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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
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28 リノタイガー

 ディーノ達が目的地へと到着すると、そこにいたリノタイガーは牧草地を駆け回り、家畜である牛を集団で襲って食事を始めるところだった。

 ひとまず牛を食べた後であれば体が重くなるだろうと、少し高くなった岩場に座って様子を見る。

 持ってきた水筒からお茶を飲みながらしばらく待つ。


「食べてるところを襲った方が効率的じゃない?」


「いいや、食事の邪魔をされるとどのモンスターも大概は怒るからな。食後でこっちを人間と侮ってるところを挑んだ方が安全だろ」


「んー、よく考えたらリノタイガーって私も危ないような……」


 今回五体討伐となる為、AA級クエストではあるのだが、リノタイガー一体でもBB級のモンスターだ。

 これに一人で挑むのであれば、A級40のステータスは最低でも必要だろう。


「とりあえずはオレが三体倒すから、あとは一体ずつ二人に相手してもらおうか。基本的には凶暴なだけで防御力は低いモンスターだから倒すだけなら難しくないよ」


 サラリと三体を倒すと言い切るディーノの実力をアリスは知らない。


「えー、でも噛まれたら死ぬんじゃない?」


「うん。死ぬだろうから全部回避な。ソーニャは逃げ回って距離が開いたら急停止。タイガーが跳躍したらエアレイドで倒せばいい。やる前にギフトは渡すから大丈夫だ」


「わかった!頑張る!」


 そしてタイガー相手に自信がなさそうなソーニャに対しても戦闘方法の指示を出し、言われたソーニャもやる気を見せている。


「アリスは風の防壁な。タイガーの動き見てれば大丈夫だとは思うけど、絶対に目を閉じたりするなよ?ガブッとやられるからな」


「ほ、本気でやるの?ガブッてされたくない……」


「大丈夫だ。ボアと違うとすれば切り返しが速いだけで、突進能力だけで見ればそんな変わらないから。あと体力もボアより無いな」


 そうだとするならアリスはひたすら風の防壁による回避に徹する意外に方法はない。

 体力が尽きたところにトドメを刺せば確実だ。


「うぅぅぅぅん。がが頑張ってみる……」と返すアリスの目からは涙がこぼれ落ちる。

 そんなに怖しいのかと疑問に思うディーノだが、やはり後衛職であればモンスターに襲われる経験がない事から怖ろしくも感じるだろう。


「アリスにもギフト渡すから安心しろ。今の防壁よりかなり強度上がるから。な、大丈夫だって。ソーニャの方が危ないから。アリスの方が安全。ソーニャの方がアリスよりずっと危険なんだから。な、わかったか?」


