エピローグ詩 祈りの詩(The Prayer)
エピローグ詩 祈りの詩(The Prayer)
――この声が、風になる。
――この風が、世界を包む。
Ⅰ 沈黙の章
沈黙は終わりではない。
それは言葉が眠る場所。
心の奥で、まだ名を知らぬ祈りが
微かに息づいている。
誰もいない夜、
その祈りは形を失い、
光でも闇でもない“間”に漂う。
沈黙の中で、人は耳を澄ます。
声なき声を聞くために。
自らの中にある“神”を思い出すために。
Ⅱ 風の章
風が吹く。
それは過去と未来を結ぶ、見えない糸。
リーヴァの沈黙が、
ユリウスの記録となり、
ノアの声となって、
今を生きる私たちを包む。
風は誰のものでもない。
しかし、すべての者がその一部である。
人は風を捕まえようとし、
記録しようとする。
だが、風は捕らえられぬ。
それは、ただ“感じる”もの。
Ⅲ 記録の章
書は閉じられた。
けれど、白紙は沈黙ではない。
そこには、無限の言葉が眠っている。
誰かが読むとき、
その空白は歌になる。
その静けさは祈りになる。
――祈りは文字ではなく、行いで綴られる。
――祈りは声ではなく、風で語られる。
ページの間を、風が通り抜けていく。
それが、記録の再生。
それが、命の書。
Ⅳ 黎明の章
光が生まれる。
誰のためでもなく、すべてのために。
それは祈りの応答でも、赦しでもない。
ただ、存在の肯定。
風は歌い、
大地は語り、
沈黙は微笑む。
――神は遠くに去ったのではない。
私たちの中に還ったのだ。
朝の光が、
葉を透かし、海を照らし、
すべての影がひとつになる。
その瞬間、
世界そのものが“祈り”だった。
Ⅴ 終章 風の祈り
わたしは沈黙を恐れない。
沈黙は、あなたを思い出す場所だから。
わたしは風を閉じ込めない。
風は、あなたと共にある証だから。
わたしは書を閉じない。
物語は、読む者の息で生き続けるから。
リーヴァの祈りは沈黙となり、
ユリウスの祈りは風となり、
ノアの祈りは言葉となった。
そして今――
そのすべてが、世界の祈りになった。
――風よ、語れ。
――声よ、眠れ。
――沈黙よ、どうか微笑んで。
それが、黎明の祈り。
それが、世界を繋ぐ最初の言葉。
完。




