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婚約破棄対策室 〜王太子に婚約破棄されましたが、あざと可愛い弟王子に懐かれています!?〜  作者: 空丘ジル


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30/53

いっそ『ご兄妹皆様で』

 国王エドワードは直ちに王宮への出入り監視の強化を命じた。


(いつまで続くのだろう。ゲルダが遺した怨みの連鎖は、いつまで我々を脅かすのか……)


 エドワードが漏らした深い溜息に寄り添い、ポレッタはその広い背中をそっと撫でた。



 一方、こちらはソフィアの住むローズウェル公爵邸。


 「収穫祭のケーキを一緒に作りませんか」というソフィアの誘いを受け、アイリス、セレナ、そしてルミエラの三人が訪れていた。


 だが、初めて足を踏み入れた公爵邸の威容に、三人は緊張を隠しきれない。特にルミエラは、実家の男爵邸が五十個は余裕で入るであろう広大すぎる空間に、もはや「ガクブル」状態である。


「まあ皆さん。今日はケーキ作りですのに、そんなにおめかしなさって」

 ソフィアの言葉に、三人はそれぞれ荷物を掲げてみせた。

「大丈夫です! ちゃんと着替えを持って参りましたわ」


 完璧に整えられた調理道具が並ぶ、広大な厨房。四人はそれぞれの想いを胸にいそいそと準備に取り掛かった。


(お世話になっているアテナ先生とイングリッド理事長。それに友人たち。……あとは、ノエル殿下にも差し上げないと。あの方は拗ねる……いえ、泣くわね。いっそ『ご兄妹皆様で』と大きなものをお贈りしましょう)


 ソフィアがそんな思慮深い計画を立てる一方で、アイリスは冷静だった。


(両親と、仲良しの友人。そして対策室の皆様。……レオ様とフィン様は省いた方がいいわね。変に気まずくなっても申し訳ないもの)

 もしレオが聞けば、その場で泣き崩れそうな理屈である。


 対するセレナの考えも、なかなかにシビアだった。

(上手に焼けたら、対策室の皆様へ。……失敗したら、フィン様に差し上げましょう。あの方は何を出しても喜んでくださるし)

 こちらもまた、フィンが知れば絶望しそうな基準であった。


 そしてルミエラ。

(広い広い広い! 怖い怖い怖い!)

 彼女はもう、ケーキどころではなかった。


 四人四様の想い(と迷走)を込めて焼き上げられたケーキは、見事なまでの「消し炭」と化し、結局、料理長の厳しい監修のもとで一から作り直しとなった。



 ハア、ハア……。


 荷馬車というものが、これほどまでに揺れるものだとは知らなかった。


 勝手に潜り込んだ荷台の中で、モルティマーは荒い息を切らしていた。薬物に蝕まれた体にとって、この振動は拷問に等しい。


 斜めに下げたカバンには、禁忌の薬と全財産、そして国外追放の折に母からくすねてきた宝石類が詰まっている。


 アカデミーさえ離れてしまえば、もはや普通の馬車を雇っても足はつかないはずだ。

 モルティマーはせり上がる吐き気を押し殺しながら、薬の匂いを深く嗅いだ。


(まずは行商人にでも化けて、国境を越えてやる。……それからだ)


 国にさえ戻れば、自分は「悲劇の王子」として、貴族たちの同情と支援を集めることができる。


(待っていろ。……あれは、俺の国だ。必ず、取り返してやる)


 暗い瞳をぎらつかせ、モルティマーは低く笑った。


 荷馬車を御する男は、背後から不気味な笑い声が聞こえた気がして振り返ったが、そこにはただ、凍てつく夜道が続いているだけだった。

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