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7話:対決 シャベルナ

「あはん。うふん。はぁん。はぁ。アナタって。はぁ。凄いのね。あうん。ワタシは、はぅ。もう無理。はぅ。ほんとダメぇ。あぅ。これ以上は死んじゃう。はぁ。はぁ。お願い。もうイって」


 さっきから、俺の目の前で色っぽい事を言っているのは、毛深い身体はゴリラマッチョで、頭部から羊の角と口から牙を生やしたスキンヘッドの悪魔こと、特3級魔王のシャベルナだ。

 声だけ聞いていれば、興奮してしまいそうになるほど可愛い声なのに、この世界はなんと恐ろしい。

 シャベルナは、あんな声を出して(アエ)いでいるが、俺がナニかしたわけでも、触ってもいないし、それこそ淫魔(インマ)な魔法を掛けたわけでもない。ただシャベルナから逃げようと走っていただけである。


 そう。俺は逃げることにしたのだ。戦っても良いけど、魔王に負けたらそれまでだし、勝ったら元の世界に戻れるけど、今はまだ来たばっかりだし、せっかく鍛えたからには思う存分、俺TUEEEしたいし、元の世界はつまらないし、きっと、この世界には真剣に元の世界に戻りたい奴が居るだろうから、できれば魔王と戦う権利はそいつらに譲りたいし、とにかく魔王と戦うとなると良い事がひとつもない。


 だから逃げたのだが、さすがは魔王だ。山を越えて走って逃げる俺を、昼夜休むことなく、7日間追いかけ続けてきたのだ。だから、あの通り息も絶え絶えな状態になっている。


 俺はなんで疲れていないのかだって? そんなのひと息つけば、万全な身体になるのだから疲れたところで問題なんてない。

 初めの頃は、全力疾走なんていつまでも続くわけなく。1分毎にひと息ついていたけど、努力すればなんとでもなる能力のおかげで、持久力が大幅に向上した。実際、今では昨日から一昼夜、ひと息もつかずに走り通せたのだから。

 追い掛けてきていたシャベルナは、多分疲れて足を(モツ)れさせたのだと思うが、盛大に転んでいたので、つい足を止めてしまった。その時の台詞がさっきの喘ぎ声なんだけどね。


 でも、本当にシャベルナは、この世界の神が異世界に助けを求めるくらい恐ろしい魔王なのか。(ハナハ)だ疑問だ。この世界の神が出会ってしまったら瞬殺されてしまうと恐れている能力など無さそうだし。背中にコウモリのような翼があるのに、翼を使って飛んで追い掛けてくる訳もなく、走って追い掛けてくるなんて、お間抜けキャラとしか思えない。


まあ。「もう行って」良いと言っているのだから。見逃してくれることにしたのだろう。それならば、その思いをありがたく頂こう。


 こうして俺は、魔王から逃げることが出来た。


 と、なれば良かったのだが。俺は逃げるために、シャベルナに背中を向けて走り出そうとした瞬間、地面に顔面を打ち付けていた。どうやらシャベルナの擬態だったみたいだ。

 俺の背中に乗っているシャベルナから、甘いセリフの吐息が聞こえてくる。


「はぁん。油断したね。ひぃん。これでアナタは、ワタシのものよ。ふぅん。ここまで、ワタシを責め立て。へぇん。お返ししてあげるわ。ほぉん。はぅ。良いわ。この感じ。興奮する。ひぃん。ひぃん。はぁ」


 疲れて息が上がっていること事態は擬態でも何でもなく事実のようだ。それにしても本当に、このシャベルナって魔王は耳元で(ササヤ)かれる声だけ聞いていれば「イタズラばかりしてごめんなさい。もう、お姉さまの好きにして!」って言いたくなるくらい可愛いのに、汗臭いしなんて残念悪魔ゴリラ魔王なんだろ。


「はぁ。はぁ。ひぃん。また逃げられたら。ふぅ。ふぅ。へぇん。面倒だから。ほぉ。ほぉ。ひぃん。このまま頂きます。ぅうん。はぁ。はぁ」


 やべ。うつ伏せに押し倒されているこの体勢では抵抗できない。このままだと食われるだけだ。

 人間の構造的に背中を押さえつけられると、反撃のしようがない。

 魔王に効くかわからないけど、あれをやるしかない。この体勢では自爆の様な気がするけど。まだ異世界を堪能していないのに、何も得ぬまま死ぬわけにはいかない。


『頑張ってね。お兄ちゃん』


 ミユキの声のカットインが入った。何故だか、ミユキの応援を受けると、問題なく何でも出来る気がする。よし。ミユキを信じて、何よりも自分の力を信じて。今保持している魔力を全て背中に結集して。


「放電!」


 俺が、そう叫んだ瞬間と、シャベルナが俺に噛みつこうと体勢を直したのは、ほぼ同時だった。


 背中に乗っているものに電気を流そうとしても、結局は俺を通って地面に電気が流れるのが普通だ。電気は流れやすい最短距離で地面に流れていくものだからだ。しかしそれは放電すれば、俺も間違いなく感電するということを意味するのだ。

 だから自爆の様な気がしていたのだが、ミユキの後押しを受けてやることを決めた。

 後から考えても放電のタイミングはあの瞬間しか無かったと思う。早すぎれば自爆。遅ければ食われていただろう。

 シャベルナが体勢を直すために片手を地面についてくれたことにより。木の防具を装備している俺の身体を通るより、走り続けて汗だくのシャベルナの腕を通って地面へ電気が流れるほうがより電気にとって最短距離だったみたいだ。


「あひゃひゃ。あへあへ。うきゅぅ」


 訳のわからない叫び声を上げて、シャベルナは力尽きたようだ。のし掛かってくるシャベルナの体重が背中に掛かり、とても重たい。それにしても、ギリギリのタイミングだった。俺の左肩にシャベルナの牙が刺さっている。でもそのおかげで牙から直接脳に電気ショックを与えることも出来たみたいだ。


 なんとかシャベルナの下から這い出てひと息つく。万全な身体になる能力で、すぐに肩は痛くもなんともない。起き上がってシャベルナを見ていると、何かモヤみたいのがシャベルナの身体から出ていき、その身体が急速に小さくなっていった。

 これがゲームの世界ならシャベルナは、美少女になって「助けてくれて、ありがとう」とかなるのだろうが、現実は甘くなかった。

 そこに残ったのは、ビギニアーマーを装備している普通のゴリラである。

 もしかしたら、この世界の知的生命体かもしれないと思って見ていると。


 気が付いたゴリラは「ウホッ」と言って突然立ち上がると、ビギニアーマーを邪魔に思ったのか引きちぎるように脱いで、森の中に消えていった。


「まあ。そうだよな。完全にゴリラだったし」


 どうやら魔王は精神生命体のようだ。何か切っ掛けがあって生き物に取り付いて、魔王化するって感じなのかもしれない。

 でもシャベルナは、この世界の神が言っていた魔王では、やはり無いようだ。出会った瞬間に殺られる、瞬殺魔王では無かったし。いつまで経っても白い世界に連れていかれないしね。


 ひとまず、元の世界に戻らされずに済んで安心だ。

 それにしても、大岩を砕いただけで、魔王が現れるだなんて、なんて世界だ。もしかしたら魔王ってたくさん居るのか。これからは、下手に魔王を蘇らさないように、慎重に行動しよう。


『お兄ちゃん。それは。無理だよ』


 嫌な幻聴が聞こえたような気がした。


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