15話
「はっはっはっは。そうきたか、面白い」
好戦的な提案に、ギルベルト殿下は予想に反して怒るでもなく大笑いした。
「確かに聖女殿からすれば、自身を痛めつけたシャッセに義理立てする道理もあるまい。だが、こうすげなくフラれるとは思わなんだぞ」
「す、すみません」
「よいよい。そなたにも思い人の一人や二人いるであろうからな」
そう言ってギルベルト殿下は面白そうに私とユリアンさんを交互に見た。
ま、まさかこの殿下私の気持ちに気づいている!? この喰えない狸王子に知られるなんて、どうしよう。
私があわあわしていると、ギルベルト殿下はニヤリと笑った。
「だが、シャッセを見捨ててもらっては困るぞ。革命の成った暁には、我が国の聖女として下にも置かぬ待遇を約束するゆえ、民のため聖女として働いてほしい」
「それは、もちろん。私も涙が若返りなんて馬鹿馬鹿しいことに使われるのでなければ、聖女としての勤めはちゃんと果たしたいと思っています」
魔物被害で苦しんでいるのはみんな同じなのだ。魔物が増える前に瘴気を浄化してしまえれば、魔物が森から溢れ出してくるようなこともない。
そうすれば、砦のみんなだって今よりも安全に過ごせるようになるはずだ。
「さて、そうとなれば、腕のいい絵師が必要であろうな」
「絵師、ですか?」
「残念ながら、我が国の識字率は高くない。だが、民衆は事態を知れば革命軍側につくであろう。ならば事態を知らせるのが最も重要な局面となる。それには絵巻ものが丁度良い」
「はあ、そういうものですか」
「そういうものだ。だがついでに物語として広めるのであれば、聖女を救った救世主役も必要であろうな。それに私がなればと思ったが、フラれたのでは仕方ない。ユリアンよ、そなた、聖女の騎士として我が国に骨を埋めぬか? まあそなたがダメなら他の貴族家の次男三男でも、適当な孤児院育ちでもかまわぬ。見目が良ければ尚いい」
またギルベルト殿下がよくわからないことを言い出した。救世主役で見目がいい人がいいって、そんな恋物語の主役みたいに……。
「悲劇の聖女の恋物語にしてしまうのが一番手っ取り早く民衆を扇動できるであろう?」
「こ、恋物語って!」
まるで私の心を読んだかのような殿下の発言に慌ててしまう。
「ギルベルト殿下、フィオラ様の騎士となることについては同意ですが、フィオラ様を政治的に利用するという発想からどうかお離れください」
「ほう、騎士については同意するか」
「私はシャッセを信用しきれません。まして若返りに聖女の涙が使えると知れれば、なおさら聖女様の御身は危うくなる。元より共にシャッセへ渡り、フィオラ様をお守りするつもりでした」
ユリアンさん、そんな風に考えてくれていたんだ。
確かに、今回の聖女に対する扱いと涙の不正利用を公表するのであれば、若返りの作用も公表されることになる。
普通は神罰を恐れて愚かなことはしないはずなのだけれど、前科がある以上シャッセの人々を信用し切ることはできないのだ。
「本当にいいんですか? ユリアンさん。ユリアンさんのお国はリヒトなのに」
「いいのです。元々俺は辺境伯家の次男坊。家を継ぐ身でもありませんから」
「どうして……、どうしてそこまで優しくしてくれるんですか? 私はユリアンさんからの恩に何も返せてはいないのに」
「フィオラ様はいつも俺たちを心配して、涙を使って助けてくれているじゃありませんか。それに、涙のことがなくても、あなたはあれほど酷い目に遭いながらも人々を気にかける優しい人だ。力になりたい、と思うのが当然でしょう」
あまりに暖かい言葉に、思わず涙がこぼれそうになる。こんな優しい人の力になりたいと思うのは、こちらのセリフだ。
ユリアンさんの優しさになんとかして報いたい。そのためには、何をしたらいいんだろう。
私はその日一日、ずっとそのことを考えていた。