 昨日、ディーノのギフトについてはアリスにも説明している為、アリスがギフトを渡すと言われれば魔力を受け取る事ができるのだとわかる。


「う、うん……わかった」


「私だけすっごく不安になったけど!?」


 ディーノの励ましにより、風の防壁が使えるアリスとディーノは安全であり、ソーニャだけが危険な事が判明した。




 あまり見て気分のいい光景ではなかったが、リノタイガーの食事が終わり、ディーノはソーニャの前で初めて属性剣ユニオンを使用する。

 凛とした硬度の高い金属音を響かせ、ディーノは走り出す瞬間に爆風を生み出して駆け出した。

 アリスの理解を超える速さでリノタイガーへと距離を詰めたディーノは、ギフトを発動した瞬間にタイガーの背後へと吹き抜ける。

 そう、まさに風のようにディーノは吹き抜ける。

 ゴトリと一体の首が地面に落ち、何が起こったかもわからないリノタイガーが、仲間の血が広がるのを見てようやく敵が現れた事を知る。

 着地したディーノに向かって吠えるタイガー。

 しかし食後に横たえた体を起こした直後にディーノの姿を見失う。

 どこだとばかりに首を後ろに振り向くと、自身の視界が反転し、タイガーの首が落ちる。

 二体目もあまりの一瞬の出来事に、理解が追いつかないままその命を失った。

 ディーノが倒すのはもう一体。

 三体が同時に飛び掛かり、ディーノが風の防壁を広げる事によって三体を同時に弾き飛ばす。

 ギフトにより上昇した魔力で風の防壁を使用すれば、それ程大型ではないリノタイガー程度のモンスターであれば弾き飛ばす事も可能なようだ。


 そして体勢を崩し、着地動作に入ろうとする一体に接近して、首を刎ねる事でディーノの分の討伐を終える。

 ここで怯えて逃げ出せばタイガーも生き延びる事はできるかもしれないのだが、逃げ出さずに襲い掛かって来るのがモンスターである。

 一体の攻撃を躱し、次の一体を再び防壁を広げて弾き飛ばす。


「次はソーニャ!アリスもこっちに来い!」


 ディーノに呼ばれて嬉しそうに駆け出すソーニャはさすがシーフだけあり、アリスでは追う事ができない。

 ほんの数瞬わずかな時間でディーノの元へと到着したソーニャに、ディーノは自身のギフトを解いて俊敏ステータスを贈る。


「もういい!?行くよ!?」


「よし、頑張れ」


 ディーノにヨシとされて「ヒャッホー!」と駆け出したソーニャはタイガーの一体にダガーを突き刺してから逃げて行く。

 その痛みからソーニャを追うタイガーは全速力で走ってようやく引き離されない程度まで加速する。

 それ程距離が開かなかった事からソーニャは右へ左へとフェイントを入れ、岩を軽く飛び越えてはその陰へと隠れて、頭上を飛び越えて行くタイガーをやり過ごす。

 再び駆け出したソーニャと切り返して走り出すタイガー。

 充分な距離が開いたところで急停止からのエアレイド。

 完璧な距離とタイミング。

 タイガーはこの一瞬の接近に反応すらできない。

 しかしソーニャはダガーを突き立てずに、左手を使ってタイガーの頭を押さえて飛び越えた。


「ディーノ!私、やれるから練習してていい!?」


「無理はすんなよ」


 ディーノの許可を得たソーニャはまた嬉しそうに「ウニャー!」と叫びながら走り出す。




 その間もう一体のタイガーを抑えていたディーノ。

 風の防壁をタイガーの動きに合わせて発動する事で弾き続けていた。


「じゃあアリスも逝ってみるか」


「なんか不安な言い方に聞こえる!」


 リノタイガーをタイミングよく弾き飛ばしたディーノは、アリスの肩に手を置いて魔力を贈る。

 この時、ディーノはわかっていないのだが、渡すのは魔力の総量ではなく出力だ。

 単純にアリスの魔法出力が増加する。

 しかしここでディーノも試したい事があり、爆風を放ってタイガーへと接近し、跳ね飛ばそうと防壁を広げる。

 ディーノの予想通り魔力を贈った為か、タイガーは後方に押し戻されるものの飛ばされる事はない。

 魔力が半分になるだけでここまで違うのかと思いつつも、アリスへとタイガーを明け渡す。

 アリスは少し離れた位置からフレイムを放ち、特大の炎に手の痛みを感じながらも風の防壁を展開。

 タイガーが襲い掛かるもアリスの防壁に阻まれて横に流され、アリスはスッと体を引く事でタイガーを回避。

 振り返ったタイガーはまた襲い来るも同じように回避する。

 ディーノのようにタイガーを弾き飛ばすような事はできないが、ソーニャよりも安全だと言う意味がよくわかった。

 今はディーノのギフトを与えられているのだが、今後訓練を続けていけば自分の魔力だけでもこれだけの、いや、これ以上の防壁を展開できるようになるだろう。

 自身への新たな可能性が見えた事により、アリスは不安よりも楽しさと期待で胸がいっぱいになった。


 二人はしばらくタイガーとの追いかけっこを続け、動きが鈍くなったところでソーニャは首をを斬り裂き、アリスは少し離れた位置からフレイムを射出して討伐した。

 ギフトを受けている為、普段よりも魔力を抑えての火炎球となったが。




 ◇◇◇




 討伐を終えてモミュール領で宿を取る事にし、近くの酒場で食事中。


「ディーノありがとう。今日一日で私は大きく成長したと思うの。これからはもっと戦いの幅が広がると思うわ」


 アリスはそう言って笑顔を向ける。

 しかしディーノから見たアリスには大きな課題がある。


「うん、ただな。アリスには近接でも戦えるように何か攻撃手段を考えないとだめだろうな」


 やはり回避だけできるようになったとしても攻撃をしなければモンスターを倒せない。

 今日の戦い方ではモンスターの体力が尽きるまで回避し続け、動けなくなったところに普段の火炎魔法を放つ。

 これでは効率が悪く、複数を相手にした場合には通用しない。


「そ、それは……だってモンスターに触るとか怖いし」


 誰でもモンスターに直接触れるのには恐怖を感じるだろう。

 ディーノやソーニャでさえ武器を持たずにモンスターに手を触れようとは思わない。


「じゃあ武器買えば?ディーノみたいに属性武器なら魔法スキルも使えるんでしょ?」


「んん……お金は貯めてるけど属性武器買う程は持ってないのよね。このリングも結構高かったし」


 属性武器の何を買うかにもよるのだが、最低でも白金貨三枚は必要となる。

 属性リングは属性武器より安く買う事ができるのだが、それでも大金貨八枚とAA級クエスト報酬並みの金額だ。


「まあ、今すぐ買えないとしても武器を考えておくのもいいかもな」


 武器を買うとしても元々魔法スキルのみで戦ってきたアリスだ。

 普段持ち歩いているロッドもほぼ杖としてしか使っておらず、多少は新人の頃に棒術を習ってはいるものの戦いに利用した事は一度もない。

 武器と言われても全くが想像が付かないアリスだった。

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