理想心中延長戦
僕の卒業祝いで京一さんとママが高級寿司に連れて行ってくれた。カウンターしかない席で僕は京一さんとママの真ん中に座って、寿司ができあがるのをまじまじと見ていた。
「すごい手捌きだよね」
「はい、職人技って感じです」
京一さんもワクワクしてるみたいで、僕と同じように寿司ができあがるのを見ていた。
「鮪でございます」
と出された鮪を手で掴んで醤油に付ける京一さん。ママは箸で掴んでいる。僕は何で掴めばいいのかわかんなくて、二人を交互に見つめていた。そしたら、
「湊の好きなように食べな」
と京一さんに助言された。そんな京一さんを見習って僕は手で掴んで頂くことにした。口に入れた瞬間、鮪が一瞬で蕩けた。
「この鮪、蕩けますね」
「鮪の筋をあまり感じないね」
「板前さんの切り方が上手なのよ」
三人でそんな会話をしながら、美味しいお寿司に舌鼓を打った。京一さんとママは日本酒を飲んで楽しそうにしている。大人ってちょっぴり羨ましい。
「良いなぁ。ママも京一さんもお酒が飲めて」
「大人になるまで我慢だね!」
と京一さんは楽しげに日本酒の入った杯を傾ける。
「僕だってもう高校生になるんですよ?」
「そんなこと言ったって、二十歳までは法律的にダメだからね!」
「早く大人になりたいです。僕だけ仲間はずれみたいで嫌です……」
オセロだったらひっくり返ってる。でもそんなの現実世界では通用しない。僕は一人虚しくあがりを啜った。
「俺は湊のが羨ましいよ」
「何でですか?」
「子供の頃、世の中の全てが新鮮で楽しかったから。何を見てもワクワクした。だけど大人になるにつれて、そんな新鮮さはなくなって、ただ現実逃避で退屈を誤魔化すようになってくる。その現実逃避の一つがお酒っていうアイテムだよ」
京一さんはちょっぴり悲しそうに微笑んでそう教えてくれた。
「……何だか大人になるのが嫌になってきました」
「ふふっ、大丈夫よ。大人になってからも新しいことにワクワクしたり、胸がときめいたり、ちゃんとするわ」
ママは京一さんとは真逆のことを言った。僕は頭がこんがらがってきた。京一さんの言ってることも正しいだろうし、ママの言っていることも正しいだろうから。
「でも、京一さんは胸がときめいたりしないって……」
「あら?そしたら、湊とは付き合ってないんじゃないかしら??」
ママは京一さんの顔を覗き込む。京一さんは嘘がバレた時のように笑って、
「あははっ、人生の先輩には敵いませんね!」
とママに対して言った。ママはちょっぴり口を尖らせて「年寄りみたいに言わないでよ……」と小声で愚痴を零していた。
「じゃあ、京一さんもワクワクしたりドキドキしたりすることがあるんですね!」
「あるよ。心が死んだように錆び付いてるけどね。たまーにある」
「良かったです。少しでもあったなら」
京一さんにそう言うと、京一さんは「そうだね」と微笑んだ後に、杯をグイッと傾けてお酒を飲み干した。
いきいきしてる人間とは永遠に分かり合えない。何が楽しくて人生を生きてて、何がそんなに行動的にさせるんだ。分からない。俺は何もできないから。人生が楽しくないから。毎日、今日死んだらいいなって思いながら生きている。世界がずっとモノクロで、その中でちょっぴり気になることに出会って、少しだけ楽しくなることはある。でもそれが生きる理由にはならない。人生って何が楽しいんだっけ?あ、何か酒飲むとどうでも良くなるな。
「京一郎くん顔真っ赤よ?大丈夫??」
湊は前を向いて頑張っているのに、俺は後ろ向きな考えばかり並べて、鬱だと喚いて甘えているだけ。湊の足引っ張ってるだけだな。消えてしまいたいな。ふとそんなことが脳内を過ぎる。高層マンションの屋上から飛び降りれば、こんなこと考えずに済むのにな。
「あははっ!大丈夫っすよ!!俺、酒強いんで」
と心配は馬鹿笑いで笑い飛ばして、まだ大丈夫まだ大丈夫だと自分に言い聞かせる。もう嫌だよ、こんな人生。
「京一さん、肩貸しますよ」
店から出る時、少しよろけたら湊が俺の手を取って、腕を自分の肩へと回す。
「ふふっ、別に大丈夫だって」
