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貧民街のネクロマンサー 〜妹たちとの幸せな生活を夢見て〜  作者: ひとえ


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81話 ネクロマンサーの戦い方


 ぞろぞろと地下牢になだれ込んでくる鎧の騎士たち。頭部を切り落とされても動き続ける肉体には、胃を締め付けるようなナターシャの魔力が込められていた。


「なんと(むご)いことを……!」


 攻撃を受けても、眉一つ動かなかったギルラークの顔が歪む。怒りと悲痛が入り交じったような、そんな(つら)をしていた。


「私も残念に思ってるわ。でも私の邪魔をしたんだから仕方ないわよね」


 肩をすくめながら、ナターシャは白々しく言ってのける。


 十数体の騎士は、ふらふらとした足取りで俺とナターシャ、サリーとアドニスの間を抜けていった。その中に一部、鎧を着ていない騎士がいる。地下牢に侵入する前、サリーが蹴り飛ばした騎士見習いだろうか。


 彼らはギルラークとライロの前で、壁を作るようにして立ち止まった。


「さぁ、続きをしましょうか」


 ナターシャの合図を受け、鎧人形たちは一斉に腰に手を伸ばす。そして、どこかためらいながら剣を引き抜いた。


 その様は、ナターシャに操られてもなお、仲間に剣を向けることを拒んでいるかのようだった。


「俺が道を開きます。団長は落とした剣を回収してください」


「ライロ……」


「大丈夫です。俺はやれます。それがあいつらのためでしょ」


 ライロは目を閉じて深く息を吐き出し、剣を握り直した。


「ナターシャ。お前は絶対に許さない」


 騎士たちの隙間からちらりと見えたライロの瞳には、激しい怒りが宿っている。ナターシャは「怖いわ」とふざけた調子で返した。


「フレン! 治癒魔法を。このまま一気に突っ込む」


「はい!」


 フレンが杖をかざすと、ライロは温かい光に包まれた。弾かれたギルラークの剣は、騎士たちの壁の向こうにある。


「みんな、今助ける」


 ライロは飛び出した勢いのまま、数体の騎士をなぎ倒した。だが、すぐさま残りの騎士がライロを囲む。

 背後から迫る剣を、ライロは超人的な反応速度で振り返り、受け止めた。


「だめだライロ! 立ち止まるんじゃない」


 息をつかず反撃するライロに、ギルラークは声を荒げた。それでもライロは、ひたすらに剣を振る。鋭い一撃は鎧を貫き、仲間の腕を落とした。

 相手を圧倒しているが、ライロはネクロマンサーの本質を理解していない。


「かなり倒した、これで道は――」


 一瞬の気の緩みだったのだろう。死角からの一振りが、ライロの左肩に直撃した。


「くっ…… なんで、立っている……!」


 よろめきながら向けた視線の先。血を吸った剣を握っていたのは、ライロが初めに吹き飛ばした鎧の騎士だった。


 油断していたところを見るに、動けないほどの傷を負わせたつもりだったのだろう。だがそんなもの、ネクロマンスされた死者にとってダメージにすらならない。


「あら、死者と戦うのは初めて? 首を切っても動いてるんだから、多少のことじゃ止まらないわよ」


 嫌みったらしいナターシャの声をかき消すように、ライロは唸り声をあげた。肩の筋肉を切られたのか、左腕はだらんと垂れ下がっていた。


 ライロはひたすらに剣を振った。だが何度でも立ち上がる不死の軍勢に、勇ましかった顔が絶望に染まっていく。


「フレン! 回復を!」


「わかってます! けど……」


 華麗だった剣捌きは既に見る影もなく、ライロはただ乱暴に獲物を振り回すだけになった。背後から、側面から、騎士たちは無慈悲にライロを斬りつける。


 フレンは休むことなく詠唱を続けていた。


 斬り裂かれた肉が塞がりかけたところで、また次の刃がそこを(えぐ)る。ライロは痛みに耐えて戦い続けるが、わずかでも形勢が変わることはない。


 フレンの治癒魔法は、もはやライロを剣の練習台に変えているだけだった。


「そろそろ邪魔なんだけど」


 ナターシャが指先をクイッと動かすと、アドニスは巨大な腕でギルラークとフレンをなぎ払う。

 二人は小石のように吹き飛ばされ、ライロを囲う騎士たちに激突した。鈍い衝撃音に続いて、ガシャガシャと騎士たちが連鎖するように倒れ込む。


「大丈夫か…… フレン」


「ギルラーク様、私のことは気にせず……」


 素早く立ち上がるギルラーク。フレンは受け身を取れなかったようで、まだ地面に横たわったままだ。その間にも、騎士たちは不気味に(うごめ)きながら立ち上がる。


「剣を貸せ、ライロ。後は私に任せるんだ」


 周囲を警戒しながら、ギルラークはライロに駆け寄った。ライロは悔しそうに下を向きながら剣を託す。


「すみません、団長。俺は……」


「言うな。今は生き残ることだけ考えろ」


 ギルラークは剣を受け取ると、ライロの背後から忍び寄る騎士を斬りつけた。倒れたところを確認すると、すぐさまフレンを狙う騎士に近づいていく。


「お前たちは一箇所に固まっていろ。まだ我々は負けていない。助けが来るまで持ちこたえるんだ」


 ギルラークは一心不乱に剣を振った。口の動きだけで、荒い息づかいが伝わってくる。アドニスとの戦いのダメージが残っている証拠だ。


 ギルラークに斬られた騎士が、またゆっくりと立ち上がる。心なしか再生速度が速くなっているようだ。時間の経過と共に、ナターシャの魔力伝達の精度が向上したのだろう。


 ギルラークはライロとフレンを守るだけで精一杯だ。このままナターシャの相手などできるはずもない。


「私は聖王国アストロイアの騎士団長だ。もう誰も死なせはしない!」


 地下牢に気迫のこもった鼓舞が虚しく響く。ライロとフレンは辛そうに唇を引き結んだ。諦めていないのは、ギルラークだけだった。


 絶好のチャンスを逃すわけがないだろうと、俺はナターシャに視線を移す。


「おい? どうしたんだ……」


 不意を突かれたように、俺は目を丸くした。


 ナターシャはギルラークたちに背を向け、レスティーのいる牢屋へと走り出していた。


 

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