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キラキラ見えるものは全部君のもの、俺には穢れたものだけくれればいいよ

受験が終わってから、僕はずっと京一さんと一緒にいた。勉強もせずにずっと京一さんと休息を楽しんだ。何もしないって、羨ましいようで退屈だ。ホラー映画と性的快楽を交互に摂取して、退屈を凌いでいた。


「京一さん、次はこのホラー映画を……京一さん?」


彼は布団にくるまって丸くなった背を僕に向けながら、ずっと壁を見つめている。本当に何もしたくなさそうに。ただ息をしている。


「京一さん、疲れちゃいましたか?」


「……ごめん。一人にさせて」


京一さんは自分の体調が優れない時は、いつも一人になりたがる。迷惑をかけないように、余計に心配させないように。相手を傷つけないように。


「賢者タイムですか?」


「うーん、もうできない……」


そうだよね。僕の方が性欲がある。僕の方が体力がある。僕の方が京一さんのこと……いいや、そんなことは考えたくない。けど、いつもセックス後につらそうに「もうできない」と言わせてしまうのが、悩ませてしまうのが、僕はつらい。僕の性欲がもっと薄ければ良かったのに。


「大丈夫です。ありがとうございます。京一さんと繋がれて幸せでしたよ」


と僕は彼の頭を撫でた。すると彼はその手を軽く掴んで、指を絡めた恋人繋ぎをした。


「ずっと、繋がってたいね」


弱々しくそう言う彼に僕の庇護欲と性欲がかき立てられる。


「可愛すぎ。めちゃくちゃちゅーしたいです」


と上から覗き込むように顔を近づけると、


「ふふっ、やだ!さっき散々したじゃん」


と軽くビンタされた。


「だけど、足りないです。ずっと貴方を感じてたい」


僕の性欲と貴方に対する好意がドロドロに混ざりあって、貴方を求めるのがやめられない。僕はジャンキーだ。


「……いーよ。甘いね、俺は」


と軽くちゅんと唇を可愛く突き出す貴方に僕は貪るように濃厚なキスをした。可愛い可愛い可愛い可愛いセックスしたいセックスしたいセックスしたいセックスしたい。僕の脳内は馬鹿みたいにそれで十割を占めていた。


「あーあ、また勃っちゃいましたぁ」


片手で自慰をしながら、京一さんとキスをする。すると、京一さんが意地悪するように僕の自慰の手を止めた。


「俺に弄らせてよ」


そう言って、彼は自由気ままに遊ぶように手を動かす。じれったくて仕方がない。けど、僕は彼に弄られているという事実だけでイきそうだ。


「んっ、えろい手つきですね」


「ここ、気持ちいい?」


「はい……」


僕の気持ちいいところを見つけて嬉しそうに、そこばかり重点的に弄ってくる。


「すごい、ドクドクしてるね」


「うん、イッちゃいそう……」


と下腹部に力を込めると、彼は手を動かすのをやめる。


「後ろも弄ってあげよっか?女の子にするみたいに」


なにそれ!どちゃくそえろい!!


