主人公、いっきまーす!
修行を初めてはや一ヶ月。
陰陽術とやらもある程度使える様になった。
具体的には、水を浮かばせたり、火を分裂させたり。
あとは、土や石を自分の好きな形に変えたりだとか。
……何故か、俺にはその術が使える様になった瞬間の記憶がないのだが。
なんでだろー。
不思議だなー。
……正直にいうと、気絶しまくってました。修行中。
おかしいなぁ。
おっちゃんの理解不能な筋トレで体力はついてるはず、なんだけどなあ。
まあ、それはそれとして。
俺の陰陽術は師匠に言わせればまだまだらしい。
何もないところから水や火を出せないうちは、ひよっこもいいとこなんだと。
俺的には、結構満足なんだけどね。
……おっ。
「──とぉ! あっぶね⁉」
反射的に後ろへ飛び退く。
少し遅れて、さっきまで俺がいたところを拳が通っていく。
いや、本当に危ないな。
……そういえば、ここってどこなんだろう。
修行をするときにくる草原に似ている気もするけど。
んー、でも草原なんていくらでもあるか。
都の周りだって平野だったんだし。
……勿体無いよなあ。
何で田んぼ作ったりしないんだろう?
せっかくの平地なのに。
そういえば都でそういう食べ物を生産する場所をみたことがない。
どうなってんだろうね。
おっと、またどうでもいいことを。
何ですぐにくだらないことを考え出すんだろうね、俺って。
「おお? なんだ、結構余裕じゃあないか。ちょっと舐めすぎてたかな?」
いやいや、全然余裕じゃないよ?
押されてる、とまでは言わないけれど、互角ぐらいだと思うで?
「いやー、戦闘中に喋れるんだから、やっぱりお前の方が余裕あると思うよ? そんでもって、そのまま舐めプしてくれたらありがたいんだけど。……ダメ?」
距離をとって息を整え、感想を言う。
まったく。
こっちは少し喋るのにもいちいち息を整えないといけないぐらい、余裕無いってのに。
……あ、そうそう。
実は今、戦闘中だったりする。
なんで俺戦ってんだろ?
「ダメだねー。雨月とハッタリからは良い感じにボコボコにしておいてくれって頼まれてるからね。いやー、辛いなーっ! ほんとは優しく相手してあげたいんだけどなぁ! かーっ!つれーなー!」
わあすげえ。
ここまで白々しい演技、俺初めて見たよ。
口元すごい嬉しそうに笑ってるし。
少しは隠す努力をしようぜ?
主に師匠に詰め込まれた陰陽術の知識のせいで。
頭が爆発してもおかしくない。
まあ、それはそれとして。
「……いやあ、それがさあ。俺、試合前の、というか、なんというか……まあ、その辺りの記憶がないんだよね。多分、気絶してたんだと思うけど」
うわあ、すっごい目してる。
うんうん、言いたいことは分かる。
俺だって、お前の立場だったらこいつ何言ってるんだ?
って言いたくなるよ。
けどね。
絶対、気絶してた。
この一ヶ月、気絶したまま行動するなんて当たり前の様にやっていた。
のだと思う。
……しょうがないじゃん!
気絶してるときの記憶なんて、陰陽術の行使に必要なアレコレしか残ってないんだから!
……ほんと、どうやって動いてんだろうね。
……うう。
異世界厳しいよー。
地球に帰りたい……。
アイスが食べたい……。
じゃなくて。
えっと。
何だっけ?
「……はあっ。そういうことなら、仕方ない。もう一度、試合をやり直すぞ。名乗りからな」
そうそう、それそれ。
「全く、やれやれだぜ!」
「誰のせいだと思っているんだ!」
俺の希望通りの反応。
空気の読める人なんだね、うんうん。
口には出さないけどね。
「─────我は『火虎』、武の頂を目指す者。手合わせしようぞ!」
わあかっこいい。
求道者って奴なのかな?
……つーかお前は結局誰なんだよ!
名前を言えっつーの。名前をさ。
そもそもかこって誰だよ。
何となく聞いたことがあるような気もするけど。
戦うことになった理由も聞いてないし。
俺の口上ってどんなのだろう?
……いや、あれ?
口上とか全然分からねーよ⁉
……ヤッバいなー。
どうしよ。
今から考えるとか?
「─────我が名は龍之介。手合わせ願おう!」
とかなんとか思っていたら口が勝手に喋ってくれていた。
この人みたいなかっこいいのはついてなかったけど。
これも師匠達の修行の結果なのか?
はあ……体が勝手に覚えてくれているのはありがたいけどさ。
ほんと、修行中の俺ってどうなってんだろうね。
さっきの戦いだってほとんど反射みたいなもんだったし。
しかも気絶している間も勝手に戦闘するという、完全に俺の意思を無視した動きもしてるし。
これってちょっと間違えたら暴走する殺人マシンと大差ないぞ?
……もしかしなくても、俺、結構ヤバかったりする?
