彼氏とシンデレラボーイ
客との思い出を湊で上書きしたくて湊のが最高だと思いたくて遊園地を予約した。予約した当初は湊も嬉しそうにしてくれていて、俺もすごく楽しみにしてた。けどその前日になって、俺がバイトから飲み潰れて帰った日。湊は俺にこう言った。
「京一さん、明日遊園地行きますよね?」
って不安そうな声で泣きそうな顔で。俺だってすごい、今でもめっちゃ楽しみにしてる。だけど、仕事は仕事じゃん。酔って気が大きくなっているのも相まって、
「行くに決まってんじゃん。何言ってんの?」
と湊のことをせせら笑った。これで湊の機嫌が良くなることを願った。俺としては何ともないよを言うように強がって微笑んだつもりだった。
「だって……じゃあ、何で飲み潰れてんの?」
湊はさらに不機嫌になって、俺を責めたててきた。あーーーー、何でわかってくんないの?仕事だってわかりきってるだろ。こっちだって好きで飲んでるんじゃねぇんだよ。
「はぁ、うざってぇな。"ごめんなさい"はい、これで満足した?」
煽るように一音一音を強調した反省の色が見えない"ごめんなさい"を披露して、あからさまに不満をぶつけた。
「良いですよもう。明日は午後から行きましょう」
大人っぽく諦めたように喧嘩を終わらせようとして譲歩した湊が俺は気に食わなくなってまた噛み付いた。
「嫌だ、午前中から行きたい。何?湊は楽しみじゃないの?」
はあああ、いらんこと言ってまう。二日酔いで起きれなくなることを想定して午後に行くことを提案してくれているのに。
「は?楽しみに決まってるじゃないですか。でも現実問題、無理だって言ってんですよ」
何だよその喧嘩口調。まじで腹立つ。
「うるせぇな。湊が俺に口答えすんなよ」
何かが限界を超えたみたいに抑圧された感情が溢れ出し、湊を傷つける言葉を放ってしまった。
「はい、そうですか。じゃあ黙りますね」
と湊はそっぽを向いてスマホをいじった。しばらくして、俺はその沈黙に耐えられなくなって、口を開いた。
「明日、喧嘩したまま行きたくないんだけど」
「僕だってそうですよ。だけど、僕だけが楽しみにしてるみたいで悲しかったんです。京一さんはどうでもいいのかなって思っちゃって、」
そんなはずない。そんなわけないじゃん。
「どうでもいい訳ないじゃん。湊との遊園地デート、すっごい楽しみにしてるのわかんない?」
と両手を広げて、アピールしたところで、そこにはただ酔っている俺がいるだけで泣きそうなくらい情けない。
「だって、飲み潰れてるし……」
「ああ、それはもう……本当にごめんね。俺だってこんなつもりじゃなかったんだよ。だけど、仕事でやらなきゃいけなくて、本当はこんなことしたくない。湊との休日を無駄にしたくない。湊、ごめんね。俺、ちゃんと断れなかった。そんな自分がすごい憎いよ」
って、湊を抱きしめて甘えて怒りを飛ばして言い訳のような言葉を感情任せに並べて終いには自己嫌悪を露呈する醜さといったら死にたくなるけど、この両手に湊がいるのは何よりも幸せだ。
「それが聴きたかったんですよ。貴方のその言い訳が聴きたかった。僕もごめんなさい。貴方の言葉が欲しくてずっと怒ったフリをしちゃいました。大丈夫です、京一さん。貴方といられればそれだけで、僕の休日は最高なものになります」
「湊のこと、こうやってずっと抱きしめたかった。湊、怒ってるんだもん。……ただいまね」
「おかえりなさい。これすら言えてなかったんですね」
って湊は俺にごめんなさいのキスをする。そんな可愛いことされちゃあ、性欲というのが湧き出てきて、キスが止められなくなっていく。
「今日はお預けだね。起きれなくなっちゃう」
これ以上、自分が醜くなるのが気持ち悪くて客観的に見ていられなくて、自傷行為のように自分の欲求を抑え込んで、舌を噛んだ。
「え……お、起きれますよ??」
「だってもう二時だよ。明日は八時には起きたいから、もう寝なきゃじゃない?」
と湊は剥がそうとするとむしろ逆にくっついてきた。隙間がないくらいぴったりと。
「もう性欲のせいで寝れなくなってます。責任とってください」
ああ、また自堕落な方へと流されていく。僕達が生きやすい方へ進むのは悪ですか?神はそんなにも僕達を苦しめていたいのですか。いいえ、悪にしたのは神じゃないです。階級社会を作った人間のせいですね。結局、僕達は人間のせいで苦しめられている。この人間社会が嫌いだ。
