第七十話「ウサギとの死闘」
「……うぷ」
まだまだ胃の奥に重さを感じる。まるで揚げ物を食べすぎたときのような感覚だ。
『大丈夫ー?』
心配そうなリラの声が響く。俺は軽く腹をさすりながら答えた。
「……大丈夫、ちょっと胃もたれっぽい感じがしただけだから」
『ダメだったらちゃんと言うんだよー?』
「わかったよ」
苦笑しつつスマホを開き、ステータス画面を確認する。
狙い通り、魔素の同期率が10%を超えていた。
魔素との同期:11%
風素との同期:3%
火素との同期:11%
水素との同期:2%(自動スワップ設定中)
土素との同期:3%
光素との同期:25%(自動スワップ設定中)
「……これ、自動スワップを魔素に設定して、灰色魔石を飲み込めば、他の同期率を上げられるよな?」
だが、二個以上の魔石を短時間で飲むのは、胃が受け付けない感じがする。さすがに無茶はしたくない。
そこまでしなくても、時間をかければ同期率はあがるのだから、無理をする必要はないはずだ。
「うーん、アップデートの通知はない……か?」
スマホの画面に変わったところは見られない。
火素の同期率が10%を超えたときも何も変化がなかった。そんなに簡単にはいかないらしい。
「そのうちにきっと、アップデートされるよな……多分」
ふっと息を吐いた瞬間のことだった。
『ケイスケ、何か来るよー!』
リラの警告が響く。俺はすぐに短剣を抜き、周囲を見渡す。しかし、何も見えない。
「……なにが――!?」
言葉を発した直後、地面が盛り上がり、何かが飛び出してきた。
咄嗟に避ける。
俺の顔すれすれを、ものすごい勢いで通り過ぎていったそれ。
着地した姿を見て、俺は驚いた。
「魔獣か!?」
それはウサギの姿をしていた。だが、普通のウサギとは違う。全長は一メートル以上、赤黒い毛並みは見るからに獰猛な魔獣のそれだった。
思い出す。ゴブリンの集落で罠にかかっていた魔獣ウサギに似ている。だが、こいつはもっと大きい。
魔獣ウサギは一瞬も待たず、また跳躍した。
速い――!
避けようとしたが、足がもつれた。
そして――。
「ぐっ……!」
魔獣ウサギの体当たりをまともに受け、地面に叩きつけられた。
腕が痺れる。さっきの一撃で骨が折れてもおかしくない衝撃だった。
『ケイスケ!』
リラの声が焦る。俺はすぐに立ち上がるが、次の瞬間、また魔獣ウサギが突進してきた。
咄嗟にガードするも、今度は肩に直撃。
そのまま俺の体は地面に転がる。
「ぐおっ!」
起きて、転がされ、また起きて、転がされる。
まるでサンドバッグだ。
「どうすればいい……!?」
立ち上がる隙を、考える時間を与えてくれない。
踏ん張る力があれば――! 力……?
「そうか!」
俺は思いついた方法をすぐに実行する。
転がされながら、なんとか集中して魔法を発動させた。
肉体強化魔法――ドーピー。
瞬間、体に力が漲る。
肉体の頑強さが増したのか、再び突進してきた魔獣ウサギの衝撃は今までの比にならないくらい弱く感じ、耐えることができた。
そのまま地面に踏ん張り、体を起こすことに成功する。
「よし、さっきより全然耐えられる!」
腰を低く落とし、しっかりと地面に踏ん張る。
魔獣ウサギは俺が倒れないことに驚いたのか、今度は一度距離を取った。
俺は姿勢を低くしたまま短剣を構える。
「人をサンドバックにしやがって……! 来い!」
魔獣ウサギが再び身をかがめ、力を溜めているのがわかる。
次の攻撃は、本気だ!
地面が爆発したかのような勢いで魔獣ウサギが跳躍する。速すぎて視認できない。
しかし、これまでの動きを思い返す。
こいつはいつも頭か腹を狙ってきていた。
ならば――。
「来ることがわかってたら……!」
俺は野球のバッターのように、魔獣ウサギを短剣で受け返すイメージを思い描く。
そして短剣を振りぬいた。
手には強い衝撃――。
「ギャウンッ!?」
狙い通りに魔獣ウサギに短剣が命中した。
「うおおおおお!!!」
魔獣ウサギは弾かれ、5メートルほど吹き飛んでいった。
草むらに落ちる魔獣ウサギ。
俺は振り抜いた体勢のまま、一言。
「ホームラン! だな!」
勝利の言葉を口にした。
魔獣ウサギの落ちた先に近づく。
少し背の高い草の場所に落ちたので、魔獣ウサギの様子はわからない。
すると、リラが言った。
『ケイスケ、危ないよー!』
さっきと同じだ。リラの警告に間を置かず、草むらから何かが飛び出してきた。
「うおっ!?」
しかし、それにさっきまでの勢いはなかった。それは胸元に飛んでくるが、構えていた短剣にそのまま突き刺さる。
きっと、最後の力を振り絞ったのだろう。
地面に落ちた魔獣ウサギは血を流して息を浅くし、息絶える寸前だった。
「……すまんな」
俺はそんな相手に短剣を首に突き立て、とどめを刺す。
突き刺した場所から赤い血が溢れ出て、やがて動かなくなった。
それを確認して、深く息を吐く。
『ケイスケ、やったねー!』
「ああ」
俺は初めて一人で魔獣を打ち倒したのだった。
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