第七十一話「痛みと報酬」
体が、めちゃくちゃ痛い……!
領都の門をくぐった瞬間、俺は思わず涙が出そうになった。
戦っている最中は夢中だった。だけど、時間が経つにつれて、全身が悲鳴を上げ始めた。特に腕と腹筋、そして脇腹のあたりがズキズキと痛む。肉体再生速度を確認すると、体力は残り三割を切っていた。
だけどゆっくりとではあるが、回復はしている。
秒間0.01回復か……全快まではだいぶかかりそうだな。
魔獣ウサギの攻撃をまともに受けたせいで、打ち身や打撲がひどい。それでも、俺は魔獣ウサギを背負ったまま、領都の石畳を歩いていた。中型犬くらいの大きさはあるから、そこそこ良い値段で売れるだろう。
痛む体に鞭を打ち、ようやく冒険者ギルドの前にたどり着いた。相変わらず岩みたいな外観の建物だ。
時間は昼過ぎ。朝の賑わいは落ち着き、ギルド内は比較的空いている。受付のカウンターに目を向けると、見覚えのある女性――ステラさんがちょうど手が空いていた。
俺はカウンターへ向かい、声をかける。
「どうしました?」
「あの、獲物を狩ったんですが、買い取りってお願いできますか?」
「それなら、あちらのカウンターで手続きをお願いしますね」
ステラさんが指差した先には、買い取り専用の部屋があった。そういえば、前に説明を受けた気がする。
「わかりました」
俺は素直にそちらへ向かい、カウンターにいた男性職員に声をかけた。
「すみません、獲物を買い取ってほしいんですが」
「おう、その担いでるやつか? カウンターに乗せてくれや」
言われた通りに魔獣ウサギをカウンターに置くと、男性職員の目が光った。
「おっ! こりゃ穴ウサギの魔獣化したやつじゃねえか。坊主、一人で狩ったのか?」
「はい」
穴ウサギ……確かに最初は地面から飛び出してきたな。
「なかなか厄介な奴だぞ。大したもんだ」
「体中ぼこられて、なんとか……って感じでしたけどね」
「わはは! そりゃ大変だったな! まあすぐ査定するから、そこの椅子にでも座って待っててくれや」
「わかりました」
俺は指示された椅子に腰を下ろした。座った瞬間、どっと疲れが押し寄せる。
「……あー……、体痛い」
しばらく待つと、男性職員が声をかけてきた。
「おう、終わったぞ!」
「あ、はい」
立ち上がり、カウンターへ向かう。手渡された書類には、買い取り額の詳細が書かれていた。
「報酬が肉と毛皮で銀貨二枚、魔石が銀貨二枚。解体料銅貨二枚、組合費が銅貨一枚ですか」
「おっ! 文字も数字も読めるのか? 大したもんだ」
「ええ、ミネラ村で鍛えられたので」
「そうか。ちなみに毛皮や肉を自分で使いたいなら、買い取りなしにもできるが、どうする?」
「毛皮や肉はいらないですが、魔石をもらうことってできますか?」
「魔石か? まあ、できるっちゃできるが……土の魔石だから、あまり使い道ねえぞ?」
どうやら、穴ウサギの魔石は土属性らしい。
「大きさって、どんなもんでした?」
「ちょっと待ってろよ」
男性職員が奥から持ってきたのは、茶色のごつごつした魔石だった。大きさは親指の先ほど。
それを見て思う。
……なんとか、飲み込めそうだ。
「これだが、どうする?」
「持ち帰ります。記念に」
「お、おう、そうか? まあ好きにすればいい」
魔石を受け取った俺は、再びステラさんのカウンターへ戻った。
「報酬のお支払いですね」
ステラさんから渡されたのは、銀貨一枚と銅貨十三枚だった。魔石も売っていれば、もう少し増えただろう。
しかし、それよりも問題は――。
「体が痛い……」
俺の様子を見て、ステラさんが心配そうに声をかけてくれる。
「ケイスケ君、大丈夫ですか? 体が痛いんですか?」
「ええ……ボコボコにされました……」
「それなら、教会に行けば安く治療してくれますよ」
「教会……昨日も行ったんですけどね……」
思わず苦笑する。なんだか気恥ずかしいが、背に腹は代えられない。この世界の治療がどんなものかも気になるし、一晩寝れば回復するとはいえ、試してみる価値はありそうだ。
俺はリラの励ましを受けながら、教会へと向かう。
「こんにちはー」
「あれ? ケイスケ君? 今日も来たのかい?」
昨日も聞いた声。
そこにいたのは、やはり助祭のヘズンさんだった。
俺はヘズンさんにまた教会を訪れたわけを話す。
「なるほど、体が痛いと」
ヘズンさんが軽く頷きながら言った。
「はい……手当をお願いしたいんですけど」
教会に来てみたものの、俺はまだどんな治療を受けられるのか知らない。回復魔法といっても、どれくらいの効果があるのかもわからないし、少し興味もある。
「そっか、それは丁度いい!」
ヘズンさんはにやりと笑った。
「……は?」
何が「丁度いい」んだ? 俺が訝しげに眉を寄せると、ヘズンさんは「ちょっと待っててくれ」とだけ言い、談話室の奥へと姿を消した。
待つこと数分。ヘズンさんが戻ってくると、その後ろには小柄な少女――ティマがついてきていた。
ヘズンさんに続いて、一日ぶりの再会者二人目だ。
「……こ、こんにちは」
ティマは相変わらずか細い声で挨拶する。その視線は床に落ちたままで、俺とは目を合わせようとしない。
「えっと、ティマ?」
俺は戸惑いながら彼女の名を呼ぶ。するとヘズンさんが満足そうに頷いた。
「そうそう、ティマについさっき回復魔法を教えたばかりでね。是非とも練習台になってあげてほしくてさ」
「……練習台?」
「うん。実践経験って大事だからね!」
なるほど、そういうことか。ティマの回復魔法の練習台――それなら俺としても詠唱を聞けるし、治療も受けられる。願ったりかなったりだ。
最後までお読みいただきありがとうございます!
あなたの貴重なお時間を物語に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。
ちょっとでも楽しんでいただけたなら、何よりです!
もし「いいな」と思っていただけたら、
お気に入り登録や評価をポチッといただけると、とても励みになります!
コメントも大歓迎です。今後の執筆の原動力になりますので、
どんな一言でも気軽に残していただけたら嬉しいです。
これからも【悠久の放浪者】をどうぞよろしくお願いします!




