フィン・グラントの観察
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翌日から、フィン・グラントによるジェイソン・ドナパルドの追跡が始まった。
「兄さんに言われたから」というのは、あくまで建前だ。正直なところ、ただの好奇心が勝っていた。
休み時間のチャイムが鳴ると同時、ジェイソンが席を立つ。フィンは「つつつっ」と足音を殺してその背後を追った。行き先は、別のクラスの教室だ。
フィンが廊下の壁に張り付いて中を窺うと、ジェイソンはある女子生徒の前で足を止め、いきなり怒声を発した。
(何なんだよ、あいつ。バカじゃないの……?)
あまりに唐突で無作法な振る舞いに、フィンは呆れを通り越して戸惑う。だが、標的にされた少女の姿が目に入った瞬間、感情が切り替わった。
燃えるような紅髪を震わせ、身を固くして怯える彼女。その痛々しさに、フィンの中に眠っていたわずかながらの漢気が「助けなきゃ!」と熱く燃え上がった。
割って入ろうと教室に足を踏み入れた、その時――。
「また、あなたですの?」
凛とした声が空気を打った。
一人の少女が、ジェイソンの前に立ちはだかっている。先ほどまでの傲慢な勢いが、ジェイソンの顔からみるみる引いていくのが分かった。
「ぶ、部外者が口を出すな!」
「部外者? 確かにそうかもしれませんわね。けれど、友人が怯える姿を黙って見過ごすほど、私は薄情ではありませんわ」
彼女は手にしていた扇を、まるで抜き放たれた剣のようにジェイソンの鼻先に突きつけた。
(……格が違う。あの威厳、すごすぎる)
フィンは思わず息を呑んだ。扇が鋭い名剣に見えるほどの圧倒的な存在感。これこそが、兄が「護衛騎士」と評した人物なのか――。そう感慨にふけっていると、不意に隣から声がした。
「な、言っただろ。口出し無用って感じだ」
いつの間にか、兄のレオが隣に立っていた。
「けどな、あいつが本当に手を出そうとした時は、俺が絶対に止める」
兄弟で固唾を飲んで見守っていると、背後から静かな声が響く。
「――頼もしいわね。お願いできるかしら?」
振り返ると、そこには前校長アテナ・ルーミスが立っていた。慈愛の中にも鋭さを秘めた瞳が二人を射抜く。
「少しお話ししておきたいことがありますの。……付いてきてくださる?」
有無を言わせぬ空気に押され、二人は対策室へと足を運ぶ。そこで語られたのは、この学園で静かに、けれど確実に進行している事態の全貌だった。
アテナによると、あの凛然とした少女の名は――アイリス・ルピナス。
伯爵令嬢にして、友を守る気高き騎士。その名は、レオ兄弟の心に深く刻まれることとなった。
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