると思います」
「未来の心の移ろい・・・セラ君が旅する無意識の領域は・・・単純な無意識の集合体では・・・ない? 過去現在未来が同一に存在する・・・アカシックレコード?」
ドキンちゃんが小さく呟く。
「青いノートを奈々ちゃんがいつもかけている席に。そして7日間くらいそのままの状態で固定しましょう。このノートはきっと奈々ちゃんにとって重要な情報になると思います。僕はまた異空間に何度かアタックしてみます。そのうちもっとうまくアクセス出来る様になると思います」
「セラ君お願いね! さあこれで準備は万端! 奈々ちゃんは必ず神秘の青いノートの存在に気がついて京子ちゃんの無事を知り、そこからあらゆる仮説を打ち立てて必ず私たちの元に帰ってくるわ!」
リンダがそう言うと、
「リンダさん青いノートにもあたしと奈々が頻繁に異空間のカフェリンダに立ち寄ったことが記されています。奈々は必ず変化に気づく!」
京子が確信的に言う。
「僕は『シェルドレイクの仮説』で言われているように空間的相関関係により、京子さんがカフェリンダにたどり着いた段階からすでに奈々ちゃんになんらかの影響が出始めていると考えています。それはまた量子力学的にも同じことが言え、未来の京子さんの行動が異空間の奈々ちゃんに好影響を与えているとも考えています」
セラが自論を展開する。
「あたしの行動が奈々を助けている?」
京子がセラに問う。
「そうです。現在は過去に影響を及ぼし過去を変容させる。同じ様に未来が未来からの時点では、過去にあたる現在に影響を与え得ると僕は捉えています。つまり時間は矢のように一方向に不可逆的に流れるのではなく、過去現在未来は同時並行して存在し互いに影響を及ぼし合っていると」
カフェリンダの空気が震え始めた。




