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貧民街のネクロマンサー 〜妹たちとの幸せな生活を夢見て〜  作者: ひとえ


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21話 共同墓地2


「ダレス!」


 静寂に包まれた墓地に怒号が響いた。


 フレッドさんは血走った目で、こちらに向かって突き進んでくる。一歩一歩近づく度に、血管の浮き出た手で握った短剣が、日光を乱反射させた。


 俺は、両腕に抱えたサリーを(かば)うように半身になり、足元でくっついているリゼを体の影に隠す。


「どうしたんですか、フレッドさん! 落ち着いてください」


「黙れ!」


 歩みを止め、握った短剣でくうを切り裂くと、フレッドさんはその切っ先を俺に突き出した。


 後ろの二人組が慌てて彼に近寄る。


「まぁ、落ち着けよフレッド。それは最終手段って話だろ」


 背の高い痩せた男がフレッドさんの肩に手を回す。


「だけどよ!」


「まぁ、まぁ、話がついたら好きにすればいいじゃないか」


 もう一人の馬面うまずらの男がなだめると、フレッドさんは渋々短剣を降ろした。


 わけが分からず俺は隣のナターシャに目をやるが、男たちを品定めするように見つめているだけで話になりそうにない。


「ダレス君…… っていったかな。君はとても高価な薬を持ってたみたいだね」


 馬面の男が、無理に口角を吊り上げた笑みで歩み寄ってくる。


 俺がレーゲの病の治療薬を持っていたことを、なぜ知っているんだ。マリエラ先生が薬のことを喋るはずないし……


「そんなの知りませんよ」


「嘘ついてんじゃねぇよ! 裏切り者が!」


 フレッドさんは仲間の手をほどいて声を張り上げた。

 どうやら見え透いた嘘は通じないらしい。


 馬面の男が眉をひそめてフレッドさんをちらりと見やる。そして、改まったように話を続けた。


「いやぁー、荒々しくてすまんね。だけど嘘はいかんよダレス君。実は昨日の夜、君が薬を持って孤児院に入っていくのを見た人がいるんだ」


「っ……!」


「朝早くに孤児院のマリエラが薬を売りに来たってのを耳にしてね、ピンときたよ。ダレス君注意しなきゃ。()()に住んでる連中は金目の話には敏感だから……」


 馬面の男は、申し訳なさそうに薄い頭をかく。


 ――薬を見られていた? 


 確かに黄金(こがね)色に輝く薬は、灯りの少ない貧民街でよく目立つ。くそっ…… ポケットに入れてるだけじゃだめだったか。


「聞けばその薬は金貨二枚もの価値があったそうじゃないか。貧民街で生きる仲間同士、おいしい話は共有しないと、ね?」


 愉快気に馬面の男は目を細める。サリーを支える手に力が入った。


 仲間? 共有? 剣を向けておいて何を言ってる。こっちがどんな思いで薬を手に入れたと思ってるんだ。


「言ってる意味がわかりませんね。たとえ薬を持っていたとしても、あなたに教える義理はないです」


「やっぱりコイツは殺すべきだ!!」


「落ち着けフレッド! 少しは情報を聞き出さないと」


 暴れるフレッドさんを痩せた男がなんとか抑える。このままじゃ衝突は避けられない。


 俺は一人だけ眼の色が違う顔なじみの兄貴分に、わずかな望みを託して口を開いた。


「フレッドさん! なんでこんなことを、一体何があったんですか?」


「お前! 本当に死にてぇのか!」


 痩せた男を振り切り、フレッドさんは再び俺に短剣を突きつける。すでに交渉の余地がないことを、俺は静かに悟った。


「ダレス! お前が鉱山で働いたときは世話焼いてやったのによ! 自分だけこそこそ金儲けしやがって。どうせ、一緒に働いてた連中のことを見下してたんだろ!」


「そんな、見下してなんか…… フレッドさんには感謝してます、それに金儲けなんてしてません!」


「いいかげん黙れよ!」


 威嚇するように短剣を振り回すと、シャッ、シャッと空気を切る音が墓地に響く。

 息を荒くするフレッドさんの目尻には光るものが見えた。


「俺はよぉ…… お前がクソムカつくガドックの奴をぶっ飛ばした時、本当に心が救われたんだ」


 鉱山での仕事を終え、不条理な扱いに激昂(げきこう)した俺は、現場を仕切っていたガドックを殴り飛ばした。


 今でもその感触は右手にしっかりと残っている。


 ただ、それがきっかけで親友のガインが殺されて……


「ガインの事は気の毒だったが、お前ら二人は俺たち貧民街のみんなに光を与えたんだ。言いなりでは駄目だと、声を上げ行動することが必要なんだと…… なのに――」


 フレッドさんの唇は震えていた。ここにいる誰よりも大きな体が小さく見えてくる。


「あの時のお前は嘘だったのか……? いや、もう決まりだ…… 一人だけ金持って、俺たちのこと見下して…… 裏切り者…… 裏切り者……」


「だから、フレッドさん。俺はそんなこと!」


 フレッドさんは足下に視線を落とし、呼びかけに全く応じなくなった。力なく頭を垂らしているが、鋭利な刃先はしっかりと俺に向けられている。


 なんと声をかければよいのか言葉を選んでいると、隣からパンパンと場を仕切るように手を叩く音。


「そんなつまらない話はさっさと終わらせてくれない?」


 ナターシャはあくび混じりに、男三人と俺の間に割って入った。


「そっちの二人はお金が欲しい、赤毛のお兄さんはダレスに復讐したい、簡単なことじゃない」


 俺はたまった唾をゴクリと飲み込む。


 いきなり何なんだこいつは。嫌な予感しかしないぞ。

 

「いやいや、無視して話を進めてすまないね。お嬢さんはダレス君の知り合いかい?」


 馬面の男は、ナターシャの足下から舐め回すようにして視線を上げた。


「うーん? そうね……」


 ナターシャは自身の頬に指を添えて一回転。黒いローブの裾をふわりとなびかせ、サリーを抱える俺の右腕に絡みつくようにして手を回した。


「ダレスは私の男よ」


「なっ……!? 何言ってるんだお前……」


 張り詰めた空気に異物が混ざる。こいつ、一体この場をどうするつもりだ。


 

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