あと四日!!『獣族は笑い踊る』
ギルド会館には中庭があって、よく狩人なんかが飼い慣らした相棒を休ませたりしている。
ただ、俺がちょっとした手続きついでに顔を出した時には、仰向けになって手足をじたばたさせる猫が居て。
「……なにやってんだ、ディトレイン?」
声を掛けると、獣族の少女が身体を捻ってこちらを見た。
彼女は猫耳をぴくりとさせて、パァっと表情を明るくして声を張る。
「ちょうちょ!!」
言った鼻先になんとも鮮やかな羽模様の蝶が降り立ち、途端にディトレインは動きを止めた。
手をピタリ、足をピタリ、猫耳と目だけは蝶を追い掛けぎゅっと鼻先に向けられて、動けない力みをすべて引き受けたみたいに尻尾がばったばったと跳ね回る。
「なるほど、遊んでたわけか」
人族に比べて獣族はより自然に近いとも言われる。
言葉を交わしているところは見たことがないけど、なんとなくで意思疎通じみたことが出来るのかも知れん。
あれだけ暴れていたのに自ら寄っていって、羽休めをする蝶を見ながら俺も近くで腰を落とす。
「ロンドさんは?」
と、駆け出そうとして足を滑らせたみたいな姿勢のまま固まるディトレインが聞いてきた。
「ギルドに野暮用でな」
「ほー」
蝶が飛び立ち、二人揃って視線でその行く先を追う。
あたたかい、いい風が吹いていた。
ここのところ寒さが増してきたかと思っていたが、もう少しばかり冬の到来は遅れてくれるのかもしれない。
だから蝶も、もう一働きでもしようかと表へ出てきたのかもな。
あるいは、残り時間を思う存分遊び倒そうとしているか。
「にゃはは。ロンドさん寝不足だぞー?」
「うん? あぁ」
昨夜はちょいと、今日の野暮用に向けての準備で明け方まで起きてたからな。
徹夜なんざ倉庫番の依頼でも受ければ当たり前にやるが、眠いものは眠い。というか、誤魔化す……というよりは不調があっても平然と振舞えるように慣らしているつもりだったが、こうもあっさり見抜かれるとはな。
「獣族は鋭いな」
感心しながら言うと、やや丸めた手で鼻先を突かれる。
「訂正。ディトレインさんは仲間をよく見ていらっしゃる」
「にゃははっ!! 大事なパーティメンバーだもんっ。これでもお姉ちゃんだからねーっ」
彼女が俺より歳上って意味じゃないぜ?
そういや前に妹が居るとか言ってたな。
さて、姉が寝転がって蝶と戯れるところを見るに、二人揃ったらどうなるのか見てみたいもんだが。
なんて思っていたらディトレインがあくびをした。
大口開けて、目をきゅっと閉じ、手足を伸ばして。
「ふわ…………はぁ」
「ん…………ぁ、あ、んん」
釣られて俺も貰いあくびが出た。
なんとも、彼女の周りに居ると気楽になる。
感情ってのを隠さないからかな。あくびみたいに釣られて素直になっちまう。
そうして猫は草地に身を丸めて膝を抱え込んだ。
「おやすみぃ、ロンドさぁん」
「おう」
ここは所属ギルドの、中庭だ。
所属してる奴が漏れなく大親友、って訳じゃないにせよ、身内に率先して手を出すような馬鹿は滅多に居ない。
放っておいても大丈夫だろう、なんて思って立ち上がろうとしたら、俺の足首にディトレインの尻尾が巻き付いてきた。
「とんとん」
言葉通りに彼女は自分の隣の地面を叩き。
「おひるね、きもちーよ」
「はは。わるくない」
幸いにも今日はもう一仕事終えて、後は飲みに行くかどうかって考えてたところだしな。
健康的に酒を愉しむのも良いが、惰眠を貪るのも実に良い。
「気遣ってくれて、ありがとな」
「にゃぁ…………」
か細く鳴いたディトレインの髪に、戻ってきた蝶が留まるのを見ながら、俺もそっと身を横たえた。
今日はいい天気だ。
空気もまだ、温かい。
冬の訪れは近いけど、もう少しだけのんびりと、眠っている時間くらいはあるだろう。
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