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あと五日!!『宮廷楽士の夜』

 怖い体験や嫌な事を誰かに()()()()()すると、抱えてた感情が結構和らいでくれたりする。

 ははは、言っちまえば愚痴だな。


 けど結構いいもんだと、俺は思うよ。


「宮廷の景色はどうだったよ、メイリー」


 酒場を抜け出してきた夜半、再会した昔馴染みの吟遊詩人へ俺は問い掛けた。

 彼女は今、リュート一つ背負った身で道の脇にある石壁上を歩いている。


「それとも、如何でしたか三代目ローラ様、とでも言ってやった方がいいか?」


 ふざけて言うと、メイリーの足元で石が噛み、抗議の視線が飛んできた。


「あらあらお上品なお言葉遣いがお出来になるようですねおロンドさん。気持ちの悪いこと言ってないで、ほら」


 昔馴染みと交わすご丁寧な会話は確かに気持ち悪かった。

 俺は肩を竦めて腕を掲げ、その掌の上へ乗って来たメイリーを右手から左手へ、階段作って降ろしてやる。

 別に俺の身長程度の段差、降りられないほどじゃないだろうけどな。


 昔一緒に特訓してる時、小柄なコイツを持ち上げて筋力付けようとか、馬鹿なことをやってた記憶がある。

 あの頃はお互いクソガキ同士。

 失敗して折り重なり合ったりしたことも……とまあ、それはどうでもいい話か。


 高い所を気ままに歩いて、飽きたら人を階段にして、降りたら降りたでリュートを抱え直して演奏を始めた。

 小さいけれど、長くて細い、メイリーの綺麗な指が弦の上で躍る。


 なんとも、懐かしいくらいに昔のままだ。 

 音色は間違いなく磨きが掛かってるんだけどよ、根っこにあるものが同じって感じがするんだよ。


「宮廷でもそんな感じにやってたのか」


 演奏に声を重ねる野暮も、互いの関係を思えば慣れたもの。

 というか、吟遊詩人ってのは本来、酒場でワイワイやりながら演奏するものだからな。

 ご清聴を、なんてお高く留まった奴らの言う事だ。

 一緒に盛り上がってこそ、演奏は完成に近付く。


「私の振る舞いはお上品過ぎると、担ぎ出されるお茶会では専らの噂だったよ」


 跳ねる音色に乗せて、謳うようにメイリーが言う。

 その言葉に俺は思わず飛び出す笑いを誤魔化して、ほうっと感心してみせた。


「下町育ちのやんちゃ娘が随分な変わりようだな。是非、一度見せて貰いたいもんだ」


「あぁ、王族に仕える宮廷楽士がこの程度かとか、そんな舐めた口を利いてきた連中を、私のこの演奏で時間も忘れて黙り込ませることには定評があってね」


「おい」


「聞かせる為の演奏と、会話を邪魔しない演奏は別物だよ。けど、卑しい者の演奏はとか言ってた得意顔のご婦人が、焼き菓子へ齧りつこうとしているまま呆けてる様は中々に愛らしかったね」


 得意げに語るメイリーの指先から発せられる音は、確かにそういう力がある。

 昔も結構なもんだったが、宮廷だけじゃなく、二代目……お師匠さんとも各地を回って腕を磨いてきたんだもんな。


 しかし、蹴りが出るか、音が出るか、か。


 その変化を成長と呼んでやってもいいが、宮廷冗句を語る顔が晴れ晴れしくて、認めてやるのが癪でな。

 第一に、違いはあるけど行動の根っこは変わってない。


「やられた方も不幸なこった……ご褒美と羞恥責めを同時に受けることになるんだからよ」

「あははは!」


 俺の言い様が気に入ったのか、メイリーは月夜を蹴っ飛ばすみたいに笑って、それから続けた。


「それ以外だとそうだね。あぁ、一つだけ、どうしても慣れない仕事があったな」

「ほう。お前にそう言わせる仕事があるとは驚きだ。後学の為に是非知っておきたいな」


 言えよと煽ったのは俺だけど、次に出てきた言葉は流石に予想外だった。


「先代……私の師匠がさ、愛人やってた王族の人と盛り上がってる横で演奏するんだよ」


 おいやめろ、という俺の訴えは無視された。

 メイリー以上に勝気で、演奏馬鹿だったお師匠さん、俺だって知らない相手じゃないんだぞ。


「性欲に身を任せてる時の人間ってどこまでも馬鹿になるんだなって学んだね。特に縄を」

「聞きたくねえよ」


 弟子の苦労話に頭を抱えたり奇声をあげたり、俺の様子を眺めながら、メイリーは心底楽しそうに笑って、演奏を続けていた。


 前言撤回……愚痴は程度を弁えろ。

 いや、やってもいいけど、親しかった年上女性の性癖とか知りたくねえよ!?





















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