「してくださいぃ、お願いしますぅ」


我慢ならなくて無意識に腰振って、下品に懇願してしまった。けどそんな僕を見ても、彼は引かずに僕のおしりの割れ目を指でなぞった。


「湊のナカ、まだ柔らかいね」


「んっ、やば!すぐイク……!!」


彼の指先がちょうど僕の気持ちいいところをトントンと優しく刺激していて、僕は今にも意識が飛びそうだった。


「我慢してんの?」


「だって、京一さんとずっと、繋がってたい、からあっ!」


「えっろ……俺も勃っちゃったじゃん……」


そう彼の細長い指とは違う、圧迫感のあるもので奥までどちゅどちゅ突かれる。僕は彼をぎゅっと抱きしめて、


「もう動かないで」


とお願いした。


「イッちゃうから?」


「うん、ずっと繋がってたいの」


「あ、今すごいキュンキュン締め付けてきてる。軽くイッちゃった?」


と意地悪く聞いてくる。分かってるくせに。


「は、恥ずかしいです。やめてください」


「可愛い。俺も、永遠にこのままが良い」


そんなことを言いながら、彼は腰を軽く揺らす。イキたくて堪らないかのように。このままを終わらせたいかのように。


「んっ、賢者タイムで死にたくなるくせに」


「あ、それ湊の本音だね。じゃあ、やめる?」


「いや、あっ、ごめんなさい。続けて?」


僕も快楽には勝てなくてイキたくて堪らない。腰を動かして、自分の気持ちいいところに当てている。


「ふふっ、もう立派な変態だね。謝りながらお願いするなんて」


「その変態が好きなのはどちら様ですか?」


「はーい、俺でーす!」


と機嫌良く抱きついてきたかと思えば、僕の身体が逃げないようにがっしりと掴んで、奥まで届くように激しく腰を振る。気持ち良さのキャパが限界にきたように僕は脳内が真っ白になって、ただ壊れたロボットのように「ああああ」と喘ぎ声を出しているだけだった。


京一さんがイク時、精子を奥まで届けようと下半身の筋肉がこわばる。その仕草が何とも可愛らしい。そんなことしたって、僕との子供はできないのに。けれども、京一さんの精子が僕の奥まで届く時、僕は何とも言えない幸福感に襲われる。この中毒になっている。


「気持ち良かったです」


と僕が幸福感いっぱいに言うと、彼はそれなら良かったよと素っ気なくだるそうに言って、また布団にくるまる。もう一人にしてくれ、ほっといてくれという彼の無言の圧力を感じて、僕はシャワーを浴びてから自宅に帰った。


自宅に帰ると、お母さんが駆け寄って僕のことを出迎えてきて、何事かと思ったら、


「湊、合格だって!」


と言われた。僕はその場でたち呆けて、開いた口が塞がらないまま、


「嘘……?」


と一言。玄関で涙を流してしまった。



あーーー、セックスってまじで何なんだろ。してる瞬間は楽しいのに、終わった後はしなきゃ良かったという後悔に苛まれるばかりで、楽しい瞬間とつらい時間が割に合わない。身体は思うように動かなくなって、だるい頭でただ死にたいと考えるだけの時間が俺を待っている。少しでも気分が良くなる方へと煙草に手を伸ばし、少しでも気分が良くなる方へと包丁に手を伸ばした。あーーーー、何で俺って生きてるんだろう。俺の人生、こればっかりだ。


サクッと手首を切って、赤い血が流れるのを見ていると、何だか気分が良くなる。痛いとか感じないレベルにどーでもいい。それくらい気分が良いんだ。そして、赤い血をぼーっと眺めていると、あぁ、俺って正常じゃないんだなって。生きづらくて当然だと安心できる。じゃあ、さっさと死なせてくれよ。とふつふつと浮かび上がる怒りを忘れるためにまた馬鹿みたいに切って、気分を上げてその繰り返し。こんな時間の浪費して、残るのは手首の傷跡だけ。生きるのって本当に無駄なことの寄せ集めなんだと思うよ。必死に努力したって、どーせ死ぬ。だったら、努力なんてしなくていいじゃん。楽しいことだけやってればいいじゃん。そうやってどんどん堕ちていって、たくさんの人に呆れられ見捨てられ、この世界で生きるのが余計に嫌になる。でもさ、思うんだよ。楽しいことができずに死んでく人生に何の意味があるの?そんなのゾンビとして生きてるのと一緒じゃん。まあ、俺は楽しいはずのことですら、楽しめないんだけどね。


「京一さん……!!」


湊が帰ってきた。リスカしてるのを見られた。湊は俺の元に駆け寄ってきて、ティッシュを当てて止血する。


「何?」


「僕、合格してました!」


「え?」


湊の嬉しそうな表情。きっと嘘はついていない。


「繰り上げ合格です!」


「……おめでとう!!湊!」


何だか自分が合格したかのように嬉しかった。自分は何も努力してないのに。でも、湊の頑張りを知ってるから、陰ながら応援してたから、願いが叶ったみたいに嬉しかった。


「努力して、よかった……」


そうだよね。努力した結果が報われれば、それは成功体験となって、努力は報われるという信念になるけど、努力した結果が報われなければ、それは失敗体験となって、努力は無駄だという信念になる。


