第108話:マエルが護るもの
多分、俺はこのテの話に弱いんだろう。
マエルの前世の話を聞いているうちに、視界がぼやけて自分の頬をツーッと伝うものがあった。
プリュネが何も言わずに、そっとタオルを差し出してくれた。
「僕はこの村に来て、おじいさんの転生者に巡り合い、前世の記憶を取り戻しました。僕が貴族に生まれたのも、土魔法だけが優れていたのも、全てはここに来るため、おじいさんの転生者と畑を護るためにあったんです」
そう話すマエルは、何も悔いていない様子だ。
けれど実の両親に愛されず寂しいという思いがあったのは、先程の甘えっぷりを見れば分かる。
「虹の橋の番人も気が利かないな。おじいさんの子として転生させてやればいいのに」
「いえ、それだとおじいさんやこの村を護れません。領主になったからこそ護ることができるんです」
マエルは…否、トラは、そこまで考えて転生したのか。
ただ逢いたいというだけでなく、護りたいという気持ちも強かったらしい。
「そっか、トラは偉いな」
タオルで涙を拭き終えた俺は、敢えて前世の名で呼んでマエルの頭を撫でた。
マエルはまた嬉しさと切なさが入り混じった笑みを浮かべる。
きっと転生後は、誰からも頭を撫でてもらったことが無かったんだろう。
「それで、おじいさんの転生者はこの村の誰?」
「隣のタゴサクさんです」
おじいさんの転生者が誰か気になって聞いてみたら、めっちゃ和風な名前でズッコケそうになった。
領主の邸宅が茅葺き屋根の家だったり、畳や襖や障子があったり、何かと日本ぽくはあるけど。
「因みに前世のおじいさんは「吾作」という名前でした。似てますよね」
「それで、そのタゴサクさんとの交流は?」
「普通に御近所付き合いしていますよ。たまに奥さんが煮物とかを差し入れてくれたり」
タゴサクさんは、ノンビリした異世界転生ライフを満喫しているようだ(前世の記憶無いけど)。
マエルがそれで満足ならいいのだけど、愛情に飢えてる感じなのがほっとけない。
「タゴサクさんに甘えられないなら、俺に甘えていいぞ。マエルはまだ子供なんだから」
俺は座布団の上からマエルを抱き上げて、胡坐をかいた上に座らせた。
貴族らしからぬ激痩せ少年は、楽に膝に乗せられる。
「……いいの?」
「いいよ。抱っこならいくらでもできるぞ」
「ありがとう! クルスさん大好き!」
マエルの口調が、再び子供っぽくなる。
抱きついてスリスリしてくるのを受け入れて、俺はマエルの頭から背中にかけて撫でてあげた。
この子はたくさん甘えさせてあげよう。
健気で尊い猫耳少年は、この日から俺の可愛い弟みたいな存在になった。
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