38話 白いローブの女再び2
「なかなかに色々あったようですね……」
「ははっ…… そうなんだ」
何か考え込むように、フレンはテーブルに視線を落とす。
王都で彼女と別れてから今に至るまでのことを話したのだが、真実を伝えることなどできるはずもなく――
俺は、ほぼ全てを嘘で固めた作り話を披露したのだ。
「私の言った通りに妹さんを看取ったことは、ダレスにとって英断だったと思います。辛かったでしょうが、あなたと妹さんにとってこれが最良の選択だったはずです」
「ああ……」
フレンの儚げな表情に、なんともいえぬ罪悪感が俺を襲う。
「その後は嘘みたいな話ですね。突然現れた人形師がダレスの才能を見抜いて、数日のうちに人形師として開花させた。力を得たあなたは、デザートウルフの群れを倒し、飛び級でシルバーランクの冒険者になったと……」
「その通りだ」
フレンは頬杖をつき、懐疑的な視線で俺の顔を覗く。
「あの時はそんなふうに見えなかったんですけどね」
「そうだよな、未だに俺も夢を見ているような気分だよ」
以前の俺を知っている人からしてみれば、この変化を信じろというのが無理な話だろう。俺がネクロマンサーという真実の方が、もっと信用できないかもしれないが……
「まぁ、実際にあなたがサリーちゃんを操っているところを目にしているので、信じるしかないんですけどね。身なりもかなり良くなっていますし」
フレンは足下からなぞるように、ローブをまとう俺の体を見る。俺は誤魔化すように笑ってみせた。
「ぜひ、あなたを導いた師匠に会ってみたいものです」
「それはまぁ、クエストが一段落したらな……」
テーブルに両肘を突き、俺は組んだ両手の上に顎を乗せる。
ナターシャに会わせるなんてできるはずもない。戦闘で魔力を鍛えることも大切だが、フレンは警戒しておかないとな。
気まずい空気に逃げ出したくなっていたところで、冷ややかな声が俺とフレンの背中に突き刺さる。
「二人ともこっちへ来ないと思ったら、なにいちゃついているんですか。パーティーに入って早々、色恋沙汰はやめてくださいよ」
数枚の色あせた紙を抱えたメロが、不機嫌を前面に出して戻ってくる。
「すまない、少し話をしていて。メロが言うようなことは一切ないから」
「どうでしょうか? 結局、付き合ったのなんだのあってパーティーをかき乱す人たちは少なくないですからね」
釘を刺すような物言いをしながら、メロはテーブルの上に紙を並べる。その上段には、赤字で討伐依頼と書かれていた。
「もちろん、私もそのあたりは心得ていますよ」
フレンの余裕のある返しに、メロはへそを曲げたように顔をそむける。
「はいはい、喧嘩しないの」
遅れて戻ってきたキサラが、メロの両肩に手を置いてなだめるように言う。それでも納得いかないようで、メロはむすっと腕を組んだ。最後に、アシュードが「メロは子どもだな」と笑いながら席に着く。
俺は気づかれないように注意しながら、フレンを横目に見る。彼女は笑顔を振りまきながらも、並べられたクエスト用紙を真剣な目で見つめていた。
なんとかフレンの追及から逃れることができたようだ。だがそれも一時しのぎでしかないだろう。
俺はほっと胸をなで下ろしながらも、いつパーティーから抜けるかを考えていた。
♢♢♢
「私たちは北を目指します!」
キサラは大きなリュックから取り出した地図を広げ、左上の方をビシッと指差す。俺たちのいる王都グルーケルの北、歪な楕円形。
フレンに改めて各々の自己紹介が済んだところで、キサラからクエストの説明が始まった。
「ルナール湖ですね。どうしてここに? 結構距離もありますけど……」
「さっすが、フレンは良く知ってるね」
丸まった地図の端を伸ばしながら、キサラは感嘆の声を漏らす。
「この間の大雨のせいで、湖の魔物が活性化しているらしいの。おかげで、周りの住民や漁業関係の被害が大きいらしくて」
口の横に手を当て、内緒話をするようにキサラは続ける。
「まっ、そういう緊急性のあるクエストは報酬がいいんだけどね」
これには一同ニヤリとしたたかに笑う。困っているのは同情したくもなるが、こちらも慈善事業ではないのだ。
キサラは王都から湖までの道筋を指でなぞる。
「確かに距離はあるけど、その道中で他のクエストをこなせば時間効率は悪くないんだよ。長旅にはなるだろうけどね」
なるほど。これなら多くの魔物と戦ってお金を稼ぎながら経験を積めそうだ。
「みんな異論はない?」
視線を交わし合い、パーティーメンバーは賛同の声を上げる。
「じゃあ受付に提出してくるから。クエストが受理されて正午の鐘が鳴ったら正門前に集合ね。それまでに各々準備を済ませること。それじゃあ解散!」
高々と腕を突き上げた後、キサラは受付に向かっていく。その先で、積み上げられた書類に慌てふためくチャコさんがいた。俺は深く椅子に座り直す。
出発までまだまだ時間はかかりそうだ。