「湊はきっと、これからも努力できるね!」


と俺とは違う人間だと思い知らされたようでちょっぴり寂しかった。


「はい!たくさん努力します!そして、京一さんが幸せになれる世界を創ってみせますから」


「何だよそれ……」


湊のあまりにもピュアすぎる告白に、共感性羞恥で俺まで恥ずかしくなってくる。湊が生きるモチベーションは全て俺だ。薄々、気付いていたが気付いてないフリをしてやり過ごしていた。だけど今日はちゃんと受け止めてあげよう。湊の愛に溺れてあげよう。


「だから京一さん、それまで生きててください」


「わかってるよ。湊のために生きるから」


俺と湊の境界線上がわからなくなるほど密着して、繋がって、溶け合って、ドロドロにひとつになる。俺が死ねば湊が死ぬ。湊が死ねば俺が死ぬ。二人は一心同体で離れられない。そんな理想を掲げては、知らない君に出会う度に俺はちゃんと傷付いている。



僕が担任に慶王附属に受かったと言うと、担任はポカンと口を開けて絶句していた。そして、


「おめでとう!青柳なら受かると思ってたよ!!」


と思ってもないことを嬉しそうに言ってくれた。きっとこの学校の実績とやらになるんだろうか。なんて、つまらないことを考えてしまった。お前らのおかげじゃないけどな。クソ教師雇いやがって。なんて、捻くれて思ったが、もうこの学校には卒業以外用がないので、何も言わなかった。

噂話というのはすぐに広まるようで、クラス中にいや、この学校中に、慶王附属に合格した人がいると広まった。それが僕であると知ったら、みんな驚くだろうな。


「青柳、今噂になってるのってお前?」


と高橋からも言われた。


「ふふっ、さあね〜!」


とニヤニヤしながら、ぼかした返答をしても、


「わかりやすっ!」


って彼にはバレてしまった。


「青柳くん!卒業前にみんなで遊園地行こうよ!!」


真城さんが楽しそうに誘ってきた。


「みんなって誰?」


「んーと、私とカズくんと青柳くん!どうかな?」


最近、真城さんが自然と高橋のことをカズくん呼びしている。意識してるとまだ高橋呼びだけど、気が抜けるとカズくん呼びに戻ってる。こんなところで二人が濃密な関係性になったんだろうかと妄想して、一人にやけている僕はまだむっつりスケベだ。


「あのさ、そのメンツもすごい良いんだけど、もう一人、誘ってみたい人がいるんだよね〜!」


「誰?」


「メアちゃん。ダメかな?」


真城さんは少し曇りがかった表情をした。そりゃあ、三人で仲良くしてたから、僕が個人的に仲良くしているメアちゃんを誘ったら困るよな。でも、僕的には付き合っている二人を邪魔することもしたくないんだよね。


