ノエルの悩み③
「ちょーっと待ったぁ!」
ノエルは慌ててアランの上着の裾を掴んだ。今にも街へと飛び出して、手当たり次第に声をかけそうな勢いだったからだ。
「王太子の従者が、そこら辺で適当に女の子を引っかけるわけにいかないでしょ!」
それもそうかとアランは足を止めた。
「では、どうすれば?」
「うーん、母上に相談してみる。アランも結婚すればいいのに、って言い出したのは母上だし。ちょっとここで待ってて」
ノエルはスタスタとポレッタ妃のもとへと向かった。
国によっては、実の母親である王妃に会うだけで、事前の手続きや後日の面会予約が必要な、面倒くさい王家もある。だが、この国は良くも悪くもフランクな王家なので、その点だけは非常に助かった。
ノエルが足を向けたのは子ども部屋だった。
現在、この広い部屋に残っているのは、末っ子のロビン(3)だけだ。
アイラは学園に通っており、ルシア、ハンス、メリルの3人は家庭教師のもとで勉強の真っ最中だった。
「この部屋も、ずいぶん寂しくなりましたね。昔は全員が集まってあんなに賑やかだったのに」
ノエルが少し感傷的に呟くと、母であるポレッタ妃は、木馬で遊ぶロビンを見守りながら、おっとりと笑った。
「お勉強が終われば、ルシアたちはすぐに戻ってきますよ。アイラだってよく顔を出してくれますし。それに、もう少しすればアイリスが赤ちゃんを連れてきてくれるでしょう。──そのうち、あなたの赤ちゃんがひょっこり現れるかもしれないしね」
自分の孫を、まるで「久しぶりに着た服のポケットから出てきたコイン」みたいに気楽に言う母親である。
ノエルはコホンとわざとらしい咳払いをして、本題を切り出した。
「ところで母上。アランがようやく結婚する気になったようなのですが、どなたか良いご令嬢をご存知ありませんか?」
「知っていますよ」
ポレッタ妃は、事も無げにさらりと言ってのけた。
「……えーっと。アランは根は良い奴なのですが、その、行動に少々問題があるというか……」
「大丈夫よ。だって彼女、アランを見てぽおっとしているくらいなんですもの」
「…………」
アランがノエルに対して向ける、行き過ぎた忠誠心(という名の奇行)は有名だ。周囲の人間は最初こそ驚くが、最終的には生暖かい苦笑を漏らすのがお決まりだった。
そんなアランを見て「ぽおっ」とするなんて、相当な変わり者だ。むしろ変人の域に達しているのではないか。
ノエルの怪訝そうな顔から思考をあっさりと読み取り、ポレッタ妃は楽しげに付け足した。
「変な子じゃありませんよ。だって、あなたの従姉ですもの」




