表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧民街のネクロマンサー 〜妹たちとの幸せな生活を夢見て〜  作者: ひとえ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/107

28話 新生活の予感


 「これは、また……」


 『とても良くお似合いです、ダレス様』


 ネルンの感嘆を漏らす()が、俺の頭の中に直接広がる。


 黒いローブを身にまとう男が、脱衣所に壁掛けされた大きな鏡に映っている。未だ立ち込める湯気によって、鏡には白い膜がうっすら残ったままだ。


 汚れに汚れた体を洗い終え、最高の気分で浴室から出たものの、俺の着ていた服は…… 捨てられていた。


 なんでも、俺の服は雑巾にも使えないほどに汚れていたらしく、正真正銘のゴミとして処分されている。


 ナターシャの指示とはいえ俺の服を捨てた実行犯は、鏡に映る俺の姿を見ながら胸の前でパチパチと手を叩いている。可愛い…… が、人の気持ちも少しは理解してほしい。


 身にまとっているこのローブは、ナターシャのものとよく似ている。さすがに胸元がざっくりと開いているわけではないのだが。

 全身を包み込むゆったりとした生地の質感はとても心地よい。それに、季節外れの(よそお)いではあるが、嫌な暑さを感じることもなかった。

 

『それではダレス様。奥の部屋でナターシャ様がお待ちですので』


「ああ、案内してくれ」


 振り向きざまに、ネルンの黒のスカートがなびく。短い歩幅で静かに進む彼女に続き、俺は脱衣所を後にした。



 屋敷のエントランスから伸びる大きな階段を上ると、リゼのはしゃぐ声が聞こえてくる。


「お姉ちゃん! とってもかわいいよ!」


 扉を開け視界に飛び込んできたのは、ナターシャのメイドたちに囲まれるサリーと、目を輝かせて姉に抱きつくリゼの姿だった。目の前に幸せな空間が広がっている。


 サリーは光沢のある黒色のドレスに、レースを襟元に施した白のブラウスを重ね着していた。小さな頭の上には(こん)色の髪飾り。スカートはボリュームがあり、裾にもレースがふんだんにあしらわれている。


 これでもかと女の子が喜びそうな要素を詰め込んだ服装に、サリーの生を感じない表情。二つが合わさり、まるで本物の人形が動いているかのような異質さが生じている。


「あっ、お兄ちゃん! みてみて、お姉ちゃんとっても可愛いでしょ」


「そうだな。それに、リゼもとってもかわいいぞ」


「えへへ…… そうかな……?」


 赤くした自身の頬を隠すように、リゼは両手を添える。


 リゼは周りのメイドたちと同じ衣装に着替えていた。黒のドレスに白いエプロン。似合ってはいるが、服に着られているというような印象を受ける。

 この様子だと、ナターシャたちに何もされてはいないようだな。


「メイドさんたちがね、着せてくれたの! それに、お風呂で体も洗ってくれたんだ。それもお仕事なんだって!」


「なっ……」


 リゼが嬉しそうなのはいいが、そこまでされているとは思っていなかった……


「やっと来たわねダレス、待ちくたびれたわ。ネルンに欲情して、良からぬことでもやってたのかしら?」


「そんなことは一切ない。っていうか、妹たちの前で欲情とか言うな」


 対面になるよう並べられたソファーに腰掛け、ナターシャは紅茶をすする。相変わらずの(さげす)むような目に、俺は(おく)することなく身の潔白を示す。


「どうなの、ネルン?」


『はい。ダレス様は優しく包み込むように、私のことを気にかけながらお相手してくださいました』


「優しく…… 包み込むように…… ね?」


「お、俺は話を聞いただけだからな。ネルンは紛らわしい言い方をしないでくれ」


 ナターシャはテーブルの上にカップを置き、ニヤッと微笑んだ。


「ねぇ、お兄ちゃん。よくじょう? ってなに?」


「えっ…… あっ、ほら、浴場だよ、浴場。俺も体洗ったからな、今、お風呂の話をしてたんだ」


 リゼの純粋な目が眩しい。やっぱり妹たちをナターシャに会わせるべきじゃなかったか。あいつは教育上よろしくない。


「もう、バカなことやってないで、あなたたちこっちへ座りなさい」


「お前が始めたんだけどな」


 俺の指摘を無視して、リゼとサリーに笑顔で手招きするナターシャ。リゼは嬉しそうに駆け寄りナターシャの隣へ座る。

 屋敷に来るまでは怖がっていたのに、この短時間でそんなに打ち解けたのか。


 不思議に思いながらナターシャと向かい合うように腰掛けると、サリーはコツコツと黒いブーツを鳴らして俺の隣にちょこんと座る。残念そうな顔をするナターシャに、俺はしたり顔で鼻を鳴らした。


「みんなよく似合ってるじゃない」


 ナターシャは満足気な顔で、足を組み直した。ローブの裾から彼女の白い膝頭がちらりと顔を出す。その脚線美に目が奪われそうになるのを、俺は必死でこらえる。


「ああ、こんな良いものをもらってすまない、サリーとリゼも喜んでるよ。でも、なんでリゼはメイド服なんだ?」


「ここで住む以上、最低限の仕事はしてもらうわ。無茶なことはさせないから安心して」


「それは仕方ないよな。本人もやる気みたいだし」


「まかせてよ」


 リゼは大げさに、顔の前で両手をグッと握りしめる。その表情を見る限り、孤児院ではなく、この屋敷で住まわせてもらうことは正解だったようだ。


 それに、浴場でネルンから聞いたメイドたちへのナターシャの行い。目の前で優雅(ゆうが)にくつろぐこの女を、案外いい奴なのではないかと感じ始めている自分がいる。


 そして、ネルンと交わした約束。ナターシャとの契約は必ず果たさなければならない。


 俺もここで頑張らないと。兄として、妹に情けない姿を見せる訳にはいかないのだ。

 

「ナターシャ。改めて、俺たち三人。よろしくお願いします」


「はぁ? あなたとサリーちゃんは住ませないわよ」


「えっ……?」


 頭を深々と下げたものの、降りかかってきた言葉は想像と違っていた。


「リゼちゃんは、孤児院で生活するのが心配だから連れてきただけよ。ここならあの子たちが守ってくれるし」


 ナターシャが控える五人のメイドに視線を送る。メイドたちはスカートの端を摘み、一礼した。

 その優雅で品のある振る舞いに、リゼは目を輝かせて拍手する。


「ダレスとサリーちゃんにはやってもらうことがあるの。それを今から説明するわ」


 紅茶を手に、また足を組み直しながらソファーへもたれかかるナターシャ。絹のような髪が褐色(かっしょく)の背もたれに広がった。


「ダレス。あなた、冒険者になりなさい」


「冒険者? ……俺が?」


 話の意図が見えず面食らっていると、俺の顔を見てナターシャは悪い笑みを浮かべる。


 もう、嫌な予感しかしない。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