なんて強がりを言いながら、湊に寄っかかって甘えてる。タクシーに乗り込んで、夜の街を車窓から眺める。この暗闇に呑まれてしまえばいい。
「じゃあ、京一郎くん。湊をよろしくね」
タクシーでは気持ち悪さに抗うのに精一杯で何を言ったか記憶にない。あっという間に自宅前に着くと、澪さんからそんなことを言われて、湊を託された。俺は回らない脳内で澪さんを抱きしめた。
「澪さん、ありがとうございます。またお会いしましょうね」
と彼女の頬にキスをした。何となく、全人類にキスして回りたいくらい全てがどーでもよく思えたから。
「あら、京一郎くん。湊が嫉妬してるわよ?」
後ろを振り返ると、不貞腐れた表情の湊がいた。
「ん?ただ期待してるだけだよね??」
と湊の顎を撫でると、湊はそれがくすぐったいように笑った。
「ふふっ、はい。客観的に見ると、京一さんってこんなえろいんですね!」
「あははっ!もう湊が我慢の限界らしいんで、これで!」
と湊を言い訳にして、澪さんと別れた。澪さんは湊に「ふふっ、楽しんでおいで」と大人っぽく微笑んで手を振っていた。
ガチャンと玄関を閉める。湊とやっと二人きり。身体の怠さが酷くて、吸い込まれるように布団に寝っ転がる。
「京一さん、しないんですか?」
湊は寝っ転がる俺に覆いかぶさるようにしてそう聞いてきた。
「はぁ、少し休ませて」
と酒鬱が来て、面倒くさそうに答えてしまった。優しくしたいのに。すると、湊は俺の腕の中に入ってきて、横向きで寝っ転がりながら向かい合って抱き合う形になった。
「京一さんの身体、熱いですね」
湊が俺のシャツの中をまさぐる。そんなにくっつかれると性欲を刺激させられる。
「みにゃとぉ、みにゃと……」
俺は甘えるように湊の名前を呼んで、安心感を求めるようにゆったりとキスをした。
「ふふっ、少し休むんじゃなかったんですか?」
「もう休んだ」
快楽を求めて腰を擦り付けて、酔った感覚の中、目が覚めるような刺激を欲しがった。
「えっろ……。この制服もう汚しても大丈夫ですよ」
「やったぁ!」
上気した脳みそが溶けたようにお互いを求めて、いつも通りに繋がった。気持ちよさしか感じない場所では死なんか考える余地がない。
「みにゃとぉ、離れないで」
「離れないですよ」
「何だか、湊が離れていく気がして怖いんだ」
「安心してください。そんなこと絶対にありえませんから」
湊はちゃんと俺の欲しい言葉をくれる。だけど、俺はそれすら信じられなくて、縋るように湊を抱きしめる。だって、お前は俺とは違うから。
「俺の全部をあげるよ。心臓も何もかも全部」
「僕、京一さんで僕の中がいっぱいになる時、想像を絶する幸福を味わえるんです。もう僕は貴方の中毒者です。貴方なしでは生きられません」
「じゃあ、俺から離れる時はちゃんと死んでね」
と言った瞬間、湊は目を伏せた。
「……わかりました。約束します」
湊には嘘が通用しない。冗談が通用しない。その代わり、湊は言葉の重みを知っているから、約束はちゃんと守ってくれる。俺はこいつにどれだけ呪いをかければ満たされるんだろう。
ずっと心にぽっかりと穴があいたまま。繋がると一人じゃないと知れて、その時ばかりは満たされる。けれど、離れると俺は孤独だと知って、死にたくなる。ずっと傍にいて欲しい。俺が抱きしめたい時に抱きしめさせて欲しい。俺に付きまとう希死念慮が君であったなら良かった。
「冷たいよ、湊は。とっても冷たいよ。俺を置いていくんだから。一緒に堕落した場所で死のうって言ったじゃん……」
「それは京一さんが死にたいだけですよね?僕は京一さんと生きていたいんですよ!!」
「そんな無茶なこと言わないでよ。俺もう生きるのしんどいよ。疲れた。限界なんだ。お願いだから、死なせてくれよ」
「そんな無茶なこと言わないでください。僕は京一さんがいないと生きている意味を失います。お願いだから、生きててください」
「お前って、鬱陶しいね。もういらない……」
「は?京一さんのが冷たいじゃないですか!僕が死ぬのを許さないのがそんなに気に食わないんですか?」
