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締切の首絞め

ああ、だりぃわ。疲れたあ、死にたい。疲れたら死にたいとか、単純で分かりやすいじゃん。でも、楽しいから生きたいとはなんないの何でだろうね。楽しいときも楽しいことしてるから疲れてんだよ。俺は寝てる時間が最も生きてるって気がするわ。身体の疲れがなくてただ目の前のトラウマに向き合って、思考がぐちゃぐちゃになってて、ありえないことでもすんなりと受け入れて、今だけを見て生きている感じがする。夢の中で、夢の中のトラウマで。でもさでもさ、俺死ぬらしいぜ?寝たら死ぬらしい。やるべきことが沢山ありすぎて、どっちにしろ塞がれて窒息死するんだろうけど。焦りすぎてイラつくんだよ。クソクソクソクソ、何で俺はこんなにも馬鹿なんだ?調べないとわかんないとか効率悪すぎんだろ。覚えとけよパカ。そしたら、勉強する意味なくなる天才じゃん。いいなあ、始めから全知全能で時間さえもこの手で扱えてたら、俺は不老不死にだってなってやるさ。寝たい寝たい寝たい寝たい。勉強嫌い、もう辞めたい。でも、全部全部自分のためだから、逃げ場すらも用意してくれない。提出期限が明日の課題を今日中に終わらせないと俺は死ぬのに、寝ないと体調が優れないから、そもそも学校にも行けなくなんじゃん。ならさ、俺はどうすればいいんだよ。死ねって言うのかこの俺に。ああ、死んでやらあ、死んでやるから殺してくれ。脳みそがストレスで痛えんだよ。細胞が音を立てて死んでくんだあ。泣きながら課題やってんの、みっともなくてダサくて、超越して狂ったように笑えてくるわ。週一で通うことにした学校は、開始一周目で俺を殺しに来ていた。夜中、徹夜しながら、死にそうになっていた。湊と同じだ。湊も勉強中は貧乏ゆすりが止まらないし、カッター取り出してくるし、参考書投げるし、動き回るし、喋りまくるし、締め切りってのが決まってるだけで心の負担なんだよ。生きてる限り、俺は疲れてんだ。疲れてんだから、これ以上疲れさせんなや。限界超えて、笑うことしかできてねえんだよ。寝れねえけど寝っ転がって、微力ながらも回復を待てど、心の突っかかりが取れなくて、食いこんで余計に溢れ出す血が止まらない。勉強ってのは気分が良くて、調子がいい時にやるもんなんだ。って一生、スローペースで逃げているから、劣等感のゴミクズになれたんだろうね。だからだから、もう死にてえよ。痛えんだって、心も身体も。足枷を嵌めているみたいに足が重くて動かないんだよ。やらなきゃいけないことが山ほどあるなんて知ってんだよ。わかってんだよ。だけどだけど、俺にはできねえんだ。やりたくてやらないとやってやりてえのに、できねえんだよ!!!!ざけんな、動け。ゴミの塊と同様な重い身体、動けって馬鹿、時間を無駄にすんなよ。締め切りは刻々と迫ってんだ。お前が病み倒そうが嘆き泣き喚こうが課題を破り捨てようがどれほど傷つこうとも、課題が終わってない時点でお前は落第なんだよ。落ちこぼれじゃんって、笑われてろ。はあ、痛え痛え痛え痛え、地獄よりも痛え、どこもかしこも痛いから全身麻酔でも売っちゃあくれませんか?記憶も体裁も全部ぶっ飛ばして、こんなクソ真面目な馬鹿野郎から、何もかも終わってるサイコ野郎になっちゃいたいんだ。気楽に生きて、人を殺して、埋めて、檻にでも入れられたいんだ。俺に向けられる期待の目を、檻の向こう側に収容したいんだ。鉄格子を挟んじゃえば、別世界に写り変わる。とにかくもう、人生やめたい。


