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9話:対決 ミルナ

 蛇女の魔王こと水殺のミルナと対峙して2分程経つ。ミルナがしていることは手招きだけだ。だが俺は、内心焦っている。実際俺は、体勢を整えたら逃げようと心では思っているのにもかかわらず、身体はミルナの元に行こうとしているのだ。

 その身体の行動に引きづられて、思考にまでミルナと戦おうというノイズが混じってきている。


 これは、もしかしたらミルナの能力なのかもしれない。水殺の異名を持つものと言いながら、実はあの手招きを見ると、誘惑されてしまう能力なのかもしれない。

 そうすると、あの手招きに、誘われてしまいミルナに近寄った瞬間。パクリと天国に連れていかれてしまう可能性が高い。


 不味い。このままでは不味い。今は、手招きの誘いに抵抗できているが、まったく動けないでいる。と言うことは、ミルナが川の中から陸に上がってきたら、蛇に睨まれた蛙のごとく、動けないままパクリと天国に連れていかれてしまうかもしれない。


 努力だ、ここは努力をするところだ、そして一分でも一秒でも早く、誘惑に対抗できる能力を得るんだ。


『お兄ちゃん。頑張って』


 ミユキのカットインが入った。これならきっと、誘惑に勝てる。




 幸いなことに、ミルナは誘惑の言葉と手招きを、その場から動かずにしているだけであった。だがその行動も、すでに3日間続けており、今はその3日目の夜である。


 長丁場な戦いとなっているが、この静かな誘惑との戦いに、俺は勝利をおさめている。


 何故かと言うと。俺の努力すればなんとかなる能力は、やっぱりすばらしい。努力することを決めたあと、誘惑に抵抗する能力はミユキのカットインもあり数分で得ることが出来た。


 だが気を抜くと、フラっとミルナに引き寄せられてしまうので、この能力を鍛えるために、誘惑の力を、もう少し努力しなから受けることにしたのだ。


 幸いミルナは川の中から出る気はないらしい。

 もしかしたら、川から出られない魔王なのかもしれない。

 ならば、川の中にさえ入らなければ、問題がないと考えられる。そして能力が、十分に誘惑に抵抗できるまで向上したので3日目の朝からは、誘惑に負けそうな振りして、わざとフラついて、ミルナに近寄り、ミルナに、あともう少しだと思わせてから、数歩戻るを、繰り返していた。



「ツぅ。アナタも頑張るわね。アタクシは、もう限界かも。あぅ。でもアナタごときに負けるなんて許されるわけがないのよ。ぅぅん。ほら、アナタも限界なのは、わかっているわよ。っう。ふふふ。気持ちよすぎて足がフラついているわよ。さあ。アタクシの命令よ。もう、諦めてしまいなさい。…………そう、いい子ね。お姉さんのここにいらっしゃい。そうよ。あと少し。もう少しで入り口だからね。さぁ。ぐいっと入れてしまいなさい」


 俺は、あと一歩で川に足を踏み入れるところで、ハッとした表情を作り後退りした。まったく。この魔王はこんな夜もふけた時間に、なんて妖しい事を口走るんだ。面白いからって口走らせているのは俺だけど。


 3日間、休まず手首を動かしていたミルナは、手首が腱鞘炎(ケンショウエン)にでもなったようだ。手招きするたびに、痛みの声を挙げている。


「くぅー。痛たたた。手首がもう限界よ。まったくもう。あと少しだったのに。アナタ。いい加減、川の中にお入りなさい」


 手首が痛くて能力が出せなくなったのか。とうとう、誘惑の力ではなく、普通に命令してきやがった。敵に有利な川の中に、入れと言われて入るバカはいないよ。

 内心そう思いつつも、ミルナのセリフに合わせて、ついフラっと川の中に引き寄せられる演技をしてしまった。


「あ。今、能力使ってないのに、フラつくなんておかしいですわよ。まさかアナタは……」


 しまったバレたみたいだ。でも新しい能力を、得て更に十分に向上させて貰ったから、次の展開に移るにはちょうど良いか頃か。


 俺は、魔王と戦う気はない。元の世界に戻る気がないからだ。それは初めから変わらぬ本心である。なので、次の展開としてすでに、逃げるを選択している。なのでミルナの居る川から離れるため、内陸に向かって逃げる体勢を整えて、さぁ逃げるぞと力を込めたときに。


「……まさかアナタは、変態さんだったのかしら」


 いや、そこは「誘惑が効かないのね」とか言うところだろ。

 この場からダッシュで逃げようとして地面を蹴ろうとしたときに、変態さん発言をされてしまい、そんな事を言われると思ってもいなかった俺は、地面を蹴り損ねてしまった。

 その結果、転げてしまい、左腕が川に浸かってしまった。水以外の感触を感じて、不味いと思って左腕を引き上げようとしたが、時すでに遅し。

 半透明の触手の様なものが腕に巻かれていた。

 ヤバいと、思った時には、ミルナが目の前に居た。いや、俺がミルナの目の前まで連れていかれていたのだ。俺の四肢は、既に触手で縛られていて、大の字で吊りあげられている。

