6話:旅立ち前のひと仕事
「お前らは強かった。だがもう過去形だ。今まで特訓に付き合ってくれて、ありがとうよ。でもさよならだ。俺の血肉となりやがれ!」
俺は高速ステップを踏んで、最後の一匹となった身長2mはある直立歩行するイノシシの背後に回りこみ、軽くイノシシの背中を叩いてから大きく距離をとる。べつに普通にぶん殴っても倒せるのだが、ちょっと努力して得ることが出来た、俺の考えた小技を試してみたかったのだ。さて結果はどうかな。
直立歩行するイノシシは、暫くその場に立っていたが、糸が切れた人形の様に、膝から崩れ落ちた。どうやらうまくいったようだ。
何をしたのかと言うと、手のひらに魔法で作った電気を貯めて、イノシシの心臓辺りで放電したのさ。結果はあの通り、いい感じに心臓麻痺を起こして倒れてくれた。
この電気魔法。自身が感電すること無く強力だが、接触しなければ放電出来ないと言う弱点がある。まあ、ドジって噛みつかれたり掴まれたりした時に、放電すれば逆転勝利になるし、隠し技とすれば上等だろう。
さて、この辺りに俺より強そうな奴は居なくなったし、そろそろ異世界を見て回るかな。
そう思いながら、直立歩行するイノシシを解体する。解体に使っているのは電工ナイフと言う電線の被覆を剥く道具だ。そのまま使うには、切れ味が悪るすぎて解体に向かないのだが、【鋭くなれ】と意思を込めて魔力でコーティングすることにより、驚きの切れ味を実現することが出来た。
俺の考えた魔法は柔軟性がある素晴らしい魔法だ。なんでもかんでも漢字に置き換えれば現象を得ることが出来るのだから。ただカミナリを飛ばせないように、火の玉を出しても飛んでいかないし、水も流れ出るだけしか出来ない。これは俺の努力が足りないのか、それとも、この世界の魔法の限界なのだろうか。限界だとしたらちょっと残念に思うが、それがこの世界の自然法則だと思えば問題などない。元の世界では、魔法なんて存在しなかったのだから、それはどんなに努力したところで得られないものだ。それに比べれば、魔法があるだけましである。だからと言って、自分の限界は自分で決めない。引き続き特訓を続けるつもりである。
解体した肉は、異次元影倉庫魔法にしまいこむ。中二病とか言うなよ。無限道具袋なんて身体を鍛えれば持てるからいらないと思っていたが、道具袋の必要性は重さではなく嵩張る方だったと気が付いたのは、2週間くらい前。3つ目の願いにすれば良かったと後悔したが、影魔法に収納ってよくある話しだと思ってやってみたら、余裕でいけた。今では直立歩行するイノシシ肉が5tくらい入ってると思う。
味は豚肉っぽかったから、トンカツ屋でも開けるかもしれない。
他にも色々入っているが、特筆するなら直立歩行するイノシシの身体に入っていた、ビー玉サイズから握り拳サイズくらいまでの石だ。すでに数十個入手した。この石はキラキラ光って宝石みたいだから、ぜったい普通ではない。この世界にギルドとかあったら、きっと換金出来るに違いない。
ちなみに、緑の変な生き物の身体の中にも爪先程の石が入っていたから、ちゃんと回収してある。こいつの肉は食えないことは無かったが臭くて不味かったから、肉は回収してないけどね。
旅立ちの前に、装備の確認をしておこう。
頭は、カツラの様にも見えるがヘルメットの形に木の幹をくりぬいて髪の毛の様に蔦を絡ませた逸品だ。迷彩効果が期待できるはず。そんな感じで、両腕と心臓と両足のスネに、迷彩加工した木の防具を装備している。防御が必要になったら【堅くなれ】と意思を込めて魔力を流せばイノシシの攻撃でもヒビひとつ入らない。
迷彩をしているのは、何だかんだ言っても目立つより目立たない方が格好良いからだ。地味な主人公がイザと言うとき、派手に戦い、見ている人達の度肝を抜く。考えただけでも最高だ。
