第111話:雪とアルビノ
神々の諸島、西島。
ライオンサイズのフサフサ銀猫に変身した俺は、今日も夜空を見上げて問いかける。
「星の精霊たちよ、人々は今、何を願う?」
「イリの神様、今日も人々の願いを集めてきました」
「どうぞお選び下さいませ」
無数の星々が煌めく夜空から、星の精霊たちが舞い降りてくる。
精霊たちは、人々の願いを光に変えて神のもとへと運ぶ。
「ん? 君は随分と不安定な光だな」
様々な色や強さの光がある中で、俺が注目したのは白銀の光を明滅させる精霊。
一瞬強く光ったりするものの、その輝きは弱々しい。
それは、願い主の生命力が大幅に減少していることを意味していた。
「急ごう。願い主はどこにいる? すぐに案内してくれ」
「はい!」
俺は精霊から願いの内容を聞く前に、願い主の元へ行くことを急ぐ。
精霊も分かっているから、すぐに異空間トンネルを開いてくれた。
「……えっ?!」
トンネルを抜けると雪国だった。
某文豪の小説みたいなことを言いたくなる風景が、目の前に広がる。
木々も地面も純白の雪に覆われた森。
空中でキラキラと光るものは、ダイヤモンドダストだろうか?
「寒っ! っていうか痛い!」
手足の末端や鼻先がジンジン痛むほどの冷気を感じる。
業務用冷凍庫の中より寒いぞ。
ここの気温、何℃?!
『この地域の真冬は、氷点下40℃くらいですね』
「それ、バナナが凍って釘が打てるやつ!」
星の精霊は寒さなんか感じないから、平然として言う。
常人よりは耐性があるけど寒いもんは寒い俺は、思わずツッコミを入れた。
「うぅ寒っ、まさか冬服を着ることになるとは思わなかったよ……」
俺は異空間倉庫からコートを取り出して羽織る。
サンダルから寒冷地仕様のブーツに履き換えて、指なしグローブの上から手袋をはめた。
コートは現実世界で購入、高校生の冬休みに北海道へ働きに行ったときに着ていたもの。
最近は全く使わなくて、異空間倉庫の肥やしになっていたけど、捨てなくて正解だ。
「さすがマイナス40℃、これでもまだ寒いぞ」
俺は風魔法と火魔法を混ぜて温風を作り、衣服や靴の中を温めた。
ダイビングで使われるドライスーツの応用で、服の中に暖かい空気の層を作り、冷気から身を守る。
首元や袖口から漏れ出る温風のおかげで、頭部や手も温かい。
「ところで、願い主はどこに?」
『あれが願い主です』
「って、埋まってるし!」
辺りに人影が無いので、俺はキョロキョロと見回しながら問う。
案内してくれた星の精霊が、念話で告げる。
精霊が指差す先に、こんもりとした雪の山があった。
思わずツッコミを入れちゃったけど、急がないとまずい。
願い主の生命力減少の原因は、見ただけで分かる。
俺は雪山に片手を向けて、混合魔法を発動した。
風×火混合魔法:春一番
冬から春へ季節が変わる頃に吹く、暖かくて強い風のイメージ。
雪を吹き飛ばすだけなら風魔法単体でもいいんだけど。
その下にいる人が凍死しかかってるので、暖かい風にしてみた。
積もっていた雪が吹き飛ばされて、現れたのはうつ伏せに倒れた華奢な人。
体つきは女性っぽい。
顔は雪に押し込まれたようになっていて、ピクリとも動かない。
すぐに駆け寄って抱き上げてみると、身体は氷のように冷たかった。
「おい、目を開けろ、寝てると死ぬぞ!」
意識を呼び戻そうと大声で呼びかけても、全く反応が無い。
衣服は粗末な貫頭衣で、靴や靴下は履いていない。
その髪も猫耳も尻尾も、全てが雪のように白い。
袖がないので肩口から指先まで露わになった肌も、色素がほとんど無いのか真っ白だった。
とりあえず異空間倉庫からもう1着コートを取り出して着せながら、俺はすぐにバイタルチェックのスキルを使ってみた。
名前:ユウナリア・ノルウェル
状態:低体温、窒息による呼吸停止、心拍微弱
「え?! 呼吸停止?!」
『大丈夫です、今なら神の息吹で助かりますよ』
慌てる俺に、冷静な口調で星の精霊が言う。
神の息吹とは何かは……察してくれ。
「ポーションは効く?」
『怪我や病気ではないので効きません』
「蘇生薬は……?」
『死んでないから効果がありません。死亡するまて待ちますか? 口移しで飲ませることになりますが』
「えっ?!」
蘇生薬、口移しとか聞いてないよ~
もう覚悟を決めるしかないようだ。
幸い、相手は凄く綺麗な女の子だし。
俺はユウナリアに顔を近付けた。
神力:神の息吹
青紫色の唇は冷たく、雪玉に口付けてるみたいな感じがする。
華奢な身体は半ば硬直状態で、まるでマネキンを抱いているみたいだ。
俺はユウナリアの呼吸が戻るまで、肺へ神力を送り込み続けた。
「……ん……ぅ……」
微かな呻き声が聞こえたので、俺は重ねていた唇を離して少女の顔を見た。
硬直していた身体が、フッと力が抜けたように弛緩する。
さほどかからず、ユウナリアは息を吹き返した。
ボンヤリとしながら開いた両目は、ルビーのように紅い。
「……イリの……神様……?」
「?!」
ユウナリアは俺と目が合った途端、掠れた声で呟く。
いきなり正体を言い当てられて、俺はギョッとした。
今の姿は黒髪金眼の獣人で、イリの神の姿である銀猫とは似ても似つかない。
なのに何故、俺を見てそんなことを呟くのか?
「助けに……来て下さったの……?」
純白の美少女が微笑む。
俺は驚き過ぎて、しばし言葉を失った。
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