「良いんじゃない?俺達はあんま奥谷のこと知らないけど」


高橋はきっと真城さんと二人きりになれる可能性が高くなると読んで、そう僕の提案に乗ってくれた。


「メアちゃんね、喋ってみるとすごい面白い子だよ?」


「そうだよね。青柳くんと仲良いんだから、きっと良い子だよね!」


って無理して明るく喋ってるような真城さん。心のどこかでは嫌そうだ。


「別に今まで仲良し三人組だったし、無理に増やさなくても……」


と僕が気を遣うと、


「ううん。私、奥谷さんとも話してみたい!」


って真城さんは割り切ったように言ってくれた。その話の流れを僕がメアちゃんに伝えると、


「お、俺がそれ、行っていいんでござるか!??」


なんていつも通りキョドった様子で吃驚していた。


「みんな、良いって言ってたよ」


「ま、真城しゃんがいるの、緊張する……」


手遊びしながら落ち着かない様子でキョロキョロしてる。


「何で?」


「あの、青柳氏には分からないかもしれぬが、俺、可愛い女の子と仲良くなりたくて……」


「え、意外……!!」


メアちゃんって、てっきり一人で絵を描いてるのが好きなタイプかと思ってた。


「そんな反応しないでくだされー!お、俺、こんな感じだから、友達とか、いたことなくて……」


「じゃあ、僕は何なん?」


ちょっぴり不貞腐れて聞くと、


「ヲタ友?」


なんて拍子抜けする返答がきた。


「友達じゃん!!」


「いやいや、それはそうでござるが。同性の子としか語れない話が、この世にはあるのですぞ!」


「何?生理とか??」


「あ、青柳氏……京一郎殿の影響か、ノンデリがすぎますぞ……」


京一さんのノンデリ話をよく惚気けとして、メアちゃんに聞かせていたからか、そんなことを言われた。京一さんと同じだと思うと、ノンデリと言われてもちょっぴり嬉しかったりした。


「あ、ごめん。それで、メアちゃんは真城さんと仲良くなりたいんだ」


「そうでござるな。ファッションやメイク、恋愛など色々な話がしてみたい」


「そっか。女の子同士でしかできない話もあるもんね」


特にファッションやメイクなどは女の子同士のが盛り上がるだろう。


「でも、青柳氏ともBLや京湊の話をたくさんしたいでござるから、これからも色々と語らせてくだされ!!」


「もちろんだよ。メアちゃんとお喋りするの好きだから」


「……っ!!青柳氏ってほんっと、人たらしですな!」


「それ褒めてる?貶してる?」


「ふふっ、両方でござるよ!!」


こんな冗談も言い合えるほど、二年半で仲が良くなった。メアちゃんをカートで運んだ、メアちゃんの転校初日が昨日のように思い出せるけど。


みんなで遊園地に行く日。七時に最寄り駅に集まった。僕はその日の前日からワクワクして、京一さんにどれ着た方が良いですかね?と聞いたり、パックや保湿クリームを塗ったりして、楽しみで落ち着かなかった。そしたら、


「俺とのデートよりも気合い入ってね?」


なんて京一さんから小言を言われたが、


「京一さんとのデートは、貴方が気付いてないだけでもっと気合い入ってますよ」


と言って、やり過ごした。たまに手を抜く時もあるけどね。当日、六時五十分には駅に着いた。みんなまだ来ていないようだった。僕の次に来たのは、メアちゃんだった。フリフリの可愛らしい洋服にツインテールを綺麗に巻いていて、とてもお洒落だった。


