悪役令嬢は恋愛について考える
恋愛は贅沢品だ。
少なくとも前世の私にとってはそうだった。
時間は有限だから。
一日二十四時間を何に使うかといえば勉強と生活費を稼ぐためのアルバイトばかり。
それでも、良い大学に行くには奨学金が必須だったし、奨学金を得るためには良い成績が必要だったから頑張った。
良い大学に行って良い企業に就職したからといって良い人生が送れるとは限らない。
それでも可能性は上がると信じて、少なくとも親ガチャに外れたマイナス分くらいはプラスにしたかった。
だから自分の力の及ぶ範囲では手を抜かなかった。
そうなれば自ずと優先順位がつくもので。
恋愛は生きるために必ず必要なものではなかったから私にとっては贅沢品だったのだ。
言ってみれば趣味や嗜好品のようなもの?
十代女子であれば異性にキャッキャうふふ言って女子同士で恋バナとかを楽しむものだろうけど、その楽しみはほとんど捨てた。
辛うじて自分で時間のコントロールができる乙女ゲームで擬似恋愛を楽しんだくらいだ。
そうやって頑張った結果がこれから人生を楽しもうかというタイミングでの異世界転生なわけだけど。
転生したらしたでエレナは既にライアンの婚約者で。
当たり前だけど王太子の婚約者が自由恋愛できるわけもなく、王太子妃教育で時間もなく、さらにいえばエレナ自身が人生を諦めてしまっていた。
だから私がダグラスに抱く気持ちが恋愛感情というのであれば、人生二度目にして初めての気持ちということになる。
……前世を含めて今まで、恋愛感情に関してはあえて気づかないように、持たないようにしてきた自覚は……ある。
だって持っても仕方のないものだったから。
相手のいることだし、自分が好かれる自信もなかった。
それに何よりも費やせる時間がなかったのだ。
言ってみればないない尽くしな訳で。
この状況で恋愛感情を持つほど無計画にはなれないのよね。
自分の心が自分のコントロールを外れるのは困る。
それを楽しめるだけの余裕もない。
それなのに、だ。
ダグラスに対して恋愛感情を抱いてしまうなんて想定外!
気づかなければ良かったよー。
少なくとも今の私はライアンの婚約者のままだし。
心の中で思うだけでも後ろめたく感じるのはなぜかしら?
ああー……。
それよりも何よりも、ダグラスの前で挙動不審になってしまいそうで困る。
その心配が拭えず、あのお茶会以降護衛は主にレオにお願いしている。
おかげでダグラスの視線が痛いのなんのって。
「最近俺を避けていますか?」
なんなら直球でそう聞かれたけれど、正直に話すわけにもいかないじゃん!
適当に誤魔化したけれど、ダグラスが納得していないのは手に取るようにわかった。
そんなこんなの状況の中でのデュランからの連絡である。
探し求めていたアーティファクトがとうとう見つかったと。
高価な物だからデュランが先に買い求めることもできず、現状は購入の権利をキープしている状態と言われればデュランの元へと急いで行く必要があるのは明白だ。
というわけで、今私は馬車の中にいる。
久しぶりに馬車の中でダグラスと二人きりという状況。
かわいそうな私の心臓は過重労働を強いられている。
「探し求めていたアーティファクト、見つかるまでに時間がかかりましたね」
「存在は知っていましたけれど実際にあるのかどうかすら怪しい物でしたから、見つかったこと自体が幸運ですわ」
そう。
映像と音声を記憶できるアーティファクト探しは思った以上に難航した。
デュランの情報網をもってしてもなかなか見つからず、半分諦めたところでやっと連絡が来たところだ。
「金額もそれ相応とか?」
「そうですわね。私でもかなり大変な出費ですわ」
公爵家でエレナに割り振られた自由に使える予算を目一杯と、私がデュランとの仕事で得ている収入を足してやっと払えるくらいの金額だ。
なかなか痛い出費ではあるが、それでも今このタイミングで手に入れる価値はある。
これから活躍してもらう物だもんね。
このアーティファクトがあることで私の潔白は証明しやすくなる。
今後の断罪回避のためにも必須のアイテムなのだ。
「情報ギルドにも俺の影にも上がってきていないそのアーティファクトの存在をお嬢さまは一体どこで知ったのでしょうね?」
「ウェルズ家の図書室にはさまざまな蔵書がありましてよ。中には世に出回っていない希少な本も」
言外にエレナ自身にも情報を得る手はあるのだと告げる。
「図書室の本もあらかた目を通しましたが、そんな情報は無かったはずですけど」
……ダグラス、読んだ本の内容全部覚えてるの?
怖っ!
「公爵家の者しか目を通すことができない書物もありますわ」
嘘だけど。
それらしいことを言ってここは目を逸らさせておこう。
そうこう話しているうちに、馬車はいつもの裏通り入り口に着いた。
ここからは馬車を降りて徒歩だ。
ダグラスの興味がアーティファクトに向いていたおかげで馬車での時間もなんとかやり過ごすことができた。
これからもこんな状況ではいつか心臓がもたなくなるよね。
いっそのこと自分の気持ちをコントロールできるアーティファクトでもあるといいんだけど。
でもそれだと心を操ることになるのか。
それはそれで危険。
そんなどうでもいいことを考えながら、私はデュランのいる情報ギルドに着いたのだった。
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