一日は二十四時間しかないのに、君とこうやっている間だけは時間が止まっているような感覚になって、先々のことなど考えずにただ夢中で君を感じて、愛していた。窓の外が明るくなってから気がついた時間があることなど。薬がないと寝られない俺はずっと湊にべったりと甘えて、眠そうな湊を寝かせないようにキスをしていた。俺はただ君を愛していたい。この溢れるような君への愛情をどうにか伝えたかった。
「湊、もう朝になっちゃったね」
「京一さん、そろそろ寝ないと……」
と湊は大きなあくびをして、涙を零した。けど俺はまだまだ湊を愛し足りてなくて、時間というものを恨んだ。不貞腐れた顔をしながらも仕方なく薬を飲んで、大人しく布団へと入った。
「湊、抱き締めていい?」
湊の小さな背中を見つめながら、そう独り言のように呟いた。
「いいですよ。僕も京一さんのことを愛しています」
俺は愛してるだなんて何も言ってないのに湊は俺のことを愛していると言ってくれた。それでテンションがあがってしまって、緩んだ頬がどうしても恥ずかしくなって、顔を俯けにして湊の背中に額をくっ付けた。
「知っていると思うけど、愛してるよ」
「たくさん愛情表現してくださって。僕、幸せすぎて脳が溶けそうですよ」
俺はこの世に存在していない気分だった。この世はクソだから、こんな幸せなこと起きないからだ。俺の酔った妄想みたいな、でもそれにしては湊がやけに解像度が高くて可愛いんだ。こうして、湊に触れている手もこの湊の落ち着く香りも俺が湊を感じる全てが俺の幸福へと変換されていく。人間をここまで愛したことがなかったから、俺がこんなになってしまうのも可笑しかった。
頭痛と共に迎えた十二時。
「……やばっ!もうこんな時間じゃん!湊、って湊はもう準備できてるんだね」
湊はお洒落着に身を包んで、最後の仕上げのリップをしているところだった。俺は急いでお風呂に入って、スキンケアをして、お洒落着に着替えて、眉毛を整えてから髪型をストレートアイロンで整える。そして、仕上げにヘアオイルを付ける。
「顔面つよつよですね」
身だしなみを整えている俺を見て、湊はそんなことを言って微笑んだ。何言ってんだよ、って笑い返した。湊から貰った指輪を左手の中指にはめて、
「お待たせ、準備できたよ」
と湊に抱きついた。
「僕の京一さん、かっこよすぎます」
「湊とのデートくらい、最高にかっこよくいたいじゃん」
そう湊とキスをしてから家を出た。遊園地までは電車で一時間程度。電車に乗る前に二日酔いに効く薬を買った。毎日が二日酔いみたいなものだから、別に大丈夫だけど一応買っておいた。湊はまたデートプランを考えてきていた。今回のデートプランは、京一さんを最高に楽しませるデートプランらしい。サプライズにしたいからと秘密にされた。だけど、俺は湊とこの遊園地に入れたことが既に嬉しくて、入った瞬間に満足感でいっぱいになった。
「僕のデートプランでは、京一さんとまず喫煙所に……」
「喫煙所?そんなのいいよ。次のプランは?」
「次はジェットコースターで絶叫……」
「ねぇ、湊。カチューシャ付けてみない?絶対に湊可愛いと思うんだよね!」
「え?前、あんなに嫌がってたのに!?」
湊が驚きを隠せない様子で俺を見つめてくる。俺だって、数年で意見が変わることもあるんだよ。湊に次々とカチューシャを付けて、似合う似合わないを決めたかったんだけど、どれもこれも湊の顔が良すぎて似合っちゃうから決められない。
「なあ、湊。お前に似合わないものってないんじゃないか?」
変な宇宙人のツノみたいなカチューシャも似合ってしまうんだからもうお手上げ状態だった。
「ふふっ、京一さんの好きフィルターですね」
「別に、そんなんじゃ……」
と照れ隠しでそっぽを向いたら、湊にえいっ!とカチューシャをつけられた。
「何だこれ、ツノ!??」
悪魔みたいな黒い角が二本付いているカチューシャ。
「京一さん、格好良いから似合うと思って……」
「んーー、まあ、格好良いか」
遊園地で浮かれてるせいか、何だかんだこのツノカチューシャを気に入ってしまい、買うことにした。湊は何にしようかと悩んでいると、
「じゃあ、僕は天使で」
と天使の羽と輪っかが付いているカチューシャを手に取り、身につけて俺に見せてきた。やっぱ湊は何でも似合うし、何でも可愛い。俺の湊、超天使!