「メアちゃん、おはよ。今日は一段と可愛いね!」


「あ、青柳氏……お、俺、緊張しちゃって……」


メアちゃんの声が震えていた。それはそうだろう。ほぼ話したことない、高橋と真城さんがいるんだから。


「大丈夫だよ、二人とも優しいから。それに、僕がいるでしょ?」


と彼女の顔を覗き込むと、彼女は顔を真っ赤にしてあたふたしていた。


「あ、あああ、青柳氏!!イケメンがダダ漏れですぞ……!!」


「あ、照れてんの?彼氏さんに言っちゃおー!」


なんて軽口叩くと猫パンチされた。


「お、俺のカプは崩壊したから……」


「え、そうなの?」


と深堀して聞きたくなった矢先に、真城さんと高橋が二人で来た。


「青柳くん、奥谷さん、おはよう!」


「おはよ」


と僕が軽く挨拶を交わすと、隣でメアちゃんは


「おおお、おはようございましゅる……」


と小声で緊張した様子で言っていた。


「じゃあ、みんな揃ってるから行こっか」


高橋に促されて、みんなで電車に乗り込む。電車内では自ずと高橋と真城さん、僕とメアちゃんに分かれてしまった。


「メアちゃん、真城さんに話しかけないの?」


「無理無理無理!!あんな輝かしいお方に、俺なんかが話かけられないですぞ!」


「あ、それ。僕のこと全然輝かしくないって言ってる?」


と意地悪く言うと、


「いやいやいや、そういうことじゃなくて!!あ、青柳氏は、もう腐ってる同胞だから……」


と弁明された。


「真城さんはね、実は僕とむっつりスケベ同盟組んでるの」


「ひぇっ、真城しゃんが……!?」


「だから、結構エロいことしてるのかなー?って考えたり考えなかったり……」


と真城さんをじーっと見つめていると、


「二人とも何話してるのー?」


と逆に話しかけられてしまった。


「メアちゃんが真城さんと仲良くなりたいんだって」


と真城さんがどこまで高橋としているかなんて、邪な妄想を誤魔化すようにそう言った。


「あ、あの、俺で、良ければ……」


「なんだ!そんなことなら気軽に声掛けてくれていいのにぃ」


「でも、高橋くんとの会話を邪魔することなどできませぬし……」


メアちゃんが僕を盾にして真城さんと話してる。そんなに怖がらなくていいのに。保護したての野良猫の赤ちゃんみたいだ。


「メアちゃん、ファッションとかメイクとかの話したいんだって」


僕が保護者のように真城さんに伝えてあげた。


「あー!奥谷さんお洒落だもんね!」


「いやいやいや、俺なんかそんな……真城しゃんのがめちゃくちゃ可愛い……」


「そんなぁ、奥谷さん、可愛いよ〜!」


なんか、この構図、経験ある。京一さんが醜形恐怖を拗らせた時にそっくりだ。


「うん、可愛いよ。メアちゃんはいつも」


醜形恐怖を拗らせた時はストレートに何度も何度も伝えてあげるのが一番良い。それを僕は知ってるから、メアちゃんにも僕の想いをストレートに伝えた。


「……あ、あああ、青柳氏!!」


何故か、キョドったメアちゃんに思いっきり突き飛ばされて、僕は体勢を崩し、目の前にいた真城さんを抱きしめる形になってしまった。


「ごめん、悪気はないんだけど……」


彼氏の前で見せつけるように彼女を抱いてしまった。彼氏の顔色を伺うと、


「青柳、遊園地が楽しみだなぁ」


とあからさまな作り笑いをされた後で「空気読めよバーカ」と僕にしか聞こえない小声で囁かれた。……僕が何とかして、高橋と真城さんのデートを成功させなきゃ。


遊園地に着いてから、まず高橋と真城さんのツーショを撮った。


「あーいいねいいね!そのままくっ付いちゃって〜!もっともーっとくっ付いちゃって?そうだね、そのままちゅーしちゃおう!」


なんてスマホカメラを持ちながら囃し立てると、


「カメラマンうざいぞー!」「むっつりスケベ〜!」


って仲良しカップルから笑われた。二人がくっ付いて楽しそうにしてるのが、僕は何よりだった。


「じゃあ、次は青柳くん撮る?」


と僕から自分のスマホを受け取ると、真城さんはそのように提案した。


「え、僕のソロ?」


「ふふっ、良いじゃん!面白そう!!」


