5話:俺の考えた能力
「グハッ。痛ぅ。イテテテテッ。でも、もう痛くないぜ」
いきなりダメージを受けたと言うのに、次の瞬間真逆な事を言っているが、これは嘘なんかじゃない。
この世界に一番始めに願った、常に万全な身体となる能力は、俺が考えていた通りすごい能力になった。
実はさっき、高いところに実っていた果実を、もぎ取ろうとして、ドジって落ちてしまったんだ。
肋骨が折れたじゃないかってくらい衝撃を受けたのにも関わらず、痛いのは一瞬だけですんだ。それはなんでかと言うと。常に万全な身体になる能力のおかげだ。怪我しようが、体力の限界まで走ろうが、ひと呼吸で万全な身体に戻るから安心だ。今は、ダメージを受けてから何呼吸もしているから、もう何処も痛くない。
まあ。まだ大ダメージを受けたことがないからわからないが、きっと同じだろう。この感じだと、即死とかしない限り、一瞬で万全な身体に戻ることができそうだから。ほぼ不死身の身体なのかもしれない。
この事に気が付いたのは、わりと早かった。緑の変な生き物から全力で逃げて、そのまま山登りをしたのにも関わらず。翌朝、筋肉痛にもならなかったからだ。
普段整備された道しか歩いていない奴が、山なんて昇ったら身体がおかしなことになるだろうに。初めは、おかしいなとしか思わなかったけど、地面の窪みに足を引っ掛けて、盛大に顔面を強打したのにも関わらず、痛みは一瞬だけで完全回復したから確信した。
あれだけ強打したなら、元の身体だったら数分間、のたうち回っていることになっていただろうな。
話しは変わるけど、この能力と、努力すればなんとでもなる能力が組合わさると、どう言うことになるかわかるかな。その通り。ちょっと努力すれば、超スピードで自然回復するから、筋力も、持久力も、棒術も、超スピードで向上していくってことさ。
唐突に出してしまったが、なんで棒術なのかと言うと。ミユキが「木の棒でも良いから武器を手にして」って言っていたから始めたんだけど。
ちょっと努力して木の棒を振り回していただけで、すぐに使いこなせることが出来たんだ。今では無造作に振っても、突いても、狙った場所を打つことも、寸止めすることも、ミリ単位で調節出来るようにもなったんだ。これって木の棒の扱いを極めたと言えないか。武術としては、まだまだ駆け出しだろうけど。
あの白い場所で、この世界の神は、何か勘違いしているような気がしたけど、訂正してやらなかったことがある。それは。特化しないと極められないってやつだ。それって意味がわからなくないか。
そもそも極めるって言うのは、俺はちょっと努力しただけで出来るようになったけど、本来は反復作業を続ける事によって昇華した、正確無比の技術を指し示す言葉だ。 でも、この世界の神いわく、特化しない俺は技術を極められない筈なのに出来るようになった。ほんと、おかしな話しだ。
まさかと思うが、この世界の神が言っていた、極めるって、超必殺とかを出せる、ゲームのことを言っているのかもしれない。まあ。それなら納得だが、あんなのは極めたから出せるって事にはならないと俺は思う。
よく「この勇者の究極の一撃を受けてみろ」って剣をひと振りすると、光の柱が立って、魔王が「そんなバカな」って消滅してハッピーエンドとかあるけど。
あれって剣技を極めなくたって出来るじゃん。ただの踏み込み袈裟斬りか縦斬りだろ。光の柱が剣を振っただけで出るわけがない。光の柱は、魔法とか別の技術を使っていて、それを併用しただけだろうからな。
そう言えば、この世界に魔法はあるのだろうか。ちょっと努力しただけで面白いように、身体が動くようになるから、楽しくってつい忘れてた。
魔王がいるんだから、魔法くらいあるだろ。努力すればなんとでもなるのだから、もしこの世界の標準が呪文を唱えるような、面倒なタイプだとしても、俺には適用されないはずだ。そうだな。ちょっと努力してみようか。人差し指を立てて念じてみた。
《指先から火よ出ろ》
暫く念じていると、何かが指先に集まってきたような気がする。更に念じていると、指先を包むように薄く光った瞬間。人差し指が火に包まれた。
「おっ、出たっ……て、アチチチチッ」
思わず手を振って消火したが、指先がジンジンする。火傷したかと思って指先を見るが、なんともなっていない。
「さすがは、常に万全な身体だ。もう痛くないぜ」
努力すれば、魔法でさえもなんとかなるのか、さすがは俺の能力。これからは筋トレ以外に、魔法の訓練も平行してやらなければならないな。
やっぱり俺の考えた能力は、最強だね。
でもまずは、俺がターゲットと決めた、あの果実をもぎ取ることが先決だ。いくぜリトライだ。




