2-1-1 試運転~レーヴの天空の鏡
結局空は飛べていないけれど、
私は、ものすごく晴れやかな気持ちで、
小杉さんと空きブースに向かった。
「伏見さん放置してきたけど、大丈夫っすよね…」
小杉さんは、どこか落ち着かない様子だ。
「レーヴちゃん。
ウユニ塩湖のブースが無事動いた、って話なんですけど」
「はい」
「本来、ジュエルのブースは、
特定のジュエルに対するセンシングに、
補正をかけてるんす」
……?
「簡単に言うと、
例えばシズクさんのブースなら、
シズクさんが一番演出を引き出しやすく
カスタマイズしてるんす」
なるほどです?
「ウユニ塩湖も、
伏見さん専用ブースみたいに
カスタマイズされてるんす」
なるほどです。
つまり?
「どういうことでしょうか…?」
「これからレーヴちゃんが
使うことになったので、
ちょっと、試運転と確認をするのがいいだろう、と。」
全くわからないけど、
試運転と確認をすることは理解できた。
「わかりました。
私は何をすればいいですか?」
小杉さんは、
上着のポケットをごそごそして、
何か取り出したものを差し出してくれた。
「とりあえず、これ、
1個ずつ両手に握ってもらえますか」
線の付いた野球ボールみたいなものを渡された。
「わかりました。」
小杉さんは、
持ってきていたノートパソコンと
ブースに備えついてある端末をつないで、
他にも何かして…
そして他にも何かして…
私にはわからないまま
ブース内が夜のウユニ塩湖に切り替わった。
「昼に変わったっていう歌、
歌ってみてもらえますか。
おぼえてますか?」
「はい。大丈夫です」
モーツァルトの讃美歌だったはず。
あの時と、同じように歌う。
すると、歌い始めた瞬間、
星空が青空に変わった。
「うっわ、ほんっとに瞬殺…」
小杉さんが興奮しているのがわかる。
「次、えーっと…」
「あと4曲ほど歌ったんですが、
すべて順番に歌いましょうか?」
「いいんすか!ぜひ。
お願いします」
遼叔父さんのために歌った歌を、
順に歌っていった。
ウユニ塩湖は
歌に合わせて、
夕焼けになり、朝日が出て、
雨が降り、虹がかかった。
「マジですげえ…
センシングのS/N比えぐすぎる…」
だから人の設定でも演出が出るのか。
小杉さんは独り言をつぶやくように
ごにょごにょモゴモゴしている。
「あの…」
「…はっ!すんません。どうしましたか」
「このボール…いつまで、
どのくらいの強さで握ってましょう?」
正直に言うと、手が少し疲れてきてる。
「あー、すんません!
もう大丈夫っす」
小杉さんが、慌てた様子で
ボールを受け取ってくれた。
「これは確かに調整要らずっすね。
正直、今日これからでも
お客さん受け入れられるっすよ、レーヴちゃん」
!?
「えっ……」
「いやいやマジで。
ブース、問題ないレベルで動いてますし」
そうは言っても、
“お客さん”に何を歌えばいいのか、
わからないですよ?
「私…何をすればいいんでしょう…?
歌くらいしか歌えないです…」
「ああそうか、
“何を歌うか”くらいは決めといた方がいいっすね」
・・・んんん?
「レーヴちゃん、
ちょっとわかんないんで質問なんですけど」
「はい」
「なんで曲変えると、
雨降ったり朝日出たりしてるんすか?」
私が聞きたいくらいです…。
「雨が降るときの歌は、
雨乞いの歌を歌ってます」
「!!」
「朝日が出るときは、
朝日のことを歌ってる歌ですね…」
「どうして天気が変わるのかは、
私にはわからないです、ごめんなさい…」
「いや、今の回答で十分っす。
最高の回答っす。」
小杉さんは、
ノートパソコンの画面を見ながら
ひたすらなにか言いはじめた。
「生成の解析で、AIが
かなりストレートに働いてんのかな…
それしか考えられん気もするけど…
…再現性があるか試すか…」
返事は、要らなさそうかな。
「レーヴちゃん」
「はいっ」
「試しに、てるてる坊主?
歌ってみてもらえませんか。
雨乞いの歌っすよね?」
またさっきのボールを渡される。
握って歌うんですね、きっと。
「…いえ、あれは
晴れ乞いの歌ですね…」
うなだれる小杉さん。
「雨の歌を歌えばいいですか?」
「はい!そうっす!!!」
徳永英明さんでいいかな。
雨っていえば、徳永英明さんだよね。
お母さんが歌ってたから、覚えちゃった。
――ララ…ララララ…
歌に反応して、
ウユニの大地に雨が降り注ぐ。
「ビンゴ!次、
冬の、雪が降るようなやつ頼みます」
小杉さんのほうを見て頷く。
冬で、雪っていえば。
あっ、
でもあの人は本体が
ポカポカしてそうだよね。
ちょっと紛らわしいかな…?
いいか、試運転だし。
――凍えそうな 季節に君は…
雪が降り始めた。
あ、歌詞のほうが採用されるみたい。
「歌詞とかタイトルのほうに
引っ張られるみたいっすね」
一旦歌うのを止める。
「歌っているときに、
けっこう、その、歌詞の内容を
イメージしながら歌ってます」
小杉さんの目がキラキラしてきた。
「なるほど!
それなら、レーヴちゃんが
“こういう天気にしたいな”っていうのに
合う歌を選んで歌えば、
多分その演出が出るっす」
100%の精度に近づくかどうかは、
今後回数こなす必要があると思うっすけど。
と、続けてくれた。
なるほどそれなら…。
「伏見さんがウユニを譲れるはずです。
レーヴちゃんと相性抜群っすね!」
お客さんに向けて歌う歌の、
セットリストを作っておこう。




