修行で死にかけた件について
どーも。
見事に痛みでぶっ倒れた俺こと、りゅーのすけです。
あの謎の儀式で、気絶した俺はそのまま朝まで眠っていたらしい。
ガラスの無い、木の枠で作られた窓から光が差し込む。
誰の部屋かは知らないけど、木張りの床に転がされていた。
よく寝違えなかったもんだ。
布をかけるぐらい、してくれたっていいだろうに。
っと、んなこたどうだっていいんだ。
体を起こして体を伸ばす。
すると案の定、体中からバキバキと音がなる。
「おい、小僧! 起きたか!」
突然、部屋の襖が開き、そこからおっちゃんが出てきた。
雨月だ。
「そんな大声出さなくても聞こえてるっつーの。……起きてるぜ〜、おっちゃん」
おっちゃん呼びは朝の静かな時間を邪魔された、ちょっとした意趣返しだ。
それがしっくりくるっていうのもあるけど。
「ハッタリが待っておる。早くせい。ワシは腹が減った!」
あっさり流された。
これが貫禄の違いという奴か、とか思っていたら何か違った。
おっちゃん。
胸張ってお腹空いたとか言うな。
子供にしか見えなくなってくるから。
いや、図体と顔は凶悪犯罪者そのものだけど。
というかクマだけど。
「って、どゆこと?」
ノリと勢いでうなづきかけていたけれど、話が全く見えない。
「うむ! せっかくだから飯もここで食べてくと良い!」
うん。
話はなんとなく分かったけど、答えが微妙にズレてないか、それ?
まあいっか。
師匠のところに行けば全部、分かるだろう。
推理物の主人公が推理を固めるための、最後の証拠を確認しに行くときの気持ちってこんなのなのか。
違うか。
つか、なんの話だよ。
自分で考えといてあれだけどさ。
◇◆◇◆
「ああ、そのことですか。そんな大したことじゃありません。召集が終わるまでここに住むだけですよ」
おっちゃんに連れて来られた先で師匠にさっきのことを聞くと、そんな答えが帰ってきた。
……朝ご飯の準備をしながら。
いや、別におかしいことじゃないけどさ。
師匠だって料理ぐらい、すると思うし。
だけど……こう、なんていうのかな。
割烹着をつけたちんまい師匠と顔も体もゴツイおっちゃんが並ぶと……犯罪臭がやばい。
色々と。
アリだな!
じゃなくて。
「いや、ここってどこだよ?」
「神祇省です。察しが悪いですね」
白いご飯を木のお椀に盛りながら、師匠が答える。
いや、これまでの情報だけで何を察しろと。
「えぇっ⁉ 神祇省って、そんな、人が泊まるような場所なのか⁉」
てっきり、政治的な建物か何かだと思っていた。
まさか、そんなホテル的な役割があったとは。
「そんなに驚くようなことでもないと思うがのう。神祇省のトップ連中にはここに住んでいる者も多いからの」
「はぇ? どーゆーこっちゃ? 何の話でありますんの?」
「何だハッタリ、お主さては説明をサボったな?」
「めんどくさいですからね。あなたの方が神祇省の説明に適任ですし、この場で教えてやったらどうですか?」
……ふむ。
二日連続で話に置いていかれた、か。
泣いていい?
「ワシも面倒くさいから後回しにしておこうかの。ほれ、小僧。飯じゃ」
なんてこったい。
フォローなしかよ。
んー、まあ、困ったらそのときに聞けばいいか。
食前の挨拶をしてご飯を食べる。
ラノベとかだと、ここで文化の違いが出てきたりするから、ちょっと不安だったんだけど。
大丈夫だったみたいだ。
おっちゃんや師匠も手を合わせていた。
……ただ、手の合わせ方が若干妙ではあったけど、異世界だから少しくらい違ってもおかしくない、か。
「あ、師匠っ。ご飯おかわり!」
「自分でやって下さい」
イエッサー。
師匠が完璧にオカンだったから、違和感がなかった。
反省反省。
次は殺されるかもしれないし。
冗談じゃなく。
「はふぅ。ごちそうさまであります!」
ビシッと敬礼する。深い意味はない。
師匠の料理はおいしかった。
「食ったか。──よし、鍛えるとするかの!」
ファッ⁉
雨月さん、それどーゆーことですか⁉
筋トレ? 筋トレやらされるのか、俺?
