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悠久の放浪者  作者: 神田哲也(鉄骨)
第四章

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第二百六十三話「紹介、失敗する」

 ――状況が、まったく理解できない。


「お前、いい加減にしろよ?」


 最初に口を開いたのはニトだった。

 いつもの軽口混じりの声じゃない。眉をひそめ、明らかに本気で俺を睨んでいる。


「マジか……?」


 思わず口癖が出た。


「本当に、ニトの言う通りだわ」


 次にミルカ。

 眼鏡越しに、きっちりとした冷たい視線。これは説教前の顔だ。


「限度ってものがあると思います」


 ヘルヴィウスまで参戦してきた。

 柔らかい言い方だが、内容はばっさりだ。


「流石に擁護できねえだよ」


 トルトはため息交じり。

 こいつがこういう言い方をする時は、本気で呆れている証拠だ。


「……」


 そして、最後にティマ。

 無言だが、半目。

 無言が一番刺さるって、誰か教えてくれ。


 ――おかしい。

 誰も味方がいない。


 俺はゆっくり周囲を見渡した。

 全員、俺から微妙に距離を取っている。


 ざっと見て、五メートル。

 体育の授業で言うところの、余裕でソーシャルディスタンスを守れる距離だ。


「……いや、ちょっと待て」


 俺は両手を上げて言った。


「落ち着け。ちゃんと説明するから」

「説明の前にだな」


 ニトが指を突きつける。


「なんで、あんなもん呼んだ」


 あんなもん、とは失礼な。

 俺の横では、巨大な影がゆっくりと首を動かしていた。


『ケイスケ、ドウシタ?』


 ただの猛獣の唸り声にしか聞こえないが、そこにはちゃんと意味がある。

 飛竜――レガスだ。


 灰色がかっていた鱗は、今では少し緑を帯び、陽に当たると鈍く光っている。

 翼を畳んでいるだけで、存在感がありすぎる。


「いや、だから……紹介しようと思って」

「紹介の仕方ってもんがあるでしょう!」


 ミルカが即座にツッコんだ。


「急に空から降りてきて、地面揺らして、風圧で砂巻き上げて!」

「マジか、そこまで……?」

「そこまでよ!」


 俺は小さく咳払いをする。


「えー……改めて紹介します。こいつはレガス。俺の――まあ、仲間だ」

『レガス、ダ』


 レガスは律儀に首を下げた。

 その動きだけで、風が起きる。


 全員、一歩下がった。


「ほら、怖くないだろ?」


 俺が言うと、


「説得力ゼロだ」


 ニトが即答した。


 ちなみに、全員俺から五メートル圏外を死守している。

 完全包囲されているのは俺だけだ。


「……で、何で増えてるんですか?」


 ヘルヴィウスが、レガスの背後を見て言った。


 俺もそちらを見る。


 レガスの後ろ。

 一回り小さい飛竜が、三匹。


 きっちり整列している。


「いや、仲間を呼んでくれって言ったら……」

『ツレテキタ』


 レガスが胸を張る。


 確かに、四匹の飛竜が揃うと迫力が段違いだ。

 森の主どころじゃない。完全にボスラッシュ前だ。


「……大丈夫なのかよ?」


 ニトが疑いの目を向ける。


「大丈夫だって。ほら、何もしないだろ?」


 そう言った瞬間。


 一匹が羽をばさっと広げた。


「ひっ!」


 ミルカが声を上げる。


「ちょ、待て待て!」

「今のは不可抗力です!」


 ヘルヴィウスがフォローしてくれるが、状況は好転しない。


「……」


 ティマが、じっとレガスを見ていた。

 その小さな手が、胸元でぎゅっと握られている。


「ティマ?」


 俺が声をかけると、彼女は一歩、前に出た。


「……大丈夫、なの?」

「ああ。優しいやつだ」

『オレ、ヤサシイ!』


 即座に肯定するレガス。


 ティマは少し迷った後、そっと近づいた。

 そして、震える指先で――レガスの鱗に触れた。


「……あ」


 ティマの表情が、少し緩む。


「……あったかい」


 レガスが、ゆっくりと首を下げる。

 それを見て、ニトが舌打ちした。


「……ちっ。しょうがねえな」


 次に近づいたのはニトだった。


「触るだけだぞ」

「はいはい」


 ごつい手で、鱗をぽん。


「……硬ぇな。でも、悪くねえ」


 続いてミルカ。


「学術的に興味がありますから」


 理屈を盾に、ゆっくりと一歩前へ。


「……確かに、魔力の流れが……」

「触る理由になってないぞ」


 ヘルヴィウスも続いた。


「僕も……将来の勉強に」


 完全に便乗である。

 最後に残ったのはトルト。


「……俺、でかいの苦手だべ」


 そう言いつつ、意を決して前に出る。


「……おお」


 触れた瞬間、目を丸くした。


「……熊より、でかいだな」


 ――こうして。


 全員、無事にレガスに触れた。

 俺はその様子を見て、ほっと息を吐く。


「な?」


 同意を促すも皆は冷ややかだった。


「……次からは、事前に言え」

「マジで」


 全員からの一斉ツッコミが、俺に突き刺さった。


 ――次があれば、気をつけよう。


 たぶん。




 それからしばらくして、皆と飛竜たちとの距離感はだいぶ縮まっていた。


 最初こそ五メートル以上あった安全距離は、いつの間にか完全に消えている。

 今では全員、それぞれの飛竜のそばに立ち、恐る恐るではあるが、鱗に触れたり、首筋を撫でたりしていた。


「……思ったより、おとなしいですね」


