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そうやって奈々に意地悪ばっかり言って!

後半戦と思っていましたが、少し長引きそう・・・

終わらせたくないという思いが話を引っ張る・・・

奈々と京子のやり取り

カフェリンダでの動きを描き

そしてラストへ向け雅樹の戦い


「奈々、もうデータが取れたから今日は帰ろう」

「もう良いの?」


「ああ、だいたいこの程度の計測器じゃあどうにもならないってわかってはいるんだけどさ・・・」

「それでも何かしないと済まないって感じ?」

小首をかしげて言う奈々の頭をポンと叩き移動を始める。


「そう言う事!」

「学校の研究室から運び出せる携帯的な計測器では限界は低いものね」


「異空間の大気状況や放射線の状況、二酸化炭素量なんかを計測して現実空間と比較することでこの異空間が何であるのか考える材料が見つかると思ったんだけどさ・・・」

「あまりにも差異が少なくて比較検証にならない?」


「さすが! 奈々はお利口さんだね~いい子だね~、さぁ行こう」

そう言うとさっさと歩き始める京子。


「ちょっと京子ちゃん待って。 また奈々のことお子様扱いして!」

京子を非難しながらも慌てて追いかける奈々。


コンパスの長さは明らかに京子の方が上。

その上奈々ときたらイメージ通り鈍くさい。

京子が普通に歩けばどんどんその差が広がるのは自明の理であった。


「奈々は鈍くさくて可愛いいね~。そう言うの男たちはたまんないんだろうね?」

笑いながらからかう様に言う京子。


「奈々は鈍くさくなんてありません。京子ちゃんが歩くの早いんだよ! もう!」

ふくれっ面で京子を追いかける奈々。


二人は時間が止まった街を歩く。


道路のそこかしこに、停止した車両がびっしりと並んでいる。

道路という道路のほとんどはこんな状況であるから車での移動はかえって効率が悪い。


どの車両も鍵はつけっぱなしの状態で置き去りにされている。

時折車両集団の先頭近くにやはり鍵がつけっぱなしのバイクが倒れている。


自立できないバイクは乗り手を失えば、だらしなく道路に横たわるしかないのだ。


「奈々、明日はちょっとやばいエリアの計測に行くからあたし一人で行くからね! 奈々はお家でお留守番~。いい子にしてたら『いい子いい子~』ってしてあげるからね~」

そう言いながら京子は奈々の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。


「もう!京子ちゃんちゃんやめて! 奈々は小っちゃい子じゃないんだから!」

「小っちゃいじゃん奈々」


京子はちょっとしたモデル並みの長身。

奈々は女性の平均的な身長であるから二人が並ぶとちょうど恰好の良いカップルの様だ。


京子はショートカットにブルーのシャツ、ジーンズと活動的な服装を好む。

遠目には中性的な男性に見間違う様相だ。

しかし何が起こるか予測不能なこの事態においては極めて全うなチョイスであると言える。


対して奈々もショートカットではあるが京子に比べると女性っぽさがふんだんににじみ出ている。

この状況下にあってもかわいらしいワンピースを好み異空間だろうとなんだろうとそれを変えることはしない。


柔軟性と言う観点からは外見と反比例し京子が上回っている。

奈々はその外見とは裏腹に頑固な一面があるようだ。


見た目も性格も概ね正反対な二人だが、なぜか気が合う。

最もこの異空間に、京子が二人、でも奈々が二人、でもきっとうまくいかないだろう。


正反対な二人だからこそである。


二人の波長はぴったり合い、じゃれ合いながらも大きくぶつかることなくこの異空間での共生が成り立っていた。


奈々と京子は夜になると奈々の姉のマンションで過ごす事がほとんどであった。


「京子ちゃん、夕飯出来ましたよ」

「ありがとう奈々! 奈々は料理は! 上手いからな~」