ちょ、あの、アレだアレ。
……優しく、してね?
じゃねーよ。
もうダメだ。
自分でも何を考えてるのかよくわからなくなってきた。
「死なない程度に加減はして下さいね。手抜きをする必要もありませんが」
「ふん、一人も弟子をとったことのないお主に言われたくないのう。大体、師匠やっとるくせに他人に教えることを押し付けるというのはどうなんだ?」
「こういう暑苦しいタイプの訓練はあなたの方が得意でしょう? 私は術を教えるから、いいんですよ」
「減らず口ばかり叩きおって。──ほら小僧、行くぞ! ぼけっとするな!」
「ア、アイアイサー?」
うう、筋トレだったらどうしよう。
万年帰宅部キャプテンだった人なんだけど、俺。
……あれ?
いやでも、俺は一回死んだから、この体はあの運動不足な体じゃないよな。
うーん。
もしかして、いけるかな?
今から鍛えれば、憧れのムキムキボデーになれるかもしれないな。
この体が成長期でありますように。
「話を聞け!」
「おうふっ」
考え事をしていたら、いきなりげんこつ喰らいました。
や、唯の自業自得だけどね。
しっかし、これは、うん。
俺にも運動の才能的な何かがあるかもしれないな!
◇◆◇◆
と、思っていた時期が俺にもありました。
うう。
死ぬかと思った。
いや、ほんとうに。
修行はちゃんとこなしてたはずなのに、所々記憶がない。
頭が真っ白なまま修行していたみたいだ。
でも、習った覚えのない知識が頭の中にあるから、学習はしていたらしい。
けど、記憶がないというのは気持ちが悪いな。
……ちょっと整理してみるか!
朝ごはんを食べたあと、俺はおっちゃんに修行をつけてもらった。
基本の体力作りや、全身の筋トレに始まり、もう何のためにやってるのかよくわからないことまで、色々やらされた。
ぶっ倒れかけたら、おっちゃんに謎パワーを送り込まれ、喝をいれられる。
しかも、この謎パワーってのは体を動かす活力でしかないらしく、筋肉痛や息の乱れ、疲労が治るワケではない。
……言葉にすると結構耐えられそうだけど。
これ、常に限界の限界を超えた状態で筋トレやってるようなもの、というかまさにそれだ。
意識がないまま動いても、しょうがないと思う。
で、その地獄の筋トレが終わったあとは昼ごはんを食べて体感で三十分程休憩。
午後からは師匠の陰陽術講座だ。
こっちはこっちでかなりキツかった。
前世知識で数の概念やら字の意味なんかはなんとかなったが、そっから先がもう意味不明のなんのって。
しかも師匠は俺が異世界からの転移者だってことを知ってるから、俺がもう理解していることに気付いたら、すぐ先の内容を教えてきた。
陰陽術の基礎知識や、術の構成がうんたらかんたら。
内容がファンタジー過ぎてのみこむのに時間がかなり必要だった。
もう、そこから先は記憶がない。
気が付いたら昨日の朝起きた場所に転がっていた。
ただし、布団付きで。
ちょっとゴワゴワしてるし、綿も入っていない。
まあつまり、布だ。
ないよっかマシだから、言う程不満があるわけでもないけど。
というか、布団の感触なんかたった今知ったばっかりだし。
……うーん。
ちょっと愚痴っぽくなったけど、こんなもんか。
……はあ。
今日もまたあんなことするのかなあ。
師匠がスパルタ過ぎて泣けてくる。
おっちゃんもだけど。
……まあ、キチンと知識が頭に残っていて、筋肉痛もなく体に力がみなぎるこの感じ。
かなり凄腕の先生であることはわかる。
荒々し過ぎて軽く死ねるけど。
つーか、どういうことだってばよ、これ。
さすがにマッチョになってるなんてことはないけど、昨日に比べて体がかなり軽くなっている。
これが昨日の修行の成果なのか。
うーん、いや、でもなあ……。
一日でこんなに体が変わるか?
いや、そもそも。
これだけの知識と、肉体作りをたった一日で叩き込めるのか?
知恵熱も、筋肉痛もなく。
ファンタジーだから、って言ってしまえばそれまでなんだけど。
というか、もしそんなことができるんだったら修行中もやって欲しかった。
……。
…………。
分からんっ!!
んなもん知るかっ!!
