第91話:報告と見張りと匂いチェック
商業ギルド・セベル支部。
俺は受付嬢に依頼の完了を報告した。
「ロティエル様の救出完了しました。今は怪我も無く自宅で休んでおられます」
「良かった……御無事で……。クルスさんありがとうございました」
受付の女性が、ホッとしたように目を潤ませて微笑む。
強い魔獣が多い辺境の地では、狩りの際に命を落とす者が多いらしい。
ロティエル様は運よく途中の木に引っかかって助かったけれど、深い谷底まで落ちていたら岩に叩きつけられて即死だったかもしれない。
「こちらは今回の報酬です」
「え?! こんなに? 1人運んだだけなのに?」
受付嬢がカウンターテーブルに置いた布袋には、金貨がギッシリ詰まっている。
近距離移動で1人運んだ報酬なら、金貨1枚でも多い気がするのに。
「今回は人命救助ですし、この街にとって失ってはいけない大切な方を救って下さったのですから、これは当然の額です」
「そ、そうですか……」
受付嬢が笑顔で布袋をズイッとこちらへ押し出す。
俺はちょっと苦笑しつつ、それを受け取って異空間倉庫に入れた。
◇◆◇◆◇
神々の諸島・西島。
ライオンサイズのフサフサ銀猫に変身した俺は、星空を見上げて呼びかける。
「星の精霊たちよ、セベルの街の近郊を見回ってくれるかい?」
「はい、イリの神様の仰せのままに」
「もしも魔獣の大群が街に向かうようなら、阻止してくれ」
「畏まりました」
セベル近郊の見張りに向かうのは、俺の神力から生まれた精霊たち。
彼等は他の精霊とは異なり、邪気を祓う聖なる力を持っている。
「セベル近郊以外に、魔獣や魔物が多い地域はあるかい?」
「イリの神様が加護をお与えになった冒険者たちが定期的に狩っているので、セベルほどは増えていません」
見張りの一団を送り出した後、俺は他の精霊に聞いてみた。
どうやら異様に魔獣が多いのは辺境地区だけのようだ。
◇◆◇◆◇
神の島・自宅の居間。
夜が明けて帰宅した俺は、ルカの念入りな匂いチェックを受けた。
ルカはソファに座る俺の膝の上に、ズイッと迫るように乗ってくる。
「……」
「あ~、ルカ? これは今日助けた人の匂いだよ」
スンスン、フンフン、ルカは俺の腕や胸の辺りを嗅いでいる。
多分ロティエル様の匂いがするんだろう。
俺は苦笑しながら自己申告した。
「みっ、みみっ?」
「また女の人なのって言われてもなぁ……」
もはやハッキリ分かるルカの猫語。
まるで飲み屋帰りの亭主にツッコミを入れる嫁のようだ。
苦笑する俺を、ソファでお腹出して寝転がるユガフ様が、面白そうに目を細めて眺めていた。
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