「湊と一緒なら生きてもいいと思えてたよ。だけど、湊はさ俺と一緒に苦しんでくれなくなったじゃん。俺のことを置いて、順風満帆な人生を歩んでる。褒められたことだけど、そんなお前を俺は必要としない」
「僕に鬱になれって言ってますか?」
「そーゆーことじゃないよ。ただ俺が死ぬことを許して欲しいの」
「許せませんよ。許したくありません……」
「ほら、そーゆーところ。俺の気持ちを大切にしてくれない。俺を置いていったのも、そのせいだよね」
「何なんですか?貴方も僕の気持ちを大切にしてくれないじゃないですか!?」
「確かに。お互い様だね。じゃあ、別れる?」
「僕と別れたらそれこそ死ぬじゃないですか」
自傷行為のように別れを告げた。それを湊もわかっているようで、俺のことを引き止める。
「湊のことは愛してるけど、湊には俺が必要じゃないよ」
「何でそう言うんですか?僕はこんなにも貴方のことを愛しているのに、何でそれがわからないんですか!?」
「わかんねぇよ!!……わかんねぇから、こうやって縋ってんじゃん」
湊の愛情がわかんなくて、確かめたくなって、愛の言葉を引き出そうと彼に不満を言う。どーせなら、愛の言葉を言えばいいのに、それすらできない俺も本当に愛してるの?って感じ。湊とは長い付き合いになってきて、喧嘩も増えてきた。前までは俺が死にたいと言えば、慰めて寄り添ってくれてたのに、最近では酷く怒り始める。俺の死にたい病が治んないってバレちゃったからかな?あーあ、じゃあもう終わりじゃん。湊は諦めたんだ、俺を。希望を見捨てたんだ。
……おえっ。目まぐるしく脳内を回して思考に耽っていると気持ち悪くて吐いてしまった。湊が俺を見捨てようとしているって、そう結論付けてしまったから。俺は、湊がいないと生きていけないって、あれほど湊に言ったのに。
「京一さん、大丈夫ですか?」
「いつもの吐き癖。すぐ治るよ」
「大丈夫ですよ。僕がいますから」
と背中をさすってくれる。こういう時だけ、優しさをアピールしてくるのがずるい。いつもは俺に冷たいくせに、俺が弱ってる時だけ優しくするんだから。俺はいつまでもその優しさに甘えて病気でありたいと願うんだ。
「おえっ……はぁ、はぁ、つらい……」
気持ち悪さで涙が止まらない。それとも、湊を失う恐怖からなのか。
「震えてる……寒いですか?」
湊は上着を探そうと俺の傍から離れようとする。俺はそんな湊の手を掴んで、
「俺のこと抱きしめて」
と何とも可愛らしいお願いをした。それくらい限界だった。湊が離れるのが嫌だった。ほら、俺はこんなにもお前のこと好きじゃん。お前と違って。
「これで……いいですか?」
後ろから軽く抱きしめられて、ぎこちなく反応を伺ってくる。俺はこくんと頷いて、涙を流しながら嘔吐を続けた。
「あぁ、もったいねぇな。高級寿司だったのに」
「お酒飲みすぎなんですよ」
その言い方に少し刺がある。あーあ、嫌になる。
「俺、今さ、お前のこと殺したいくらい憎いよ」
「じゃあ、殺しますか?僕は貴方になら殺されても構わないですけど」
「でもやっぱりさ、客観的に見て、お前の方が将来有望なんだよ」
「そんなこと気にするんですか?」
「お前は気にしないだろうけど、俺は気にするよ。世間体って奴さ」
「世間体を気にする人が殺人を述べないでください」
「それもそうだけどさ、何かこう、お前に言いたかったんだよ」
「僕のことを殺したいのは分かりましたよ」
「愛してるんだよ。本当は。吐くくらい愛してる。実際は。……訳わかんないよね」
「はぁ、僕も愛してますよ。信じてください……」
俺達は確実に愛し合っているはずなのに、何故かどんどんすれ違っていく。俺のげろを君が飲んで、君が堕落すればいいのに、なんてたまに思っちゃうよ。
身体が気持ち悪さに支配されている。脳内がぐわんぐわんして、絶望しきってる。あー、死にたい。死んじゃいたい。いなくなってしまいたい。この気持ち悪さから逃れたい。
「死にたい」
そう俺が感情をストレートに表現すると君は嫌そうな顔をする。そんな顔を見せられると、もっと死にたい気持ちが加速するの、わかんないのかな?