結局眠いから寝た。課題は終わってない。だから、夢の中でも課題やるやる詐欺してた。寝たはずなのに、精神的にはすり減ってて、ずっと重い十字架を抱えている罪の意識?ってのが心を食うんだ。やめたいやめたい全部やめたい。勉強のストレスで一緒にいたら湊を傷付けると思って、家に帰ってきたけど、過去の犯行履歴を想起させる部屋で床が焼け焦げてて、薬キメてトイレは驚くほどに綺麗にしたはずなのに、何回吐いたのか?ルイに五時間ぶっ通しでトイレ掃除してる奴はかなりちゃんとイカれてると言われた記憶はあるんだけどなあ。お願いだから、この強迫観念どうにかして。お前のやること全部無駄だから、生きても死んでもどっちでもいいし、何したってどうでもいい。お前はただ自分が作り出した理想とのギャップにやられているだけで、誰もお前になんかまともに期待しちゃあいねえよ。周知の事実として、お前はクソでクズでゴミだって、広まってるだろ?大丈夫だって、今さら守りたいプライドもペルソナもないでしょ、え?笑われたくない?劣等感は味わいたくない?痛いから、ってまじ何言ってんの?お前は、笑われてなんぼ、劣等感を食ってなんぼじゃねえのかよ。贅沢言ってんじゃねえってば。死にたいって嘆きながら、中途半端で煮え切らない拷問に一生悶えてろ。完璧主義者とか気取ってんじゃねえよ、馬鹿なお前には不似合いだ。完璧主義者で完璧にできないとなると全てを投げ出したくなる、言い換えると、完璧にできる時間的有余を見誤った計画性のない見通しの甘い奴のただ逃げたいだけの言い訳。学校のやらされてる感がすごい嫌い。こっちは自由に選択して、興味が向いたら勉強したいのに、期限や課題を決められて、それができない度に精神的に死ぬんだ。やっちゃえば別にこんなくだらないことをグダグダと考えないんだろうけど、そんな簡単に言ってくれんなよ。俺のこの息が詰まりそうな罪の重さをすべて引き摺って、死にそうな状態を体験してから言ってくれ。相手の状況を理解しないで、そんなの簡単じゃんって、お前の優越感のダシに俺をしないでくれ。こんなんじゃ俺は猫だけでは飽き足らず、人間までも殺してしまうよ。ウザったいウザったい人間を蹴り殺してしまいそう。ごめん、とは思うけど、悪ぃ、とは思わない。だって、責任転嫁とかやいやいやかましいが、俺は普通に生きてて人間を殺したくなった。これは環境とか遺伝子とかのせいじゃないの?俺という存在は悪くない、決して悪くない。俺をこう染め上げた社会が悪ぃんだ。ただ、その餌食になってしまった方には申し訳ないから「ごめん」とは言わせてもらうよ。けどああ、何にも救われない。何しても頭が冴えわたらない。何してもは言い過ぎか、何する以外は何してもだなあ。最近さあ、俺のが発達障害な気がして、湊のためとか思いながら、発達障害チェックリストに全丸付いた俺の愚かさを笑えば?ああ、もう何にも怖くねえよ。人生なんぞ産まれたときから捨ててんだ。いまさら上手くやろうなんて馬鹿げてんだ。大学に酒飲みに行こう。This is the life!


優越感のためにマウントを取られて、それを貶すために劣等感を晒して非難するお前も、全部全部痛えよ。価値観が合わない奴との意見の擦り合わせ、なんて摩擦熱しか起きねえから、無駄に消しゴムを粉砕するだけだ。関係ねえ物事に首突っ込んで、暇つぶしで人間の精神を殺そうとしてる馬鹿が生き残る世界なんてバグじゃねえの?俺も劣等感晒して、馬鹿を馬鹿にする馬鹿だけど、それほど自尊心を見誤っちゃいねえよ。お前の僻みなんざ、面白みも旨みも何もねえから吐き出さずに、そのうるせえ口を塞ぐように全部飲み込ませて、喉の奥に詰めて思い詰めて勝手に窒息でもしてろ。お前は何を基準として優劣を測ってんの?マスメディアに騙されて、文化に基づく歪んだ倫理観を植え付けられた人間へ、問答法。金と知と美と性、全部クソだ。俺の人生にはそんなのひとかけらも残っちゃいねえだろうが、俺は心底幸せだよ。劣等感晒しまくって、誰にも期待されずに、理想を捨てて、我が道を生きている。この世界とのしがらみなんて、湊以外には何もない。湊がいなけりゃ死んでるね。毎日毎日ストレスに犯されて、俺は対ストレス用売春婦かよ。泣いて泣いて泣きまくって、汚ねえ喘ぎ声なんか出して、その声を殺すために指を噛んで、震えて、事後は疲れて死体のように眠るのみ。理想を捨てきれていない、こんな人生ならば、湊に犯されてぶっ飛んでる方が幾分かは幸せかもしれない。湊が留守の間に俺は罪人になってゆく。つらい記憶のみが鮮明に残る。それだったら、寧ろいっそ、湊との思い出にさせてくれ。頭が回んない回んなくて錆びたメリーゴーランドのような廃墟と化した。認識の壁が崩壊して、過去か幻想か分からない。俺がみんなまとめてつらさも苦しさも生きづらさも全部全部引き受けるからさ、湊だけは本当に幸せそうに生きて欲しい。ただただ積み重なっていくのは、ろ過で残った醜い記憶。湊、トラウマレベルの快楽を味あわせてよ。人生が無意味ってんならさあ、すべてが落ちていくってんならさあ、この苦痛を幸福に変えて、狂っちまった俺に最後の幸福をください。


隣りで静かな寝息を立てて安らかに眠っている湊の首を絞めた。もうすぐで朝起きる時間だし、ちょっとした暇つぶしのドッキリだった。首に触れてみても気付かずに眠っていて、もっと驚かせてやろうと、気持ち悪く忍び足で動いて、湊の上で触れないように四つん這いになる。そして、起こすためおどかすために、湊の首に触れる力を少しだけ強めて、湊の腰の上に正座するように座った。これには湊も起きたようで、目を見開いてから、生唾を飲み込み、ニタついた。