「可愛いね、湊。一緒に写真撮ろ!」
「え、いつもは写真なんて……」
嫌がるのにな。湊と一緒なら撮りたいと思った。湊の手を引っ張って、景色のいいところでスマホを構えて、写真を撮った。
「俺、盛れてないね。もう一回」
と言って、今度は湊の頬にキスをしながら、撮った。恥ずかしさでいっぱいになった。
「京一さん……もう……」
湊が泣きそうな顔してこちらに何かを訴えかけてくる。
「あ、あぁ、湊は嫌だった?こーゆーの。待ってね、今すぐ消すから」
とスマホを操作しているとその手を引っ張られて、
「そうじゃないです。消さないでください。京一さんとこういうの、今までできないんだと思ってて、ずっと我慢してたんですよ。だけど、他ならぬ貴方が僕の夢を叶えてくれて、感動で、嬉し泣きです……」
と綺麗に頬を伝う涙を流した。
「あぁ、そうだったんだ。今まで我慢させちゃって、ごめんね!」
「ううん、良いんですよ」
と泣きながら笑う湊には今までの俺への諦念があることがわかった。何でもかんでも俺の言うことを聞かせてきた俺の罪だ。
「俺、湊の夢を叶えるお手伝いをしたい。今日だけはさ、湊の王子様でいさせてよ」
と片膝付いて、湊の指先に触れるように手を取った。そして、上目遣いで湊の顔を見つめる。
「京一さん、目立っちゃってますよ」
「別に良いよ。湊が喜んでくれるのなら、俺は喜んで道化師にでもなるよ」
って、その指先にキスをした。
「僕、京一さんを好きでいて良かった……」
湊はボロボロと涙を零す。俺はそんな湊を抱きしめて背中を撫でた。こんなになるくらいずっと不安にさせてたんだと、俺を好きでいられる自信がなくなるほど傷つけてたんだと、そう思ってしまっては情けなくて、ただごめんとしか言えなかった。
「湊は何したい?」
泣き止んだ湊にそう聞いてみた。彼は少し目を泳がせて困惑した表情を見せる。
「貴方と一緒にいられたら、それで……」
ここまでして、まだ遠慮するのかよ。俺はちょっとムッとしちゃって、
「俺は湊としたいこといーっぱいあるけど、湊はその一つも思い付かないんだね」
なんて傲慢な態度を取ってしまった。
「は?僕だって京一さんとしたいことなんか星の数ほどありますよ」
湊は虚勢を張って、俺に張り合ってきた。どちらがより愛しているかを競うかのように。
「じゃあ、言ってみなよ」
「拒否します。ついてきてください」
と強引に手を取られ、後ろを振り向かずにどんどんと前に歩く湊にただ俺はついて行った。ついたのはテーマパークの埠頭だった。
「海が見たかったの?」
「そう言われればそうですが、今回の目的はあの船の中にあります」
と指さしている先には巨大な船。湊が閉じ込められてた思い出の場所だ。
「船の中?」
「まあ、ついてきてください」
という湊に大人しくついて行った。湊は「予約していた青柳です」とそこのキャストに伝えていた。そこのキャストには「お待ちしておりました」と丁寧にお辞儀をされた後に席へと案内された。
「何ここ?」
「海上ラウンジです。言っちゃえば、色んなお酒が飲める場所です」
「酒!?」
「はい!京一さんと海を見ながらお酒が飲みたくて、強行突破しました」
とニコッと笑う湊。可愛いけど、湊にお酒を飲ませたら何が起こるか容易に想像つくので、
「湊、飲んじゃダメだよ?」
と心配そうな顔して、湊の手を両手で包み込んで、訴えかけた。
「ふふっ、僕はもちろんノンアルですよ。見てください、色んなお酒がありますね」
メニュー表を見せられると、知っているお酒の名前が次々に並んでいるので、どれにしようか悩んでしまった。
「ジャックダニエルにしようかな」
「誰ですか?それ」
「ウイスキーの名前だよ」
「じゃあ、僕はシンデレラにします」
「シンデレラ?あの靴のやつあるの?」
「え?靴が出てくるんですか?」
「ガラスの靴みたいなボトルにリキュールが入ってるんだよ」
「リキュール……?」
「甘いシロップみたいなお酒のこと。でもあれはアルコールあるから、違うのかな?」
