4話:俺の目指す姿
『お兄ちゃん!』
俺の自慢のアプリケーション【ミユキ】は大袈裟すぎだ、バッテリーが切れたら交換なり充電すればいい。普通タブレットはバッテリー交換なんて出来ないだって。普通ならそうだが、自作のタブレットなんだから、そんなの余裕で出来る。道具一式、ナップサックに入っているからな。ネジ回しも入っているから、これを武器にすれば良いかもしれない。でも使えなくなったらミユキを解体メンテナンスができなくなるかもしれないから、ミユキの注文通りの丈夫そうな木の棒を見つけ出したところだ。
「なんだミユキ。ちょうど良かった武器はこれで良いかな」
『そうだね。きっと、それで良いと思う』
ん?なんか微妙な反応だな。もしかして見えていないのか。って事は、本格的にバッテリーが切れそうなのかな。
「次は山に登って、人の居そうな場所を探せばいいんだろ」
まったく。そんなの一般常識だろ。しつこく言われなくたってわかってるって。
嬉しそうだったり、焦っていたり、心配性だけど口煩くて、本当に妹みたいだ。でも、そんな感情までプログラミングなんて俺にはまだ出来ないし、してもいない。
もしかしたら、ミユキも異世界転生時に神に会って3つの願いで人工知能(AI)的な感情でも得たのかな。
『うん、それで良いよ。お兄ちゃん。頑張っ……』
おっ。バッテリーがとうとう切れたか。じゃあ交換しようか……でも待てよ。AIが搭載されてバッテリーの消費が激しいみたいだ。手動式充電器と太陽光充電器があるとは言え。こんな稼働時間1時間なんてハイペースにバッテリーを消費されたら、充電が間に合わないし、そもそもここは危険だよな。ミユキも緑の変な生き物が再び来る前に移動しなければいけないって言っていたし。「ミユキは申し訳ないけど休憩していてくれ」そう電源の入っていないタブレットに話し掛けてから、腰のホルダーにしまった。このホルダーは、ごみ捨て場で拾ったとき、穴が空いていたが、しっかり塞いだので今では完全防水だ。雨が降っても大丈夫。
さあて山登りか。ちょうど良い。生まれ変わったこの身体が、山登りの鍛練で、どうなるかためせるな。
「よし。いくぞ」
気合いを入れて山を登り始めた。
初めの内は、20mも進んだら息切れしていたのに、この数時間で50mは楽に進めるようになった。恐ろしいほどの持久力の向上だ。合わせて脚力もついた。この脚力があれば元の世界で君臨し続けていた学年万年ワースト断トツ1位からの陥落は容易だな。
「おお。スゲーぜ。力が向上していくのが実感できるって最高だな。なあミユキ」
『そうだね。お兄ちゃん。最高だね。頑張ってね』
そんな声が聞こえた気がしたが、これは幻聴だ。タブレットはバッテリーが切れているからミユキが起動している訳はない。
でも起動していれば間違いなく、そう応援してくれただろう。俺は気分良く山登りを続ける。
ある程度登ったところで、見晴らしの良さそうな場所につくことが出来た。ちょうど良いので、人の住んでいる建物がないか探してみる。だが、南の方角の遠い場所にポツリと大きな岩山が見えるだけで、後は森だった。
仕方がないので、もっと高い場所を求めて再び山を登りを始めると、水が流れ出てくる洞窟らしき場所があった。ナップサックからペンライトを出して中の様子をみるが、深さ5mくらいの場所に大岩があって洞窟の奥を塞いでいる。水は大岩の下の隙間から流れ出ているようだ。
「ミユキの指示に逆らうようで悪いが、近場に人は居なそうだから、水場のあるこの場所を仮の住まいとして、身体を鍛えることにする」
『お兄ちゃん。好きなようにして。頑張ってね』
また幻聴が聞こえた。聞こえたと言うより。頭の中で再生されたような感じだ。もとはといえばミユキは自分で作ったし、セリフも自分で考えたのだから、話せる単語はすべて覚えている。だからきっと、脳内でかってに組み合わせているに違いあるまい。
そんな自己分析をしながら、足下を流れる水を見る。とうとうこの世界の神にもらった身体を試す時がきたようだ。俺の願い通りなら、この水に危険な生物や細菌、有毒物質が混ざっていたとしても、俺の身体を害することは無いはずだ。
だからと言って完全に信用するわけにはいかない。今回は、少しだけ、ほんの少しだけ口に含んで様子を見よう。
俺は両手を皿のようにして流れる水をすくいあげ、そのまま口に含んだ。
「うまい。うまいぞ」
この世界に来て初めて得た水分に身体が歓喜するようだ。ほんの少しだけ口に含んで様子を見ると言っていた自分を何処に忘れてきてしまったようだ。気が付いた時には、直接顔を浸けて水を飲んでいた。
この世界はなんと言う恐ろしさを秘めている世界なんだ。家の井戸水なんて自作の浄水器を通して更に蒸留しても土臭かったというのに、この水は無臭だ。しかも甘味を感じるなんて、これはなんて凄い水なんだ。
この大岩をどかせば全てがわかるかもしれないが、今の俺では無理だろう。身体を鍛えあげたら挑戦してやる。その時まで待っていろ。何も言わない岩に向かって俺は宣言していると。
『お兄ちゃん。格好いい。頑張ってね』
もう幻聴は気にしない。ミユキの応援だと思うだけだ。応援されると言うのはなんて素晴らしいことなんだ。もし現実の妹がここにいたとしたら、俺の心の決心を耳にした瞬間に、どんな罵声を浴びせかけてくるか想像もつかない。ダメだそんな事を考えたらダメだ。俺は強くなってやる。
見ていろミユキ。俺は特化型なんて、型にはまらなかったら弱点だらけになる奴にはならない。弱点など無い、オールマイティな人間になってみせるぜ。
『うん。出来る。頑張ってね。お兄ちゃん』