「何で?僕のこと愛してるんですよね??」
「愛してると死にたいが並走してるんだよ。その2つは対義語じゃないからね」
「貴方が死んだら僕がどれだけ悲しむか……」
「じゃあ、デモンストレーションしてみせてよ」
「え?」
「俺の前で泣いて」
そう湊の頬に触れると、湊はその手を弾き飛ばした。
「馬鹿なこと言わないでください!!」
湊は怒って、俺の傍からいなくなってしまった。俺、そんなにまずいこと言ったかな?あー何だかもう、すげぇ死にたい。俺の細胞全てが弾け飛んで何一つ残らなくていい。そうだよ、それでいいんだよ。世界が俺を拒絶するなら、俺もそんなゴミみたいな世界を拒絶するだけだから。
濃厚なキスを楽しむように俺は自分の身体に傷を付けて悦に浸る。正解が見えない人生の中でこれが正解だと思わせられる程、単純でわかりやすい快楽だった。でも、人生というものは地獄だ。快楽を得ても、それがゴールではない。出口のないトンネルをずっと歩かされている気分だ。
「京一さん、もう自傷行為ダメです……」
湊が包丁を持っている手を掴む。
「えー?何でー??」
「これ以上は苦しくなるだけです」
「ふふっ、湊がそーゆーんならそーなんだろうね!」
俺は納得して包丁から手を離して床に転がした。
「京一さん、死にたい以外で何かしたいことはありますか?」
「えー、死にたい以外で?……無理。何もない」
快楽の終わりは悲惨だ。楽しい気分から絶望へと蹴落とされる。身体の震えが止まらない。あぁ、殺して。はやく殺して!!
「京一さん、大好きです。愛してます。だからお願いです、死なないで」
俺はそうストレートに愛情表現してくれる彼を見て、一つだけ、やりたいことを思い付いた。この死にたい気持ちを上回る快楽を得ることだ。
「……んっ、みにゃ……んんっ……」
ディープキスをして、思いっきり湊に甘えた。狂ったようにその行為に熱中しなければ、死には勝てないから。
「どうしたんですか?いきなり甘えてきて」
「……ダメだ。死にたい」
このどうしようもない気持ち悪さには勝てなくて、また吐いてしまった。もう何もかもどうでもいいからさ、俺の命を奪ってくれ。
「ダメです。死なせません」
湊はげろがかかっている俺の身体を躊躇なく抱きしめた。俺はそういう愛に飢えていた。
「湊がこうしてくれると死にたくなくなるね」
「そうですか」
「だからずっと傍にいてよ」
「ずっと傍にいますよ」
湊は優しくそう言ってくれる。
「あははっ、わかってないよ。全然わかってない」
「何がですか?」
「このまま抱きしめ合ったまま、餓死しちゃえばいいのに」
たぶん俺はずっとどこまで突き詰めても死にたいんだ。だから、どーせなら君と一緒に死にたいんだ。
「京一さん、僕ももう死にたくなってきちゃいました……一緒に死にましょうか」
俺はその言葉を本当にずっと待ち焦がれていて、やっと湊の口からそれを言って貰えると救われた気がした。
「湊、大好き!」
俺は湊を抱きしめて、嬉しさにまかせてゆらゆらと揺れた。それにつられて君もゆらゆらと身体を揺らす。この幸せが永遠と続けばいいのにね。
湊は中学を卒業して、第一志望の高校に入学するはずなのに、それを蹴って俺と一緒に死んでくれる。その背徳感はとてつもない快楽を生み出した。湊は人生をかけて俺を選んでくれる。湊にとって、俺は特別なんだ。愛してる人から愛されることほど幸せなことってないと思う。
湊は愛用のカッターで自分の腕を深く傷付けた。脂肪が見えるくらい深く傷付けた。
「あはは、これで死ねますかね?」
湊はそう笑ってくれた。俺と一緒に死ぬのが嬉しそうみたいに。
「湊、俺の首を絞めて?俺を殺してよ」
俺はもう湊の愛情がわかったから生きるも死ぬもどっちでも良かった。どーでも良かったが、どーせなら死にたかった。
湊が俺の首を絞める。湊の血液が首筋を伝う。生暖かい感触が生きていることの尊さを再確認させられた。
「できることならば、貴方と一緒に生きたいとまだ思っちゃってます。京一さんはどうですか?」
湊の手が震えてる。つらいことを飲み込んで誤魔化すように微笑んでいる。
「湊のことは愛してる。けど、死にたい気持ちもちゃんとある。生きるとしても、俺はこの人生をどう生きればいいか、わかんないよ」
「不安でいっぱいですよね。わかってます、僕が頼りないことも。全部わかってますから」