考えるのはやめだ、やめ。
布団を適当に畳み、部屋の隅っこに置いておく。
とっとと昨日朝ごはんを食べた場所に行こう。
◇◆◇◆
「ほれさっさと食え、小僧」
昨日、ご飯を食べた場所に行くと、やはりそこにはご飯が出来ていた。
おっちゃんが割烹着を着け、料理をするという衝撃的な光景は無視して、とりあえずご飯を食べる。
お腹減ったし。
「いや、なんでおっちゃんがご飯作ってんの⁉ しかも美味しいし!」
うむ。
うまいでござる。
大事なことだから繰り返した。
「失礼な奴だのう。ワシだって料理の一つや二つはできるぞ?」
「いや、にしたって美味しすぎるだろ!」
「ワシは基本的に一人暮らしだからのう。自炊が不味かったら、修行をつけるやる気も、するやる気もなくなってしまうからの。……今日もこの後は修行をつけるから、よろしく頼むぞ」
あ、やっぱり?
今日も修行?
そりゃ、一日で終わるわけないよなー。
「了解でありんす。ところで、師匠はどこいったんだ? どこにもいないけど?」
「うんむ? ハッタリなら用事で今ここにはおらん。修行の始まる午後からは戻ってくるがの」
デスヨネー。
ちょっとでも午後の修行がなくなることを期待した俺がバカだった。
うぐぐ。
「まあ、仮に修行をつけられないとして、午後もワシが修行をつけるだけだがの。──サボリは許さんぞ?」
「わーってるよ。サボったらどんだけボコされるか、わかったもんじゃねえし。──って、あれ? また俺の心読まれてない?」
「ほー、その反応。読心を受けた経験があるようだの。ハッタリからか?」
「ええと、まあ、ハイ。そうですね。師匠から、割と読心は受けてたぜ?」
「ふんむ。なるほどなるほど。──ガッハッハッハッハ!」
「うわ! ちょ、どうしたんだよいきなり笑い出したりして!」
ご飯粒が飛んでくるじゃないか。
食事中に笑うなよ。
「いやあ、笑った笑った。全く、あいつにも困ったもんじゃのう。素直じゃないのにも程があるだろうに」
しばらくの間ご飯粒を撒き散らす災害となっていたおっちゃんが、また意味深長なことを言い出した。
だれだよ、あいつって。
どうしてこう、俺の周りには前世含めてこんなのばっか集まるんだよ。
「……はあ。もうやだ」
「ああ、そうだ。小僧。今日からは筋トレと並行して体術も教えるから、覚悟しておけ」
え、マジで?
体術って、体術だよな?
アチョー! チョトー!
ってなやつだよな?
──よっしゃ!
テンション上がってきたわ!
「はいはい、先生! 質問!」
おっちゃんが修行モードに入ったら先生と呼ぶことにしている。
特に深い意味はないけど、なんとなく。
つか、修行モードってなんだ。
「どうした?」
「体術って、アレですか、こう、はどーけ○! ってなやつですか! それともジャッキー的な方向ですか!」
我ながら、興奮しているとはいえ、説明が下手くそすぎる。
ジャッキー的な人も○どーけんモドキも、どっちも先生は知らねえだろうに。
「うむ、ジャッキー的な方向だぞ!」
なんとなく想像は出来てたけど、やっぱりこの人ノリがいいな。
分からないはずなのにちゃんと答えてくれた。
なんとなくの想像の根拠は特にない。勘だ。
……まあ、先生だしな。
「先生、俺、早く修行がしたいです!」
「うむ、修行熱心でいいことだ! そうと決まれば修行だの!」
余っていたご飯を胃に流し込み、昨日とは大違いのやる気でもって、先生の修行に臨んだ。
◇◆◇◆
今日の修行にはおっちゃんの宣言通り、体術の訓練が組み込まれていた。
ただ、当然、俺が待ち望んでいた体術の訓練も筋トレと負けず劣らずの厳しさだった。
やる気も吹っ飛びかけた。
というか、吹っ飛んだ。
しかも筋トレも並行してすることを完全に忘れてて、そのことに気付いたあとは、さらにモチベーションが下がった。
……まあ、俺の師匠と先生はそんなことお構いなしで無茶苦茶やってきたんだけど。
死にかけた。
……や、確かに昨日も死ぬかと思ったけど。
慣れるもんじゃない。
というか、死にかけることに慣れたら、色々とアウトな気がする。
今なら一昨日、師匠が死なない程度に、とか言っていた理由がよく分かる。
こんなの気をつけないと、死ぬわ。
……うう。
いつまで続くんだ、この修行。
だが幸い、今日は昨日の様に気が付いたら朝、なんてことはなかった。
一応、意識を保って、自分の足で部屋に戻ってきた。
……修行中の記憶が所々抜けてるのは一緒だけど。
……成長、なのかなあ。これ。
いやいや、そんなわけない。
一日二日で成長を実感出来るとか、凄過ぎて逆に怖いわ。
大体、成長してたらしてたで修行の密度がまた濃くなりそうで嫌だし。
ああ、もう!