とりあえずジャックダニエルのロックとシンデレラ(ノンアル)を頼んだ。お待たせいたしました、とグラスが二つ届いた。
「京一さんのお酒、黄金に輝いてますね」
「俺の知らないシンデレラがきた……」
「青でもないですね。どんな味がするんだろう」
と湊が気になっているとキャストさんが
「そちらのシンデレラというカクテルは、魔法の力で舞踏会へ行けたシンデレラのように、お酒が飲めない方でもお酒の場へ行けるように、という願いが込められたカクテルとなっております。お味は、オレンジやレモンの酸味とパインの甘みを感じるフルーティーな味わいとなっております」
と丁寧に説明してくれた。
「ありがとうございます。僕にぴったりなカクテルですね!」
なんて俺に微笑みかけてくる。二人きりになったところで、
「だけど、今日は零時になっても帰さないよ。シンデレラ」
と王子様っぽく格好付けた。痛々しい。
「僕の魔法は永遠に解けませんよ。王子様」
そう言いながら、グラスをぶつけて音を鳴らした。一口味わうと口の中にウイスキーの甘みが広がる。
「やっぱ、美味しい」
「僕もはやくお酒が飲める年齢になりたいです」
「その頃には俺、おじさんになっちゃうね」
そう言って、はにかんだ。俺がそこまで生きている気がしないから。
「大丈夫ですよ。どんな京一さんでも愛してます」
「じゃあ、死体になっても愛してくれる?」
酔ったせいの赤い頬に手を付いて、ふざけたように微笑んだ。
「んーーー、冷凍保存、かなあ?」
俺と同じように頬を染めた湊が恍惚そうに笑う。
「俺、寒くて暗いところは嫌だよ。湊の傍にずっといたい」
ウイスキーのグラスを持って、カラカラと氷を鳴らす。
「京一さん……!きゃわわわ〜!!僕のお人形さんにしちゃいますよん♡♡」
湊は身を捩って、嬉しそうにキャッキャと騒いでいる。こいつといると賑やかでうるさい。
一旦、煙草を吸ってから、また席に戻ると、湊は真剣にスマホを見ていた。
「何見てんの?」
「京一さん、エンバーミングって知ってますか?」
「あーーー、知ってるわ」
知らないけど知ってる反応をした。エンバーが燃えさしみたいな意味だから、煙草の燃えさしを残そうみたいな運動だろう。
「京一さんの死体をエンバーミングして、半世紀後にも僕の来世にも伝えたいです」
「何を?」
「そんなの、京一さんの魅力に決まってるじゃないですか」
そんなものないよ、って言いそうになってやめた。それを言ってしまったら、本当になってしまいそうだったから。ただ魅力のない俺に魅力を感じてて。
「そんなの、湊だけが知ってればいいよ」
俺の仄暗い表情から何かを察したのか、湊は真剣そうな面持ちで
「僕は京一さんの魅力についてなら百時間は余裕で話せますけど、聞きますか?」
と提案してきた。正直、頭おかしいだろこいつ。って思ってる。
「ふふっ、一分で要約して」
だけど、その頭のおかしさが、俺にとっては笑えるんだ。心から笑えない日々ばっかだったけど、湊といると素直に笑えるんだ。
「京一さんの魅力は何よりもその格好良さですよね。他人にはない格好良さが京一さんにはあります。具体的に言うと、その鋭い目付きとか煙草吸う時の仕草とか、ああ、ダメだ。要約できない。とにかくエロいし、頭良いし、顔良いし、喋り方も匂いも好きだし、スタイル抜群だし、センスが良いし、病んでるのも可愛いし、あと、笑った時の顔が可愛い、あと……」
じーっと俺のことを見つめながら、早口で楽しそうにペラペラ喋る。
「もう良いよ、湊。ありがとう」
「京一さんの魅力、まだまだ言えますよ??」
「俺が恥ずかしくなってくる……」
「か、可愛い……!!」
俺は酒に逃げた。頬が赤いのは酒のせいだ。
「湊、次は何したい?」
酒場から出て、潮風に当たりながら、何気なく聞いた。
「あれ、食べたいです」
と指さした方向には、
「トルコアイス!?湊、そんなのが食いたいの?」
「はい。どんな味か気になります!」
「ふふっ、面白いアイスだよね」
「それを京一さんが言うと洒落に聞こえません」
確かに。楽しくなれるアイスは散々、入れてきた。