湊は自分を責めるようにそう言った。俺は小さく横に首を振った。
「湊は悪くないよ。死にたくなる俺が悪いんだよ」
「京一さん、貴方って驚く程に綺麗ですね!」
湊は片手で俺の首を絞めながら、もう一方の手で俺の頬を撫でる。
「そんなお世辞言ったって、死ぬのはやめないよ」
「いいえ、お世辞じゃないですよ。貴方って、この世に存在しているのが奇跡なくらい純粋で綺麗で心優しい人間ですよね」
湊は恍惚とした表情で血のついた指先で、俺の頬をゆったりと撫でている。
「もしかして誰かと間違えてる?俺はたった今、お前にキスしたくてたまらないんだけど?」
とキスをせがむように顎をクイッと持ち上げて、湊を誘った。
「そういうところが天使だって言ってるんだよ」
湊はちょっぴりキレ気味にそう言うと乱暴に押さえつけるようなキスをしてきた。
「んんっ……天使はこんな汚らしいこと考えないよ……」
「じゃあ、貴方はきっと悪魔ですね。僕を地獄に引きずり込む悪魔」
「せいかーい!ねぇ、だからさ、一緒に死のう?」
両手を広げて、湊のことを包み込むように抱きしめた。そして、俺の腕の中にいる湊に甘えるようにそう囁いた。
「その前にもう一回、貴方とセックスがしたい」
「いーよぉ、快楽に溺れて腹上死してあげる♡」
精神の極限状態での快楽はそれこそ福音のように感じられた。あーあ、俺ってなんでこんな幸せ者なのに死ぬことを考えてるんだっけ?性に溺れる俺と現実に死にたくなる俺が身体の中に2人いる。あ、幸せだから死にたいんだ。と辻褄を合わせて、俺の首に手をかけている湊の手に手を重ねて、ぎゅっとさらに気道を塞いだ。湊との身体の繋がりが心地よかった。
「ダメ。京一さん、死んじゃう……」
それって気持ち良くて言ってるの?それとも、俺が死ぬことを心配してんの?
「死んでいいんだよ。死んだらもっと幸せだ」
「こんな気持ちいいのに?死んだらもう二度とセックスできないじゃん」
快楽を求めて俺の上で腰を動かす湊は不満げにそう唇を尖らせた。けれど、俺が下から突き上げるとその顔が緩んで、喘ぎ声が漏れながら快楽に囚われてる表情しかできなくなっていた。
「確かに。それは残念かも。湊のこんな可愛い顔が見られなくなるなんて」
と笑っていると湊は俺の上に覆いかぶさってきて、
「京一さん、一生セックスだけしてましょう??僕が稼ぐから、貴方と一生セックスがしたいですぅ」
と俺の乳首をくるくると指先で弄りながら、甘えたように言ってきた。
「ふふっ、ふざけてる?」
「なっ!ふざけてなんかないですよ!!僕は真剣に貴方と……」
という彼の口をキスで塞いだ。
「じゃあ、もっと生きたいと思えるほど気持ち良くさせて?」
そういうと湊は太ももとお尻に力を入れて、キツく俺のを包み込む。思わず喜びのあまり舌が出ちゃう駄犬のような表情をしていた。脚がビクビクと震える。
「京一さん、気持ちい?」
「あぁ、イキたい……」
「ずっとその言葉が聞きたかったです。生きていいですよ」
と言われると俺の全てを優しく受け入れられたみたいで頭がクラクラした。
「はぁはぁ……やっぱ俺は湊がいなきゃ死んでるね!」
「僕がいるんだから死なないでください。これずっと言ってますよ??」
「わかってる、ごめんね?」
と気分良く軽く謝ると、
「……京一さんだから許しますけど、」
とそっぽを向きながら、小声で言われた。
「湊、絆創膏貼ってあげる!どれがいい?これ新しく買ったんだ!」
キッチンの引き出しに貯めてある絆創膏をたくさん持って湊に見せびらかした。
「京一さん……」
と湊は俺の名前を呼ぶとわんわんと泣き出してしまった。
「え、湊……。ごめんね、何かつらかった?」
「ううん、京一さんが生きてて良かったあ!!」
そう号泣されては、やっぱり死にたくなる俺が悪いみたい。無理させて付き合わせて、自傷行為させた。俺がみんな悪い。
「ごめんね、もう死にたいとか言わないよ」
「本当ですか?」
「本当だよ。約束する」
「ありがとうございます。大好きです」
「ん。俺も好き」
愛し合うって我慢の連続だ。自分を殺してまで湊を味わう気持ちはどうだ?心地いいか??
「京一さんのためなら、僕は何でもしますよ」
こんなに愛されてどうだ?気持ちいいか?
「あぁ、ありがとう」
なんだ、悪くねぇな。




