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猫神様のペット可物件【完結・猫画像あり】  作者: BIRD


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第103話:厄介な雑草

「ごちそうさまでした。申し遅れましたが、僕はマエル・デフィ・ドゥ・シャンといいます」


 大き目の雑穀おにぎりを完食した少年デフィは、お腹が満足したのかフーッと息を吐いてから言う。

 途切れ途切れだった言葉が、はっきり喋れるくらいまで回復した。

 ガリガリに痩せてはいるけれど、先に飲ませた回復薬で内臓機能は正常に戻っているので、あとは毎日栄養のある物を食べさせれば標準体型に戻るかな。


「あ……」


 しかし身体は貧血状態で、立ち上がろうとした直後に眩暈を起こして倒れかかる。

 俺は慌ててデフィを抱き留めると、ヒョイッと横抱きにした。


 以前、御堂さんが貧血で倒れたときを思い出す。

 この少年にもレム鹿の実を食べさせた方が良さそうだ。

 もしもレバーが食べられるなら、そっちでもいいかも。


「……す、すいません……」

「デフィ様、まだ動かない方がいいですよ」

「は…はい。あの、クルスさんは僕の命の恩人ですから、僕のことはマエルと呼んで下さい」


 抱えられながら恐縮する少年は、貴族の筈なのに何故か平民の俺に敬語を使っている。

 多分もともと腰が低いタイプなのかもしれない。


「では、マエル様とお呼びしますね」

「いえ、呼び捨てで構いません。敬語もクルスさんは使わなくていいです。この地方にそれを咎める者はいませんから」


 シャン地方、貴族を呼び捨てにして怒られないの?

 敬語もいらないなんて。

 子供のうちは呼び捨てOK、敬語不要とかなんだろうか?


「じゃあ、マエル。聞いてもいいかな? なんで飲まず食わずで畑仕事なんかしてたの?」

「実は、この麦畑に厄介な雑草がはえてきてしまって、必死で草むしりをしていたら何日か経ってしまったみたいです」

「いやそれ熱中しすぎ!」


 俺は少年に事情を聞いてみた。

 返ってきた答えに、思わずツッコミ入れちゃったよ。

 マエルが餓死しかけた理由が、まさかの草むしりとは。


「で、でもあの草を残しておくと……あぁっ! ほら、あれを見て下さい!」

「?!」


 ツッコミに反論しかけたマエルが、ハッと何かに気付いて悲鳴に近い声で叫ぶ。

 振り返った俺の視界に入ったのは、生き物のように動く漆黒の蔓草。

 蔓草はウネウネ動いて近くの麦に絡みつき、締め付け始める。


「あぁっ! 駄目! やめて!」


 慌てたマエルが俺の腕から抜け出して蔓草に駆け寄ろうとするものの、足がもつれて転んでしまった。

 それでも必死で這い寄り、蔓草を掴んで麦から引き剥がした。


枯れろ(スファネ)!」


 マエルは両手で掴んだ黒い蔓草を睨み、魔法を使う。

 俺が初めて見るその魔法は、植物に作用する土魔法だった。

 蔓草は瞬時に干からびて、ボロボロと崩れて散っていく。


(……これは、まさか……)


 俺は漆黒の蔓草が邪神デュマリフィの眷属だと気付いた。

 こんな植物系のやつもいるのか。


「あぁっ! あっちにも!」


 マエルが叫び、必死で這っていく。

 その先ではまた別の蔓草がウネウネと伸びて、別の麦に絡みついている。

 それどころか、周囲に次々と黒い蔓草が地面を突き破って現れた。


(マエルの魔法は範囲では使えないのか……?)


 必死で1株1株蔓草を枯らしているマエル。

 しかし全く追いついていない。


「手伝うよ!」

「えっ?」


 俺はマエルに駆け寄り、サッと抱き上げた。

 突然のことに、マエルはポカンとしている。


「その土魔法に、聖魔法の【浄化】を合わせたら一気に片付けられると思う」

「でも僕、聖魔法は……」

「うん、だから手伝う」

「手伝う……って、どうやるんですか?」


 困惑するマエルを抱いたまま、俺はその場に座り込む。

 それから、マエルの片手をそっと掴み、地面に向けさせた。


「さっきの土魔法を、地面に向かって撃ってみて」

「は、はい」


 マエルは戸惑いつつも魔法を発動させる。

 俺はその魔法に混ぜて広げるイメージで、浄化の聖魔法を発動させた。


 混合魔法:清浄なる大地(ピュールテーレ)


 マエルの単体魔法が増幅されて、麦畑全体を覆う範囲魔法に変わる。

 聖魔法が加わっているので、地面からキラキラと金色の粒子が沸き上がる。

 粒子は範囲内の全ての黒い蔓草を覆い、消し去っていく。


「……す、凄い……雑草がみんな消えた……」

「成功したね。根こそぎ駆除したからもう大丈夫だと思うよ」

「……良かった……やっと……休める……」


 呆然としながら呟くマエルは、蔓草の全滅を知ると力尽きたように気絶してしまった。

 家まで運んであげたいけど、俺はまだこの子の自宅を知らない。


『星の精霊よ、マエルの自宅まで異空間トンネルを開いてもらえるかい』

『畏まりました』


 俺は星の精霊が作り出す異空間トンネルを通り、マエルを抱いてシャン領主邸へと向かった。


挿絵(By みてみん)

挿絵代わりの画像は作者の保護猫たちです。

閲覧やイイネで入る収益は、保護猫たちのために使います。

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