と何故かなってしまい、オブジェの前で陰キャピースする僕。でも一人は寂しいので、メアちゃんも引き入れて、二人で陰キャピースする。


「あははっ、二人とも修学旅行生じゃん!」


「ふふっ、楽しくなさそう……」


とカップルが僕達を嘲る。圧倒的、陽キャだ。


「これでも楽しんでますからぁ!!ね、メアちゃん?」


喧嘩腰で僕が怒鳴ると、メアちゃんは


「……ひゃっ、ひゃい!!」


とビビった声出して震えていて、そんな僕達を見て、そのカップルは「こわーい」と言いながら呑気に笑っていた。


ジェットコースターにみんなで乗ろうとなった時、メアちゃんが「まじで無理……」といつもの語尾も忘れて、僕の腕を必死に掴んで、全力で拒否していた。


「僕が隣りで手握ってるよ。それでもダメ?」


「無理なものは無理……」


「わかった。じゃあ、二人で楽しんできて!僕らはメリーゴーランド乗ってるから!」


と真城さんと高橋の二人になれる良いチャンスだと思い、僕はジェットコースターをあっさりと諦めた。


「青柳氏、ごめん……俺のせいで……」


「いーよ。あの二人だってイチャイチャしたいでしょ!僕らはメリーゴーランドにでも乗って、楽しんでいよ?」


「青柳氏、まじでBL同人誌に出てくる美形受すぎて困る〜!どちゃくそに犯したい〜♡♡」


きっと今まであの二人に気を遣って、これを言うの我慢してたんだろうな。言葉が溢れ出るような饒舌で性癖を暴露している。


「メアちゃんは僕のこと恋愛対象じゃなくて、性的コンテンツとして見てるもんね」


「もちろん、京湊は永遠にForeverだから!一生推せる……あぁ、でも、ちゃんと墓場まで持ってくぜ……」


「さすが兄貴、かっけぇぜ!」


主役を引き立てるモブを演じる。何とも頼もしいことを言われたから。僕と京一さんの秘密の関係は墓場まで持っていくと。


二人で馬車の中に入ったメリーゴーランド。メリーゴーランドなのに馬に乗らずに、ここに入ったのはちゃんと理由がある。


「さて、京湊の今後について語り合いましょうか……」


BL話がひっそりとできるからだ!


「それがですね、なんと僕が今度通う学校が男子校なんですよ」


「それってまさか……」


「ふふっ、そのまさかだよ。僕、高校デビューで男子校の姫になろうか、真剣に悩んでる」


とほくそ笑むと


「あの青柳氏が、ヤリマンビッチな男子校の姫に……」


とメアちゃんもニヤけが止まらない様子。


「あ、でも!京一さんに一途なのは変わらないよ?ただ男誑かして遊んでみたくって……」


「ひゃ〜!痛い目だけは見ないでね!」


嬉しい悲鳴が聞こえた。僕が痛い目を見ても美味いと言った調子だ。


「男子校の姫計画と京湊の進捗、今後も報告するから」


「はぁ、ありがたき幸せ……有料を凌駕する無料コンテンツがこの世に存在していいものか……」


と感涙を流していると思いきや、メアちゃんの嘘泣きだった。


「その代わり、えっろい京一さんとの18禁漫画。また描いてよね!」


「もちろん!描かせて頂きましゅ〜♡今度は京一郎殿オンリーのオナニー本とかも良いかと思って……」


「何それ、最高!それ、AVを流し見してはいるけど、全然抜けなくて、脳内で僕のこと考えてるやつでしょ〜?えろすぎっ!!」


「あぁ、創作の燃料がどんどん湧いてくるでござる〜!」


こんな時にまでスマホでメモをとって同人誌の内容を考えてる。メアちゃんはやっぱりプロの漫画家になるのかな。いいや、


「メアちゃんはもうプロの漫画家だね!」


もう僕に漫画を売ってる彼女はプロの漫画家だ。


「あ、青柳氏〜!!」


とメアちゃんは僕の腕に嬉しそうに抱きついてきた。


メリーゴーランドに乗り終わった後も、僕達の会話は途切れることなくて、マシンガントークで妄想を繰り広げていた。


「あぁ、京一さんのこと軟禁したーい!」


僕は京一さんのことを考えれば考えるほど、京一さんを僕のものにしたくてたまらなくなる。僕の支配下に置いて、一生逃げられないように。一生一緒にいたい。死ぬまで愛して欲しい。それが僕の純粋な愛であり、理想だ。