「おはよう、湊」


なんて愉快にネタバラシを言おうとしたその前に


「もっと強く締めて?」


とおねだりをされた。俺の腕を掴んで、自分の首の方にグッと押し込む。もっともっと、と際限なく求めてくる。死んじゃうんじゃないか、殺しちゃうんじゃないか。そう思いながらも、湊の蕩けるような色っぽい顔に魅了された。ただひたすらに楽しくて、首を締めて、湊が気絶した瞬間、火照った身体から一気にサーッと血の気が引いた。


「湊、みなとみなとみなとみなと」


胸から頬へとベタベタと這うように湊のことを触りまくって、頬っぺたを叩いて、起こそうと試みた。死んでしまった、殺してしまったのならば、俺はルール違反だ。


「京一さん、ふふっ、最っ高でした」


怠そうに重たそうな瞼を半開き、死にそうなか細い声、脳内の血流が悪いことによる浮遊感。それが最高だと彼は言ってくれた。


「ごめんね、ごめん」


「もう、キスしちゃいますよ?」


一謝罪一キスはもはや俺達の間でのお約束になっていて、どちらかが謝ると、許すようにキスをする。俺は湊を気絶させた恐怖と罪悪感から謝ってしまって、湊はたぶんフワフワしてて幸福で満たされて、調子こいてキスでもしたい感じだろう。




目覚めたら京一さんが僕の首を絞めていた。夢の延長線上かと思ったが、京一さんの冷たい指先の触感で分かって、たまらなく嬉しくなって、もっと強く締めて、と懇願した。京一さんは僕の首を締めながら、可愛いね可愛いね、なんてとびきり可愛がってくれて、僕は脳イキしてしまった。電流が流れたかのように指先や足が線香花火のようにピリピリして、その弾けた中からオキシトシンが溢れ出てきて、頭がフワフワした。京一さんの首絞めは気道を押さえ付けなくて、頸動脈を圧迫する感じで、喉は痛まないし、呼吸も苦しくなかった。一回、誰かとやったんかな?ってぐらい、本当、彼の攻撃性の内なる優しさを感じた。僕はもっと喉を痛めつけて、終わった瞬間に咳き込んで喋れなくなるくらいの首絞めでも全然良いんだけどね。「ぐる"ぢぃ」って言って、馬鹿笑いしたい。いやいや、本当はもっと、究極を求めるように、愛して快楽に溺れてみたい。でも、僕が失神してから目覚めた時のあの動揺ぶりは、かなり気持ち良かった。なのに、ごめんね、ばっか、言ってくるから、キスした、したかったから。


「もうしないよ」


大人っぽく、そう宣言するのが、僕には受け取れなかった。京一さんにはもっと、もっと、僕のことを、愛ゆえに苦しめてほしい。あの「可愛いね」って言葉。貴方はあんな狂ったような苦しい状況でしかそれを言ってくれないじゃん。僕は貴方と日常も非日常も味わいたい。刺激的で、平穏な毎日を暮らしたい。馬鹿馬鹿馬鹿、わかった、本当は僕の気持ちを分かった上で弄んでんだな?


「京一さん、かぁんわぁいい♡♡♡」


「は?締める」


とあの柔らかな微笑みは一瞬で消え、僕の首に腕を押し付け、床の上に押さえつける。京一さんね、気付いてないだろうけど僕の腰の上にずっと乗ってんの。めっちゃ可愛いし、感じちゃうんだよ。床に頭ゴンしても、喉仏が押し潰されても、この京一さん、最高に良い、好き。


「あははっ、もっとお♡」


僕が図々しくお強請りを続けると、今度は僕の上で京一さんが倒れ込んだというか、重ね合ったというか、とにかく、僕の顔の近くに京一さんの顔がある。貪り食うようなディープキス。首を押えていた腕は、いつの間にかに、僕の頭を支える枕になっていて、全身で京一さんの重みを感じている。この押さえつけ締め付けられるのが安心して好き。もっと、僕を求めて束縛してよ。僕がいないとダメだって、言って。


「ごめん、頭冷やしてくる」


今までの行為を好意を、すべて、そうやって、せせら笑う。そして、煙草片手に、素足のままで、外に出る。玄関が閉まる。蝶番がバグってて、勢いよく閉まり激しい音が鳴る。……なんで逃げちゃうの?僕はこんなにもこんなにも、貴方と愛していたいのに。あの行為が人間の本能によるものとして、貴方が煙草片手に頭冷やすのは、理性がその隙間に入り込んでしまっているからだろう。だから、その理性を一切合切入り込ませないように、本能のタガを外させて出し惜しみのないくらいに、僕に惚れさせる。それができたなら、僕はこんな侘しい気持ちにならなくて済むんだろうな。よぉーし、僕も血ぃ流してからいーこおっ!


「京一さん、それじゃあ学校行ってきまーす」


ずーっと玄関で虚構を見つめて立ちすくんでいる貴方に、左腕を使って手を振って、鞄と生意気ぶら下げて、貴方の背後を意気揚々に通り過ぎた。


「いってら」


貴方は死んだ目で僕を見つめながら、誰のためでもない呟くような低い微かな声を発する。それでも、僕は聞き逃さないからね。今日も朝から幸せいっぱい胸いっぱい。

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