 ミルカが、学術的な観察をするような目で言う。


『オトナシイ』


 レガスが、胸を張るように鳴いた。


「いや、今それ俺が通訳しないと分からないからな?」


 俺が言うと、レガスは首を傾げた。


 ちなみに俺は言語習得チート持ちなので、飛竜の言葉が分かる。

 だが当然、みんなは分からない。


 つまり――俺がいないと会話は成立しない。


「……ケイスケ」


 ニトが、じっと飛竜を見上げながら言った。


「ひとつ、聞いていいか?」

「ん?」

「こいつら……飛ぶよな?」


 何を今さら。


「飛竜だぞ?」


 俺が言うと、全員が一斉にこちらを見た。


 嫌な予感がした。


「……乗れるのか?」


 ニトの一言で、空気が変わった。

 俺は一拍置いてから、にやりと笑う。


「乗れるぞ」


 その瞬間。


「え?」

「は?」

「……今、何と?」


 全員の反応が見事に揃った。


「だから、乗れる。せっかくだし、ひとまず乗ってみようぜ」

「ひとまずって何ですか!?」


 ミルカが即座にツッコむ。


「大丈夫だって。俺はもう何度も乗ってるし」

「それはケイスケだからでしょう!」


 その通りだった。……というか、なんだかその言葉通りの意味に聞こえないのは何故だ?

 だが、俺は止まらない。


「レガス、みんな乗せられるか?」

『ノレル』


 即答だった。


「……だ、そうだ」

「だからって、簡単に信じられるか!」


 ニトが叫ぶ。


 とはいえ。


 最初に動いたのは、ニト自身だった。


「……まあ、俺から行く」


 覚悟を決めたように、ニトは一匹の飛竜のそばへ歩いていく。

 レガスより少し小さいが、筋肉質で、鱗の締まったメスの飛竜だ。


「お、おい……」

「やるしかねえだろ」


 ニトは意外にも器用だった。

 翼の付け根を足場にして、するすると背中へ登る。


「……お、おお?」


 背中にまたがり、少しふらつくが、踏ん張る。


「意外と、いけるな」

「すごい……」


 ティマが小さく声を漏らした。

 次に動いたのは、ヘルヴィウスだった。


「僕は……こちらですね」


 彼のそばには、細身のメスの飛竜。


「アイレ、お願いします」

『仕方ありませんわね』


 風の精霊の名を呼ぶと、足元に柔らかな風が生まれる。

 ふわり、と身体が浮き、そのまま優雅に背中へ。


「……あ、楽ですね」


 貴族様、余裕である。


「次、俺だべ」


 トルトは、レガスの次に大きいオスの飛竜の前に立った。


「……よいしょ」


 体格差はあるが、力は十分。

 問題なく背に乗る。


「ミルカ、引き上げるだ」

「ちょ、ちょっと……!」


 言いながらも、ミルカは腕を掴まれ、そのまま引き上げられた。


「……す、座れました」


 若干顔が赤い。

 最後は――俺だ。


「行くぞ、ティマ」

「……うん」


 俺はティマを先に抱き上げ、レガスの背に乗せる。

 その後ろに、俺。


「準備はいいか?」

『イイ』


 次の瞬間。


 飛竜たちが、一斉に翼を広げて地を蹴った。

 僅かな浮遊感。一瞬にして二メートルは浮き上がる。


 ――ほんの数秒。


 それだけだった。


「うわっ!?」

「ちょっ!?」

「きゃっ!?」


 一斉に悲鳴が上がる。

 飛び上がった瞬間、全員がバランスを崩し、背中から転げ落ちそうになっていた。


「ダメだ!」

「無理です!」

「危険すぎる!」


 そんな声を受けて即座に着地。

 全員、青い顔で降りていった。


 俺とティマだけは平然としている。


「……おかしいな」


 俺が首を傾げる。


「俺は普通に平気なんだが」

「それが異常なんだよ!」


 ニトが叫んだ。


「これは……」


 ミルカが顎に手を当てる。


「鞍と鐙が必要ね……」


 全員、納得の表情。


「確かに」

「ないと、踏ん張れねえ」

「安定しません」


 鞍と鐙か。確かにあればもっと快適に乗れるかも? でもそれは人間の都合であって、レガスたちはどうなのか?

 俺はレガスに確認する。


「レガス、お前の首から背中にかけて鞍と鐙、付けてもいいか?」

『カマワナイ』


 するとあっさりと了承の返事が返ってきた。

 他の飛竜たちも問題ないとのこと。


「よし、決まりだな」


 ミルカが採寸を始める。


「街の馬具店に頼みましょう」

「……飛竜用、作ってくれるか?」

「相談次第ね」


 その時。


「費用は、僕が出します」


 ヘルヴィウスが、はっきり言った。


「いや、それは――」

「いえ」


 彼は首を振る。


「僕のせいで、皆さんがデロンド組に狙われることになりました。これは、その……せめてもの」


「固辞するな」

「そうだぞ」

「気にすんな」


 全員が口々に言う。

 ヘルヴィウスは少し困ったように笑った。


「……ありがとうございます。でも、僕が出しますよ。出させてください」

「……金額次第だな」


 あまりにも高かったら、みんなで折半だ。


「それにしても、飛竜に乗るとか、帝国の騎士かよ」


 ニトがぼそっと言う。


 確かに、授業で聞いたことがある。


 竜騎士。


 ……。


「……かっこいいな?」


 俺が言うと、


「調子に乗るな」

「自重してください」

「今はまだ無理だべ」


 全員から、即座に否定された。


 ――マジか。


最後までお読みいただきありがとうございます!

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