別行動の二人はジェットコースターに乗れていないらしくて、僕達はポップコーンを買った。それをベンチに座りながら二人で食べて、やっぱりまだ京湊の話をしていた。


「京一さんにさ、写真送ろうかな?メアちゃんも一緒に入ろ?」


「良いんでござるか……!?」


「もちろん、浮気じゃないんだし」


とツーショを送ると京一さんからすぐ既読がついた。


「女の子と二人きり?」


「今はそうです。あと二人と別行動してて」


「お似合いだね」


「そうですか?」


「俺なんかよりもそういう同世代の可愛い子と付き合うのが健全だよ」


あ、これ完璧に嫉妬してる……。こんなこと滅多にないから拗ねてる京一さんが可愛かった。


「メアちゃん見てこれ。京一さん、嫉妬してない?」


「か、可愛い〜!!俺なんかに嫉妬してるの、めちゃくちゃ可愛いでござる!愛されてますなぁ、青柳氏!!」


「不健全でいいじゃないですか。僕は京一さんを愛していたいです」


と返信をすると、京一さんから電話がかかってきた。僕はびっくりして慌てて取ると、


「湊、何で女の子と二人きりなの?」


と不満そうな貴方の声が聞こえた。


「この子、ジェットコースターが苦手で別行動しようって二人組にわかれたんですよ」


「……へぇ、そっか。邪魔して悪かったね。楽しんで」


かけてきたくせに数秒後にはブチッと電話を切る。かまって欲しいくせに迷惑はかけたくないから、こんな矛盾した可愛い行動を取るんだろうなぁ。僕の彼氏、可愛すぎる……。


「はぁ、めちゃくちゃ可愛い♡♡」


可愛すぎて悩ましい!!京一さんが可愛いという感情が抑えきれなくてメアちゃんに早口オタクマシンガントークをしてしまった。


「オタクが推しを愛でてる姿っておもろいですなぁ」


メアちゃんはポップコーンをかじりながら、そう評論家のように言って、僕に笑顔を向けた。



君は俺に死なないでって言う。それはきっと俺が死んだ後、君が息苦しくなるからだ。でも俺は君に死にたいって言う。それは俺は生きていると、何とも息苦しくなるからだ。


湊から写真が送られてきた。遊園地で友達と楽しそうにしてる写真だ。


ここ数週間、湊とべったりくっついて生活していたから、湊がいないと何とも寂しくなる。俺の身体が湊を欲しがるように会いたくてたまらなくなって、我慢しなきゃいけないのに我慢が苦手な俺は、友達と遊んでいる湊に電話をかけてしまう。そんな自分に自己嫌悪して、寂しさを紛らわすように自慰行為をして、賢者タイムで死にそうになって、満たされない心を何とか満たそうと酒を飲む。ぎゅーってしたい。湊のことをぎゅーって抱きしめたい。それだけできっと良いから。湊に傍にいて欲しい。


「京一さん、ただいまです」


夜遅くに湊が帰ってきた。俺へのお土産を持ちながら。俺は何だか出迎える元気もなくて、


「おかえり」


とその場でぶっきらぼうに言ってしまった。


「京一さん、どうしたんですか?何で泣いてるんですか??」


俺の傍に座った彼が心配そうに俺の顔を覗き込む。


「俺が泣き上戸なの、知ってるでしょ?」


そう笑って誤魔化すけど、そうやって俺が誤魔化すって彼も知ってるから、ずっと心配そうな顔をさせてしまう。


「でも……」


「湊」


彼の名前を呼んで、俺は彼をぎゅーって抱きしめた。


「何か、ありましたか?」


「ううん。湊がいなくて寂しかっただけ」


一度抱きしめたら、その心地良さで湊のことを離せない。ずっとくっついていたくなる。そんな不思議な魔力を湊は持っている。


「可愛すぎ……。僕もずっと京一さんとこうしたかったです」


「本当?」


「嘘つきませんよ。友達に京一さんのこと惚気けまくりました」


「あはっ、嫌な奴!」


と俺が笑うと、湊は少し唇を尖らせて、


「京一さんが可愛すぎるのがいけないんですよ」


と不満げに惚気けてきた。


「えー、俺のせい?」


「はい、可愛すぎて有罪です!」


「自覚ないんだけど……」


「そういうとこも可愛くてダメですっ♡」


「はぁ、訳わかんねぇ……」


「涙、引っ込みましたか?」


と言われて気がついた。会話が楽しくて泣き止んだこと。


「うん。湊が傍にいると落ち着く」


「そんなこと言われたら、僕はもう京一さんの傍から離れられないですよ!」


「離れないでいいよ。ずっと一緒にいよう」


「はいっ♡♡」


そのまま何時間も抱き合って、抱き合ったまま俺らは眠りについた。

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