そう言うと京子はソファーから起き上がりキッチンに向かう。


「『奈々の料理は!』でなくて、『奈々は料理は!』 ってどういう事?」

奈々は不満げだ。


「『料理は!』 ってことだよ。奈々は~、歩くの遅い~、走るのもっと遅い~、泣き虫~、すぐ転ぶ~、え~っとそれからそれから・・・」

指折り数える京子。


「もういい! 奈々はそんなに転んだりしません!」

ふくれっ面をする奈々。


「他は認めるわけね?」

可笑しそうに奈々を煽る。


「京子ちゃんはそうやって奈々に意地悪ばっかり言って! もうご飯食べさせてあげませんから~」

奈々が京子の前の皿を取り上げようとする。


「おっとっと~危ない危ない。これは渡せませんぜ! 明日への活力! 奈々の料理は本当に上手いからなぁ~」

そう言うと宝物を慈しむように皿を頬のそばに寄せる。


「もうっ! 京子ちゃんったら、それなら奈々に意地悪言わなければいいのに!」

微笑みながら椅子に座りなおす奈々。


向かい合う二人はまるで幸せそうな男女のカップルの様だった。


「京子ちゃん? 明日はどこに行くの?」

「明日? ああ、もうすぐ死神が来ると思われるエリアだよ・・・」


「どうして? 不意に死神たちが来たら危険だよ?」

「だから~奈々はオ・ル・ス・バ・ンって言ったでしょ? それに計算上はギリギリまだ来ないだろうしね」


「でも、不規則にやって来ることもあるよ?」

「だから~、だから奈々はお留守番なんだって!」


「そんな危ないところに京子ちゃん一人で行かせるわけにいかない! 奈々だってもしもの時は少しは京子ちゃんの助けになるかもしれないし・・・」

と言いつつ自信なさげな奈々。


「例えば?」

「例えば・・・奈々ちゃんが転んで動けなくなったりとか、奈々ちゃんの背後から死神が襲ってきたりとか・・・」

「・・・した時とかに奈々があたしを背負ってくれるとか、後ろから来た死神を奈々がやっつけてくれるとか?」

「・・・・」

黙り込む奈々。


「心配しなくていいよ奈々? あたしはしくじったりしないからさ」

「でもダメ! 京子ちゃんだけを危険な目に合わせるわけにいかない!」

必死に食い下がる奈々。


「ん? 何? この食い下がり・・・。ははぁ~ん、あれだね奈々? 夕べあたしが話した怖い話! 本気にしてんだ? 」

「・・・・」

コクリと弱々しく頷く奈々。


「おっかし~奈々って超がつくほど頭良いのにあんな古典的な怪談みたいなのに弱いんだ! 独りっきりの部屋の鏡からぁ~あ~ぁ~!」

京子は鏡から手が伸びて来たと言わんばかりにその手を伸ばし恐ろしげな顔を作る。


「京子ちゃん、やめて~」

耳をふさぎ目を閉じる奈々の様子を見て声を上げて笑う京子を奈々が恨めしそうに睨む。


「京子ちゃんがあんな話するのが悪いんだよ! だから奈々一人でいるの嫌っ!」

「でもさ奈々、明日行くエリアは本当にやばいんだって」


「それでも一緒に行く! だって計算上はギリギリ大丈夫なんでしょ? 奈々の計算でも問題ないと思う」

「そりゃそうだけどさ~」

「じゃあ決まりね! 明日は奈々も一緒に行きま~す」

そう言うと上機嫌に笑う奈々。


「しょうがないな・・・奈々がそんなに怖がりとはね~。あんなしょうもない話しなけりゃよかったよ、今どき小学生だって怖がらないような話だよ?」


「京子ちゃんがいけないんです! 嫌がる奈々を面白がって怖い話なんかするから!」

「だってさ! 泣きべそかきそうな奈々・・・可愛かったんだもん~ 可愛い女の子に意地悪したくなる男の気持ちがわかったって感じ」


「もう! また奈々をからかって! ご飯おあずけですよ!」

「それは勘弁! 取り上げられる前に食べるっ!」


笑い声が部屋に響く。

止まった時の中。

完璧な静寂の中。


二つの命だけが確かに鼓動し、共鳴する。






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