知るかっ!!
そんなもん、師匠とか先生が考えときゃいいんだ。
修行のストレスからか、何故か少しイライラする。
……ええい、寝ろ、寝てしまえ!
何故か昨日よりも豪華になっている布団に寝転がる。
……いや、ほんとうに何でだよ。
さりげなく敷き布団が分厚く変わり、掛け布団の布は毛布になっている。
これはあれか。
修行のご褒美的なやつか。
そういえば、確かに、昨日は布団が追加されていたな。
……修行のご褒美が、布団かあ……。
……いや、いいけどさぁ……。
……何というか、しっくりこないというか……。
……あれ、これだけ? とか、言うつもりはないし、思ってもないけど。
「これだけかよぉぉおぉぉぉおおおぉおおおっ‼」
我ながら、思考が破綻している。
ついでにいえば、最低である。
これを準備してくれたのは師匠、もしくはおっちゃんの可能性が高く、また、何にせよ、自分以外の誰かであることは確かなのだ。
それに対して“これだけ”とは、誰かの親切を踏みにじっている。
「ぬわーー⁉」
加えていえば、そもそも修行とは体を鍛え、知恵を蓄えるもので、ご褒美を求めるものでもない。
「ウボァーー!」
とどめを刺すと、修行をつけてくれている師匠とおっちゃんにも失礼であろう。
「ひでぶっ!」
……はあ。
勢いでキレたけど、なんか一瞬で自分の冷静な声にやられたよ。
フルボッコだよ、フルボッコ。
キレた自分を冷静な部分の自分がフルボッコにする─────うん、言葉にすると意味不明だ。
まあいいや。
今のでだいぶストレス発散できたし。
元々、そこまでストレスを溜め込む様な性格でもない。
寝よう寝よう。
おやすっ─────
「こんな夜中にやかましいわアホ弟子ぃ!」
「みいぃぃぃ⁉ おっちゃんんんん⁉」
「なーにが “みぃぃ!” だアホぅ!」
「すみませんでしたーーーっ!」
そういえば今は夜なんだった。
完全に忘れてたぜっ!
とりあえず謝るんだ。
「って、弟子?」
おかしいな。
おっちゃんは俺のことを小僧って呼ぶはずだけど。
「おう、そうだ。まあ、今夜からお前のことは弟子と呼んでやろうと思ってな」
おっ、いい感じに話が逸れたぞ。
このまま怒りを沈静化させれば、何事もなく寝られるか?
「そりゃどういう心境の変化ですかい? ──って、あれ? それなら、今度からは常におっちゃんのことは先生で呼ばないといけないのか?」
うーん。
何となくだけど、嫌だなあ。
修行のときじゃないと違和感がありそうだ。
「いや、好きな方で呼ぶと良い。ただし、修行のときにはキチンと先生で呼べ」
「おお、そりゃあ有難いべ。……んじゃ、夜も遅いし、おっちゃんおやすみー!」
よしよし、誤魔化せたかな?
「待て……そんな誤魔化しがワシに効くと思われるとは、舐められたもんだのう。こりゃあ、説教要素は追加かの?」
あれ、風向き怪しくない?
「ハッハッハッハ。そんなこと、思ってるわけないじゃないですかーやだなーところで先生様、お疲れではありませんかそうですよね疲れてますよねそんな状態で説教は辛いでしょうから明日に延期しません? っていうかしてくださいお願いしますーー!」
お願いしますーー!
「いやあ、今日は力が有り余っとるでのう。申し出は有難いが、今日のうちに済ませておくことにするぞ」
ダメだった。
「デスヨネー」
どうやら俺はまだまだ眠れないらしい。