問題があるとしたら、この世界に俺の勇姿を見てくれるような存在が居るかどうかだ。まあそれならそれで良いけどね。
さて、行く前に最後の仕事をしなければいけないな。この洞窟に来たばかりの俺では無理だとしか思わなかったが、今の俺になら出来る。大岩から湧き出る美味しい水の正体を見てやる。
『うん。出来るよ。頑張ってね。お兄ちゃん』
久しぶりにミユキも登場か。なら、大丈夫だな。
「集まれ、俺の魔力。そして爆発しろ。岩塊破壊掌」
派手なことを言ったが、やっていることは地味だ。俺は大岩に手のひらを押し付けてから、洞窟を飛び出し身を伏せる。 その直後、大きな音が洞窟から聞こえ、岩の欠片が飛んでいく。爆発の魔法事態は成功したようだ。後は、大岩が破壊できたか確認するだけだ。
洞窟内を覗いたが、土ボコリが充満しているので、殆ど見えない。でも何かが光ったような気がした。もしかしたらお宝でもあるのかもしれない。暫く待ってから再び覗いてみると。まだ土ボコリが舞っているが、見通すことは出来そうだ。
さっき光ったのは何だったのか、調べようと思っていたが、調べる必要は無かった。なにせ。
「ワタシを岩から出してくれたのは、アナタかしら?」
そう喋る声だけ聞いていれば、おしとやかな可愛い系の女性が現れたからだ。だが声に騙されてはいけない。なにせ、スキンヘッドの頭に羊の様な角を生やし、口許から牙が覗いている。浅黒く毛深いマッチョな身体を守る防具は取り合えず装備していますと言う程度の黒いビギニアーマー。しかも背中にコウモリのような皮膜がある。
どう贔屓目にみても悪魔だ。身長2m以上ある大女悪魔だ。
色々なことが一度に起こったので、何も言えないでいると。
「ワタシは、シャベルナ。特3級魔王シャベルナ。名操りの異名を持つもの。ワタシが自力で出ることが出来なかった岩から出してくれたアナタは、何級の魔王かしら。もしかして段持ち?」
何級? 段持ち? いったい何を言っているんだ、この悪魔は。あ。悪魔ではなくて、特3級の魔王か。もしかしてこいつが、この世界の神が言っていた魔王なのか。確か、魔王を倒せば元の世界に戻してやるとか言っていたけど、来たばっかりで、まだ戻りたくないな。ここは戦わないようにして逃げるべきだろう。
その為にも、話しを合わせるしかないか。でも意味がわからん、どう言えば良いのか。
考えをまとめようとして失敗している俺をよそに、シャベルナが話し掛けてくる。
「なるほど。植物系の魔王を選んだから、無口キャラを演じているんだね。それは、それで楽しいかもしれないけど、お礼くらいはしたいから。名前を教えて欲しいんだけど」
植物系の魔王? 無口キャラ? キャラってどう言うことなんだ。もしかしてゲームか何かのキャラの事なのか。しかも、名前を教えてくれってしつこいし。そう言えば名操りとか言っていたな。名前を言ったら操られてしまうのかもしれない。ここは無口を通すべきだろう。
俺は片手を挙げて左右に振りつつ、この場か離れようと後退りした。
「無口キャラを徹底しているなんて珍しい人だね。そう言う人大好き。胸がキュンキュンしちゃうよ。ワタシの仲間にしたいってね。でもね。この世界は、魔王同士の戦いが許されている世界だから。ワタシの名乗りを聞いて弱みを見せたアナタは、嬉しいことにワタシより格下なんだね。どんな能力を持っているのかわからないけど、その能力を貰い受けますわ。アナタは、初めからやり直してきなさい」
しまった。よくわからないから、仲間の魔王の振りして逃げようとしたのが裏目に出た。それでも完全無視して逃げるか、それとも魔王と戦うかどうする。




