第104話:異世界の座敷童?
星の精霊が開いたトンネルを抜けると、そこは茅葺き屋根と石壁をもつ大きな家の前だった。
領主邸という雰囲気は無い。
どっちかというと、農村の地主の邸宅みたいな感じの建物だ。
石を積んだだけみたいな塀に囲まれているけれど、門の部分に扉は無い。
門番もいないので、俺は素通りして玄関扉に近付いた。
「すいませ~ん、誰か……ぅおっ?!」
マエルを抱えているのでノックが出来ず呼びかけたら、言ってる途中で扉が開いた。
扉を開けた人の姿は無い。
自動ドア? 遠隔操作で開けた?
よく分からないけど、とにかく誰もいないのにひとりでに開いた。
(あれ? 精霊の気配がする……)
扉に驚いた後、屋内から精霊の気配を感じる。
俺を案内してくれた星の精霊ではない。
属性が違う? 土精霊のような、ちょっと違うような……
「イリの神様、お呼びでしょうか?」
精霊の声がする。
星の精霊の声じゃない。
誰もいなかった玄関内に、スーッと姿を現す者がいた。
「私の名はプリュネと申します。イリの神様に御挨拶申し上げます」
シャン領主邸の屋内は和風な造りで、玄関ホールには土間や上がり框がある。
年月を経た板の間で正座して平伏するのは、梅に似た赤い花柄の着物を纏った1匹の猫。
猫といってもルカやユガフ様みたいな四つ足歩行ではなく、人間みたいに二本足で立つことを常とするような身体つきだ。
「顔を上げていいよ。この家の子供マエルが麦畑で倒れていたから運んできたんだ」
「えぇっ?! マエル様?!」
俺が用件を伝えた途端、精霊プリュネは驚いて顔を上げた。
麦わら色と呼ばれる黒色と茶色の縞模様、瞳孔を真ん丸にしてパッチリ開いた両目は若草色。
着物姿の猫精霊は、慌てて駆け寄って来た。
「あぁ……こんなに痩せて……今まで何を……」
俺に抱えられたまま目を閉じて動かないマエルを見上げて、プリュネはポロポロと涙を零し始める。
猫精霊の頭の高さは、立ち上がっても俺の膝くらいしかない。
俺はプリュネにマエルの顔が見えるように、玄関の板の間に腰かけた。
「麦畑に黒い蔓草の姿をした邪神の眷属が現れて、マエルはそれと戦っていたんだよ」
「なんてこと……私がここから出られたら、加勢に行きましたのに……」
マエルが倒れた理由を話すと、猫精霊はまたポロポロと涙を零す。
プリュネはこの家に封じられているのかな?
「回復薬を飲ませて、おにぎりを食べさせたから、とりあえず睡眠を充分にとらせてあげて。寝室はどちらかな?」
言いながら俺が土間で靴を脱ぐと、靴は誰も触れていないのに揃えられた。
精霊の力を感じたから、プリュネが揃えたんだろう。
「こちらでございます」
案内してくれる猫精霊の後に、マエルを抱えた俺が続く。
シャン領主邸の中は、セベル領主邸に比べるとかなり狭い。
濡れ縁を進み、途中にあった部屋は3部屋、一番奥が寝室になっていた。
部屋の床は畳みたいな物が敷いてあり、押し入れもある。
猫精霊が押し入れの襖に片手を向けると、ひとりでに開いて中にあった敷布団が宙に浮きながら出てきた。
敷布団はスーッと畳の上に降りて、ひとりでに広がる。
続いてシーツが出てきて、これまたひとりでに敷布団に被さった。
更に枕が出てきて、敷布団の定位置に乗る。
「寝かせていいかな?」
「あ、その前にお着換えします」
俺が問うと、猫精霊は片手をマエルに向ける。
マエルのボロボロの白衣が、自ら動いてスルリと脱げた。
ついでに肌や髪の汚れも分離していく。
(やっぱりガリガリだなぁ……)
全裸になったマエルは、肋骨がハッキリ分かるくらいに痩せていた。
猫精霊がもう片方の手を箪笥に向けると、浴衣のような服がスーッと出てくる。
浴衣も自ら動いてマエルの身体を包んだ。
「お着換え終わりました」
「じゃあ寝かせるよ」
俺はグッタリしたまま動かないマエルを敷布団の上に寝かせた。
押し入れから掛布団が出てきて、マエルの身体にフワリと被さる。
「イリの神様、我が主をお救い頂き、本当にありがとうございました」
ピクリとも動かず布団の中で眠るマエルを心配そうに見つめた後、プリュネはこちらに向き直り、畳の上に正座して平伏した。
主と呼ぶということは、マエルと契約している精霊だろうか?
「そんなに畏まらなくていいよ。あと、マエルには俺の正体は内緒だからね」
「はい」
とりあえず、俺がイリの神代理だってことは言わないように指示してみた。
猫精霊と俺は主従関係ではないけれど、神の命令だから主よりも優先されるらしい。
「君はマエルの契約精霊なのかな?」
「いえ、私はシャン領主邸の精霊です」
「つまり、この家の持ち主に仕えるってことかな?」
「はい。シャン領主様にお仕えして身の回りのお世話をする役目をもっています」
プリュネは家屋の精霊だった。
古い家屋には精霊が宿り、家主に仕えるのだと教えてくれた。
日本の座敷童に似た存在かな?
挿絵代わりの画像は作者の保護猫たちです。
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