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オルゴールと銀の弾丸  作者: 緑野くま
第四章 狂騒闇夜 …そして
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第二十三話 月明りと共に

「やっぱ寒いなー。咲子ちゃんは大丈夫?」

隣にいた夏美さんが、そう尋ねてきた。今私達は任務の為、街へと赴いていた。それも、夜遅くにである。

確かに寒いと言われれば寒い。防寒の為のグローブやマフラーを渡されたのだが、身に着けていて正解だった。少しはマシになるだろう。

だが、戦いのときに若干の支障は出るだろう。動きが遅くなる分注意を払わなければならない。

そう思いながら私が水筒の中のお茶を飲んでいた、時だった。突然背後から声をかけられた。

「あの…君、倉岡咲子だよね?」

物腰の柔らかそうな男性だった。私よりは年上だろうか…。もっと分かりやすく言えば、夏美さんと同じ年位だ。

私が変な目で見てしまったからか、その男性は少し慌てた様な感じになっていた。すると、夏美さんが来た。

「あれ、一樹(かずき)?何してんの?」

「あ、この前君が話してくれた人と…。」

「ああ、咲子ちゃんの事?確かにその子がそうだけど。」

と、夏美さんはそう言った後、私の方を向いた。そして改めて、この男性の事について紹介してくれた。

霧谷(きりたに)一樹。夏美さんの同級生であり、同期の隊員でもあるという。

「夏美が、君の事をよく話してくれているんだ。そういえば…記憶喪失、だったっけ?」

「はい。少しずつ思い出してはきているんですが、まだ本質の様なものはつかめていないんです。」

私がそう言うと、一樹さんは「成程。」と一言言ってから、再び話し始めた。

「要は、細かい所だけが、点々と浮かんできているって事かい?」

「その通りです。」

「核心的な所をつく…か。何かショックが大きい様な出来事だったり、記憶と大いに関係のある夢を見るか…そういった事があれば、咲子の知りたいところが出てくるんじゃないかな?」

一樹さんの口から出てきたのは、そんなものだった。確かに…病院で最初に見た夢も、かなり重要性の高いものだった。あれで私は、自分が何故記憶を失ったのかを知れた…少しだけ。ならば、もう少し探ってみた方がいいのだろうか。『Succubus』辺りならば、何か知っているのかもしれない。

その時、声がした。少年の声だ。夏美さんのものではない事は確かである。だが、かといって一樹さんのものでも無かった。…ん?ということは。

私は腰に下げていたホルダーから、黄色の歯車を取り出した。どうやら声の主は彼の様だ。

「『Unicorn』か。何の用だ?」

『話の途中で本当にすいません…。でも、僕からも話が。』

何だろう。記憶を取り戻すのに効果的なものだろうか。それだったらいいんだが。

しかし、『Unicorn』が告げたのは、私の期待とは外れたものだった。

『今夜は危険です。戦闘になったら…どうか、死なない様に。』

…期待とは外れてはいたが、奇妙なものだった。私が訊く前に、夏美さんが先に口を開いた。

「どういう事なの?ゲームに出てくる、その…いわゆるボスみたいなのが出てくるって事?」

夏美さんの質問に対し、『Unicorn』は『うーん…。』と悩むような声を発した。だが直後、答えが返ってきた。それも、これまた奇妙なものが。

『あえて言うなら…今夜が、満月だからです。』

私と夏美さんと一樹さんは、全く同時に顔を見合わせた。


待機が終わり、街へと向かっている間、私は空を見た。見ようと思っていた訳ではなかったが、無意識に上を見上げていた。月が眩い光を放っている。

つい先程の『Unicorn』の言葉…アレは一体どういう意味なのだろう?訳が分からない。

そんな事を考えていた時、誰かの背中にぶつかってしまった。よく前を見ていなかったからだ。私はぶつかった人物の顔を見てギョッとした。

「う…上野(うえの)隊長!?」

相手はよりにもよって、今回の作戦の隊長である、上野(げん)だった。気まずい。しばらく目線を合わせる事が出来なかった。口すら開かなかった。

だが、ありがたいことに、上野隊長から話しかけてきた。

「大丈夫か?」

「あ…はい…その、先程はすみませんでした。」

「いや、いいよ。俺は何ともねぇから。それよりお前、顔色悪いぞ。何かあったか?」

考えていることがまた顔に出ていたか…。思えばそんな事が多かった様な気がする。

とにかく、私は全て話した。上野隊長は表情を変えず、ただただ頷いていた。

そしてその後、口を開く。

「異界の奴が言ってるって事は…単なるはったりでもなさそうだな。」

「根本的な所がどうも分からないんです。後は…敵の様子でも見た方が…。」

と、私が言いかけた時、他の隊員の「来たぞ!!」と言う声が聴こえた。

獣が二足歩行で歩いていた。何だろう、この見た目。何処かで見たことある様な気が…。

「ぎゃあああッ!?」

突然の絶叫。振り返ると、一人の隊員が血を流して倒れていた。そしてそこには、目の前にいたはずの獣がいた。鋭く尖った爪が血で濡れている。

(そんな…馬鹿な…。あの一瞬で…!?)

と考えていた矢先、今度は別の隊員が襲われた。

私は隙を見て、発砲した。だが、全て見切ったかの様に、獣は俊敏な動きで避ける。

「全員気を抜くな!!」

上野隊長の声がこだまする。その声が終わったと同時に、全員が獣に攻撃した。

だが、獣の方も劣ってはいない。避けた直後に反撃してくる。

だが負けてはいられない。こちらも全力で戦闘した結果…数時間後にようやく討伐したのである。


隊員は全員満身創痍だった。ぐったりと、荒い呼吸を繰り返していた。

それは私も同じだった。頭がフラフラしていた。だが、その時に救いの手が出た。『Unicorn』が、あの塗り薬を出してくれたのだ。隊員の傷がどんどんと癒える。

「すまないな。また助けられた。」

『大丈夫ですよ。…って、そんな事より、もう分かりましたよね?』

「ああ、充分過ぎる位にな。」

私がそう言うと、『Unicorn』は、あの言葉の核心をついた。

『僕が言いたかったのは…月光の力によって強化されたモンスターが、出てくる可能性が高いって事なんです。』

「成程な…。で、誰の手下なんだ?」

私がそう訊いてみると、『Unicorn』は即答した。

『『Werewolf』…です。正直言うと、あの人は強いです。』

「もうこの世界に紛れ込んでいそうだな。」

その次に、私の口から出たのは、大きなため息だった。

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