とか思ってる間に試合開始の礼だなんだが終わった。
「今度は始めから本気でいくぜ!」
……あ、一応言っておくと俺の目の前にいるこの男は素手で戦ってる。
黒髪黒目で身長はー……まあ、高いんじゃない?
袖の裾から除く腕にはワイヤーがまとめ上げられたような筋肉が……くそう、羨ましい。恨めしい。妬ましい。
俺も欲しいなー。筋肉。
……そういえば、師匠以外は皆目も髪も黒いな。
雨月のおっちゃんは白髪混じりだけど。
何で師匠だけあんな髪の色と目の色なんだろ?
「いやあ、それは勘弁してほしいかなあ、なんて言ってみたりってのわあっ⁉」
……言葉通り、本気を出して来たらしい。
拳の速さがさっきよりも速くなっている。
まあ、分かるだけでそれを行動に反映することは出来ないけどね‼
何たって反射で動いてますしおすし。
……ま、やろうと思えばやれるような気もするけど、反射で動いてる方が動きが速そうだ (中学のときそんなことを習った気がする) し、何よりめんどくさいからしない。
というか、そもそものやり方が分からん。
「おらおら、どうした! さっきの余裕はどこに行ったんだ⁉」
だから余裕なんてないって言ってるだろー?
……にしても、凄いな。
外見からして強そうな感じはあったんだけど。
やっぱり強かった。
動きも結構早いな。
距離を空けてもすぐに詰められる。
うーん、どうしよう。
一応、反射行動でもこいつの攻撃を防御したりかわしたりなんかはできるみたいだけど、なかなか攻撃にでない。
攻撃をしないのはその動きに俺の意思が入っていないからなのか。
それとも守るだけで精一杯になるくらい体術のレベルに差があるからなのかは分からない。
……ちょっと試してみるか!
──ここっ!
適当にここら辺かなー? って勘でパンチを入れる。
腕の軌道がブレたりはしない。
攻撃の姿勢まで調整してくれるなんて、修行をつけてくれたおっちゃんに感謝しないとな!
……その日の修行を終えたあとの疲労感は半端ないけど。
「せいやっ!」
「むっ⁉」
おお、やってみるもんだね。
相手に当たりこそしてないけど、困ったような顔してる。
何と無くだけど圧迫感が減った気がする。
ほむほむ。
これが試合に有利になる、という奴か。
……あ。
こいつが余裕の態度とか言ってたのってこれのことか。
なるほど、こりゃ舐めてるわ。
攻撃する余裕もあるのに防御と回避しかしないわけだからね。
「まだまだ自分を使いこなせてなかったのか。まっ、こういう相手もそれはそれで楽しいな」
バトルジャンキーかアンタは。
「あんたは楽しくても俺っちは全然楽しくないのだよー!」
いや、ほんとに余裕とかそういうのじゃないんす。
そういうのはマジ勘弁してくれっす。
「盛り上がってきたところ悪いが、今日はその辺にしておけ」
おっちゃんの声が辺りに響く。
……え? おっちゃん?
どこにいるんだよ。
……神祇省でも似たようなことがあったなあ。
これも陰陽術なのかな?
「……チッ。これからが楽しいんだがな。まっ、親父がそういうなら仕方ないか」
相手が臨戦体制を解いたのを確認して、こちらも臨戦体制を解く。
「え? なになに? どゆこと?」
親父?
おっちゃん、息子がいたのか……。
いやいや、それにしてはこの人が若すぎる。
おっちゃんが多分、白髪の量からみて、六十代だろ?
んで、こいつが多分十代前半だから。
……おっちゃんが五十歳手前のときに子供が生まれた?
高齢出産は厳しいだろうから、そのときの相手は多分二、三十代。
……。
いやいや、養子という可能性もある。
うん。
多分そうだ。
そうであってくれ。
「……お主が何を想像しとるかは知らんしどうでも良いが、さっさとこっちに戻ってこい」
ジョーキョーについていけてないでやんす。
さっきからおっちゃんが何を言っているのか俺にはさっぱり分からんのでありまする。
「もういい。強制送還だ」
「はぇ?」
瞬間、視界が突然真っ白になり、少しの浮遊感が俺を襲う。
視界が元に戻り、ふわふわとした感覚が消えると、いつの間にか俺の目の前にはつい先ほどまで戦っていた男と、おっちゃんが座っていた。
俺も座っていた。
「……はっ? 何が起こったんだ?」
ただいま絶賛混乱中。
しばし待たれよ。
「お主は把握出来ていなかったのかの? ハッタリから“瞑想”についての説明はもう受けてるもんだと思っていたがのう」
瞑想?
瞑想……瞑想…………。
ああ!
アレか!