 しかも、おかしいぞ。腕に力が入らない。足もだ。座禅の後のように痺れて動かすことが出来ないなんてまさか。


「あらまあ。良くわからないけど、魔王同士の戦闘中に転ぶなんて、ずいぶん油断していたわね。散々手こずらせてくれたけど。でももう抵抗できないわよ。ワタクシの触手には、即効性の麻痺の効果があるからね。いくら植物系の魔王は耐性が強いと言っても。段持ちの魔王でもない限り、抵抗できるわけがないのよ。さあ、どうしてあげようかしら。ワタクシの手首を痛め付けた罰を与えてあげないといけないわね…………でも、いくら魔王戦と言っても、3日間は掛かりすぎだわ。もうワタクシ、疲れましたわよ。だから、早く終わりにして休みたいわ。ふふふ。アナタは既に、全身が麻痺して、もう聞くことも話すことも、出来ないだろうけど。名も知らない植物系魔王よ。アナタは強かったわ。ワタクシが、こんなになるまで手こずらせたのだから。あら。ショック状態になっているのかしら呼吸が深いわよ。こんな状態になるのを見るのは初めてだわ。もしかしたら、ワタクシの力が、この戦いで上がったのかもしれないわね。それならば感謝もしてあげるわ。でもこれで、さようならだ

ね。アナタは、初めからやり直しなさいな。アナタの力は、ワタクシの力となるのよ。では、いただきます」


 蛇女の魔王ミルナは、俺を丸飲みにしようと、顔にある口を、裂けるんじゃないかとばかりに開いた。だがあのサイズでは俺のヘルメットより小さいから、丸飲みなんて出来そうもない。

 でも、おかしいぞ。あれしか開かないのにクマは飲み込まれていた。なんでだろうと思っていたら、理由はすぐにわかった。

 それは蛇の下半身が縦に避けて、そこから舌をチロチロと動かしていたからだ。どうやら本体は下半身で、上半身は飾りのようである。

 ミルナは、俺がもう麻痺にやられて、抵抗できないと思っているみたいだ。この俺に「ずいぶん油断していたわね」とか言っていたが、どちらが本当に油断していたのか思い知らせてやる。


 どうして麻痺している筈の俺が、余裕で思考しているのかと言うと。そうさ。俺は麻痺なんてしていないのさ。

 常に万全な身体になる能力は、麻痺しても、ひと息つけば万全な身体に戻る。ミルナの長ゼリフの間、深呼吸をこまめにすることにより麻痺になっても、すぐに万全な身体に戻るを、何度も繰り返していた。

 当然だが、努力すればなんとでもなる能力のおかげで、俺は麻痺にならない身体になったようだ。


 誘惑への耐性に、麻痺への耐性。ミルナとの戦いで二つも能力を得ることが出来た。ミルナよ。ありがとう。おれからも、さよならを贈ろう。


 俺は既に、両手両足に魔力を溜め終えているから、あとはやるだけさ。そうあれをな。


『お兄ちゃん。頑張れ』


よし。このタイミングでミユキのカットインが入った。これで大丈夫だ。


「放電!」


 まさに、大きく縦に裂けた口の中に放り込まれた瞬間に俺は、電気魔法を放った。

 ちょうど触手が俺の身体を放したタイミングでの放電だ。電気を飛ばすことは出来ないから、僅かな時間、俺の手のひらと、足先に帯電・蓄電し、電気は増幅していく。


 ミルナの口は、俺の身体を包み込むように閉じていき。大の字で滞空している俺の両手両足に、口内がほぼ同時に触れた。


「アバババ。ガバガバ。びろーん」


 変な叫び声が聞こえたと思ったら、下半身の口を開いたまま、動かなくなった。

 俺は、すぐにミルナの口内から外に飛び出して岸辺に足を着けてから身構える。もしかしたら、一瞬気が飛んでいるだけかもしれないからだ。


 カットインも入ったし、倒せていると思うけど。常に先を考えている俺って格好良いかな、そう自画自賛しながら、様子を見ていると。


 やはり、杞憂だったようだ。ミルナの身体からシャベルナの時と同じように、何かモヤみたいのが抜け出ると、身体が小さくなりはじめたからだ。


 そして、妙齢な美しい女性が残るわけなく。黒いビギニアーマーの上下セットを身体にまとわりつけた、それなりに大きな蛇が陸に上がり、邪魔だったのだろうビギニアーマーを振り落としてから、森に消えていった。


 俺はビギニアーマーを拾い、影魔法にしまいながら、唐突に女性の謎に迫ることにした。

 蛇にまとわりついていた、ビギニアーマーは、上下セットであった。蛇には間違いなく邪魔な防具であろう。残して行ったのは理解できる。

 だが、ミルナには必要な防具であったから装備していた。それも理解できる。胸当ては実際に装備していたのを見たからだ。しかし、パンツはどこに装備していたのだ。

 ミルナの下半身は足ではなく、蛇の胴体だったのだから、足を通す穴は一つで良いはずなのに、穴が普通に二つある。

 これは謎である。二つある穴の片方だけに無理矢理胴体を突っ込んでいたのであろうか。それとも、これは女性の神秘なのであろうか。


 女性の謎に迫ったが、残念ながら、答えを得ることは出来なかった。これは、俺の探究する努力が足りないのかもしれない。これからも努力を怠らずに頑張ろう。


『お兄ちゃん。それは。無理だよ』


 男には女性の謎を解くことが出来ないのか。残念な幻聴が聞こえた気がした。


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