「ふふっ、湊、遊ばれてんじゃん」
コーン片手に、湊がアイスを貰えないでいる。
「ちょ、アイスない……」
コーンまで取られた。おもろ。
「湊、何してんの?掴まなきゃじゃーん」
というクソみたいな野次を飛ばす。
「京一さん、これ、掴めないです……!」
「ふふっ、そんな深刻そうに言うなよ」
って、隣りでゲラゲラ笑っていると、
「お兄ちゃんもやってみる?」
とトルコアイスのおじさんに誘われた。
「あーじゃあ、湊に手本見せたりますわ」
なんて意気込んで、掴んだのはコーンの部分だけ。わかっててもおもろいこれ。
「ふふっ、即落ち二コマですね」
「あははっ、次は貰うから!」
と手を伸ばした。手渡されると思ったら、クルッとアイスを逆さにされて、掴めなかった。
「京一さんも遊ばれてますね」
「遊ばれてやってんの!ほら、貰ってきて」
湊にバトンタッチ。これ以上遊ばれるとキレちゃいそうだからだ。
「京一さん、貰えましたよ!」
嬉しそうに報告された。
「良かったね」
素っ気なく返した。
「なんかネバネバしてますね。京一さんも食べますか?」
「いいや、俺は」
「何でですか?食べてくださいよ」
湊が甘えた声でそうねだってきた。
「何で?湊の食べる量が減っちゃうじゃん」
「え……あの、キモいこと言ってもいいですか?」
「何?キモいことって」
「京一さんの口付けたアイスが食べたくって」
「きっ……んっ、食べたよ」
言いかけた言葉を飲み込んで、アイスを口にした。
「今、きっも!!って言いかけましたよね?」
「ほら食べたよ食べた。食べなくていいの?」
「食べますけど、」
とアイスを一口食べて、さっきよりも幸せそうな顔する。
「お前は馬鹿でいいな」
「突然、悪口ですか?」
「違うよ。俺のことを馬鹿の一つ覚えのように一途に想ってくれていいなってことだよ」
「京一さん以外、ありえませんから……」
そう言って火照った頬を冷ますように、冷たいアイスを舐める。その顔が可愛くて、
「ふふっ、俺だけ見ててね!」
と湊の顔を見て微笑んだ。
「あーあ、ここが家だったら押し倒して舌入れてキスしてますよ」
そーゆーことは、声に出して言わないお約束。守れない湊も可愛いけどね。
コーヒーカップに乗った時、京一さんは「酔う酔う酔う!!」と必死に僕にしがみついてくれたので、僕は思いっきりハンドルを回した。ジェットコースターに乗った時、京一さんは僕の手をずっと握ってくれたので、僕はジェットコースターから降りるのを拒んだ。夜のパレードを見た時、京一さんはダンサーの方やキャラクターの着ぐるみに無邪気に手を振っていたので、僕は煌めくその横顔から目が離せなかった。
「湊、今日は楽しかった?」
観覧車に乗った時、始めは対面で座ってたけど、途中で僕の隣りに座ってきてくれて、僕の頭を愛おしそうに撫でながらそう聞いてきてくれた。
「はい!めちゃくちゃ楽しかったです!もう今日で死んでもハッピーです!」
僕はとっても幸せで腑抜けた顔で、身振り手振りを付けて大袈裟に話した。
「そっか、残念だなあ。帰ってセックスしようと思ってたけど、その頃には湊は死んじゃってんだあ」
その挑発的な顔、大好物だ。
「いや、死にません!!セックスします!!」
僕は京一さんからのお誘いに興奮してしまって、堂々と破廉恥な選手宣誓をしてしまった。
「ふふっ、そっか。たっぷり甘やかすよ」
そう彼は僕の前髪をかきあげると、僕のおでこにキスをした。ああ、もう、家まで我慢できない!!今すぐここで、貴方と繋がりたい!!
「京一さぁん……♡♡」
僕は彼の胸に頬擦りをして、彼の匂いに包まれて、少しだけドーピングをした。こうしていないと興奮を抑えられなくなりそうだから。
「湊、まだダメだよ」
こう優しくなだめられるのもめっちゃいい。僕って変態なんだな、と自覚する瞬間。
「京一さん、我慢するからちゅーだけさせて?」
「それ、絶対に我慢できないやつ」
って笑われた。我慢するからあ……!ってやけくそで言った。そしたら、わかったよ。って唇にキスしてくれた貴方は確かに王子様だった。