「イメージトレーニングのことか!」
瞑想ってのはまんまイメージトレーニングだ。
実際に体は動かさず、頭の中で最高の動きなんかを何度も再現する、アレだ。
その点については地球のイメージトレーニングと変わらないんだが、流石は異世界とでも言うべきか。
瞑想は地球ではあり得ない、“想像の中での相手との対戦”を可能にする。
もちろん、自分が創った仮想の動きをする影とか、そういうのではなく、実際に相手と対戦する。
……らしい。
テレパシーみたいだな、こうして整理してみると。
「お主は時々、よくわからん言葉を使うのう。……こやつとの戦闘はどうであったか? 中々良い経験になっただろう?」
なったよー。
何となく戦い方のさわりが分かったし。
覚えてることと使いこなすことは別問題だからねー。
でももう二度と俺は戦いたくねえ。
「はあ、まあ良い経験にはなったんだけど……瞑想で相手と戦うのって、お互いに極限まで集中してないとできないんじゃなかったっけ?」
「ガハハハハ! まあ、そこはハッタリの術でちょいと集中状態にしてやったのよ」
わあ悪どいお顔。
元の顔が完全に熊だからなおさらアレだ。
そして師匠が万能すぎて困る。
術で集中状態にするとか怖いっつーの。
「……でも、どうしていきなりこんなことを? そりゃ俺はまだ身につけた動きや術を使いこなせてはいないけど、ちょっと急でない?」
師匠達の教育方針にケチをつけるつもりはないけどね。
「それは私から説明しておこう」
これまで黙っていたかこさんが唐突に話し始めた。
……まだいたんだ。
全然気づかなかった。
「む、そうか。なら任せるとしようかの」
そういって走り去っていくおっちゃん。
何か急な用事でもあったのかもしれない。
さっきも俺がもたもたしているとき、少しイラついていたし。
悪いことしたかな?
まあいっか。
……どーでもいいけど、ここって結構見晴らしの良い草原なんだよね。何処かは知らないけど。
なのにおっちゃんが走り始めてから十秒、すでにおっちゃんの姿が見えないのは一体どういうことなのであるか?
足速すぎだろ? いくらなんでも。
……ほんと、どういう体の構造してるんだか。
「で、何でこんなことになったのさ? つーか、結局お前誰だよ?」
「さっき名乗っただろう。私は『火虎』だ。……名前については、名乗らない。そういうきまりなんだ。呼び方は好きにしろ」
ふーん。
変わったきまりだね。
いやでも、仏教なんかも出家したら名前を変える、って聞いたことあるし似たようなもんか。
……詳しくは知らないけど。
「ところで求道者の人。戦ってたときとだいぶ雰囲気が、というかしゃべり方が違うけど、どうしたんだ?」
あのときは完全に言動がバトルジャンキーだったと思うんだけど。
「それは……そうだな。恥ずかしいことに、私は戦いになってしまうと自分の感情の昂りを抑えられなくなるんだ」
「なるへそなるへそ。じゃー次の質問。“カコ”って二つ名だろ? やっぱ強いの?」
「……あらゆる武術を用いて数多の妖怪を倒し、封印するものにつけられる二つ名が『火虎』。初代のはその攻撃の激しさからつけられ、それ以来、この二つ名は陰陽術を使わずして妖怪をなぎ倒すものに継承されている。そして、私はその二つ名を継承する第83代目の『火虎』だ」
「ほむほむ。なんか凄そうだね。じゃあ次の質問─────」
この人がなんだか強いのは分かったけど、ドヤ顔で言われてムカついたから流す。
……あ。
ちょっと眉がピクってなった。
「─────待て。これ以上質問を受けていては日が暮れる。その前にお前にあの戦いの理由を伝えなければいけないのだ」
「あー、そういえばそうだったね。で、何だったんだ?アレ」
「やや本格的な戦闘訓練だ。これから始まるお前の特訓に備えてな。……どうして俺を借り出したのか小一時間ほど問い詰めたいが」
「……ん? どゆこと?」
さっぱり意味が分からん。
あと後半、俺に愚痴られても困る。
「これからお前─────龍之介は特別特訓を行うんだ!」
「な、なんだってーー⁉」
一応ノッたけど、意味が分からないのは変わらず。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
で、10分ほど求道者の人と質疑応答した結果、やっと意味がわかった。
俺は、いつも修行を行なっているこの場所から、自力で都に帰り着かないといけないらしい。
しかも、帰る前にあることをしなきゃいけないんだとさ。
それは─────とある妖怪の討伐。
ただでさえ方向音痴な俺が、大して強いわけでもないのに、妖怪を討伐して帰るとか無理だ。
と、拒否したいところだけど、俺にこの特訓をやらせることを提案したであろう師匠とおっちゃんはいない。
求道者の人はさっきのセリフから考えて多分、師匠達のあれこれに巻き込まれてるだけ。
だから、拒否はできない。
というか、求道者の人も俺にもう質問がないと分かるとさっさと何処かへ行った。
……はあ。
なんだろう、この虚しさ。
もういい。
今日はもう寝る。
夜に行動するなんて自殺行為だから。
一定範囲内に何かが入ると俺の頭に警報を鳴らす紙の式神をセットし、木に寄りかかって寝る。
俺の力じゃ霊力を全て注いでも精々五メートルぐらいしか警戒出来ないが、無いよりはマシだ。
師匠はどれくらい広げられるんだろう……ふぁあ。
眠い。
今日もグッスリ眠れそうだ。




