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14話

 謁見が終わってから、私はずっとぼうっとしていた。

 どう考えていいのか、何を考えていいのかわからない。

 ただ、犠牲を少なくするためには結婚の申し出を受けた方がいいのか、という思いと、それでも嫌だという思いが千々に入り乱れていた。


 政略結婚なんて嫌だ、という思いを掘り下げていくと、一人の人に行き当たる。


 ああ、私、ユリアンさんに恋してるんだ。


 ここまできたらもう、自覚せざるを得なかった。


  夜中に叫び声をあげて飛び起きた私に、背中を撫でて白湯を入れてくれたユリアンさん。


 私が刻んだ玉ねぎで美味しいスープを作ってくれて、少し自慢げにしているユリアンさん。


 お姉さんに叱られた時、私の意思をもっとちゃんと確認するべきだったと、苦い顔で後悔していたユリアンさん。


 いつだって私のことを尊重してくれて、思い遣ってくれて、守ってくれる。あの尖塔の悲惨な環境から逃れて、こんな優しい人と一緒にいたら、好きにならずにはいられないよね。

 でも、それと国のこととは別だ。正直なところ、そこまでして私を痛めつけたシャッセに義理立てする必要があるのか、という思いはある。けれど、家族が生きているかもしれないという希望を持っている以上、内乱でシャッセが乱れるのはできれば避けたいのも事実だ。


 ご飯もなかなか喉を通らない様子の私を見かねたのか、アマーリエさんが話を聞いてくれた。この侍女のアマーリエさんは国王陛下がつけてくれた護衛さんで、機密関係も知っているから相談しやすい。


 「なるほど、そのような経緯が」

 「そうなんです。私もうどうしていいかわからなくって」

 「個人的には、聖女を蔑ろにしてきたシャッセのために、フィオラ様が意に沿わぬ結婚をなさる必要はないと思いますけれど」

 「でも、血が流れるのが嫌なのは本当なんです。故郷は滅びましたけど、もしかしたら家族だって逃げ延びているかもしれませんし」

 「うーん、悩ましいところですね。血を流すのがお嫌なら、逆説的ですが必ずしも婚姻のような穏便な手段を取る必要はないのでは?」

 「というと?」


 アマーリエさんの話は難しくて理解するのに苦労したが、整理するとこういうことらしい。

 ギルベルト殿下の立場が悪いのは、身分の低い母親が原因で、その血筋の問題を補うための結婚という話であるが、それは聖女側が穏便に協力しようとした場合の話。

 

 そもそもリヒトに亡命した聖女である私は、シャッセに義理立てする必要性自体が全くない。ギルベルト殿下を王にすげ替え、聖女を痛めつけるような腐敗した上層部を排さなければ、聖女としてシャッセに涙は渡さないと宣言してしまえば、民衆は完全に無抵抗で革命を受け入れるはずである、と。

 

 いくらシャッセの上層部が抵抗しようとしたところで、このまま聖女がいなければ魔物によって国が滅びるだけなのだから、争いの発生しようもない、ということだ。


 革命を受け入れて、聖女に戻ってきてもらうか、それとも革命を拒否して、聖女不在が故に滅びるか、二つに一つという選択を迫るのである。

 

 ただそれには弱点が一つあって、私がまたシャッセに囚われてしまえば意味がない。迂闊にも拉致されて、また涙を強制採取される生活に戻ってしまえば、ギルベルト殿下を王にするしないは関係なくなってしまうからだ。


 だから私の警護を特に固める必要があるだろう、とのことだった。


 確かにアマーリエさんの言う方法を採れば、政略結婚はせずとも民衆は無血での革命を望み、現在の王侯貴族側に付く兵士は少なくて済むはずである。

 戦力に格差があればあるだけ、血が流れる量が少なくて済むわけだから、どれだけシャッセ側の兵も含めた多くの人を納得させられるか次第なのだ。


 私はこのことをユリアンさんにも相談することにした。もちろん、ユリアンさんのことが好きだから政略結婚したくないという思いは伏せた上で、である。

 流石にまだ気持ちを打ち明けるほどの心の準備はできていない。


 「よいのではありませんか?」


 ユリアンさんはあっさりとそう言った。随分好戦的な提案だからどう思われるかと思ったけれど、ユリアンさん自身、これまでシャッセの被害に遭ってきた私がさらにシャッセのために犠牲になるのはおかしいと思ってくれていたみたいだ。


 「もとより、聖女に意に沿わない結婚をしいて滅んだ亡国ナールの前例もございますから。聖女様が断れば、ギルベルト殿下もそれ以上無理強いはしてこないでしょう」


 とのことだった。


 結局、聖女はシャッセに対して、ギルベルト殿下への王権移譲を要求する、それに応えなければこのままリヒトからは帰らない、と宣言を出す方針でギルベルト殿下へ話をすることになった。

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