悪役令嬢は恋心を指摘される
「そうですわ!私のお友達は心の中で好きな方を好きなだけ愛でると言っておりました」
しんみりとした空気を払拭したかったのか、軽くパチンと手を叩くとクレアが話題を変えた。
「心の中で、ですか?」
「そう。婚約者がいれば実際に他の殿方にお声かけすることはもちろんいけないことですけれど、心の中までは誰も縛れませんもの。なので、自分の心の中でだけ思うのですって」
いまいちピンときていないソフィは真面目な性格なんだろうな。
相手がいるからにはその相手に心も捧げなければいけないと思っていそう。
「好きな人を思うだけで毎日が楽しくなる、辛いことも頑張れるってすごいことですわよね」
なんとなく推し活に近い感じ?
「なのでエレナ様、そういう心の中でだけの存在はおりませんの?」
おっと!
突然こっちに話題が飛んできたよ。
「どうでしょう?どういった相手ならそう思えるのか……」
「そうですわね、こう……一緒にいるだけでドキドキするとか、お話しするだけで楽しいとか、もっと言えばその方のことを考えるだけで元気になるとも聞きましたわ」
ううーん……。
意外に難しい問題。
そういう意味での心の感度、鈍いのよね。
「エレナ様、いるじゃないですか」
それまで傍観者だったジェシカが突然突っ込んでくる。
「え?」
「どなたですの?」
そしてクレアとソフィがその餌に食いついた。
いる?
いるっけ?
え?
誰?
私がわからないことをジェシカが知っているってどういうこと!?
私がまったく思い当たらないのを察知してか、ジェシカが小さくため息をついた。
「黒い人、ですよ」
「黒い……?」
「常にそばに居てトキメキを提供してくれているじゃないですか」
まさか……。
ジェシカさん、それは最近この国の第一王子だということが発覚したあの人でしょうか?
「ジェシカ様、私思い当たらないのですけど」
「いえいえ、気づいてらっしゃるでしょう?」
私の抵抗をジェシカはものともしない。
「もしかして、ダグラス様ですの?」
ハッと気づいた様子でソフィが言った。
「え!?護衛の?」
そしてクレアが素っ頓狂な声を上げる。
クレア、声が大きいよ!
「だってエレナ様、ダグラス様に対してだけ態度が違うでしょう?なんというか、素を見せている気がします。それだけエレナ様にとって信頼できる相手だということです。それに、お二人のやり取り、楽しそうですしね」
ジェシカの言葉に、他の二人も「たしかに」と頷く。
ええー。
私のダグラスに対する態度ってそんなに他の人に対するのと違う?
ドキドキさせられることはあるけど、それは特殊なシチュエーションだったりするからじゃないの?
あとはなんと言ってもダグラスの容姿よね。
イケメン相手なら誰しもときめくものでしょう?
「容姿の良い殿方とお話しすればみなさまもときめいたりしますでしょう?」
「エレナ様、顔が良いからと言ってときめくとは限りませんわよ」
クレアが少し身を乗り出して熱弁してくる。
「想像してみてください、エレナ様。レオ様も充分容姿が整っていると思います。そのレオ様相手にドキドキしますか?」
ジェシカの言葉になんとなく目を閉じて想像してみる。
たしかに、レオは容姿端麗の美丈夫だ。
王子様といえば、みたいな見た目である。
そのレオに壁ドンされたり顔を近づけられたり……?
うー……む。
なぜかしら。
うわー!
綺麗な顔!
眼福眼福、と喜んでいる自分しか想像できなかったわ。
「では、今度はダグラス様だとどうですか?」
ダグラスには実際に壁ドンとかをされている。
あの時は心臓が大変な思いをさせられたわ。
動悸はするし頭は混乱するし、まともな思考力が旅に出たわね。
「答えは出たのではないですか?」
ジェシカの問いかけに目を開けた。
視線の先にはなぜかちょっと優しげな顔をしたジェシカ。
左右にはこれまたなぜか少し頬を赤らめたクレアとソフィ。
「エレナ様、顔真っ赤ですよ」
ジェシカの言葉に咄嗟に頬を両手で触るといつもより熱い気がした。
え?
どういうこと?
私、ダグラスのこと好きだったの!?
「まったく、他の人のことにはすごく聡いのに、なぜご自分のことにはこんなに疎いんですかね?」
ジェシカの呆れたような声が遠くで聞こえる。
麗かな日差しの中で仲の良いお友達との楽しいお茶のひと時。
私は大混乱に陥ったのだった。
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