第二十二話 後半戦、開幕
始めて歯車を手にしたあの時、気が付いたら、冬だった。
この街では、雪は降らない。だが、肌を突き刺す様な冷たい風が吹いているとなると、誰もが「ああ、もうこんな季節なのか。」と納得する。
私は自分の部屋のベッドの上で寝っ転がっていた。その時にベッドの近くにあるデジタル時計に目をやる。そこには、『1月19日』と表記してあった。
(そうか…もう新年なのか。それに今年で中学三年とはな…。)
ふと、そう思っていた。その時私は、『ギア』に入った頃の事を思い出していた。
確かその時私は、「せめて今年が終わるまでに記憶を取り戻したい。」と言っていたような気がする。無理な事だとは薄々感じていたが、実際そうだった。
だが確かその時叔父に、「あんまり焦り過ぎるなよ。」と言われていた…多分。
まあ私は、いつか自分の記憶を取り戻し、なおかつこの街に平穏が訪れるならば、それでいい。
だが、不思議な事が起こっていた。歯車を手に入れるたびに、外に出現するモンスターの数が減っていたのだ。一体何故?
…悩んでいてもしょうがない。こういう時は知っている奴に訊くのが一番だ。
私は起き上がり、机に置いてあったホルダーを取った。その後になって、私は誰に訊こうか一瞬迷った。考えていた、その時。
『何よ咲子。取ったはいいけどその後硬直するなんて。意味分かんないわ。』
声を出したのは『Elf』だった。久しぶりに聴く声だ。ここの所話し相手になっていられなかった様な気がしたので、私は『Elf』に訊くことにした。
私が事情を説明すると、『Elf』は開口一番にこう言った。
『まあ簡単な話…そいつらの指揮を執っている私達が、封印されたからね。』
「つまり…私達がお前達を封印したのを知って…降伏した?」
『そうなるでしょうね。リーダーである私達が倒されてしまった以上、手の出しようが無くなったんだわ。』
「だが、まだ残っているという事は…あと四つの歯車が封印できていない証拠だな。」
『そうね。あ…でも。』
『Elf』の話が途切れた。一体何を思い出したのだろう?そう思った矢先、『Elf』は『ごめんなさいね。』と前置きして話を再開した。
『二人だけ、この街に手下共を送り付けていないのがいるの。』
「えっ!?」
驚きのあまり、私の口から短く大きな声が出た。私はその後、『Elf』の話を聴き続ける。
『ちょっと…どころじゃないな。ややこしい話になるんだけど、まず一人は『Angel』よ。』
「白の歯車か?」
『そうよ。んで、理由なんだけど…。』
『Elf』は少しの間だけ、一言も発さなかった。だが、その直後に、こう言ったのだ。
『数年前位かしら…。行方が分からなくなったの。』
「え…それは…どういう…。」
『理由は何となくだけど分かるわ。まあでもそれは後で話す。で、もう一人は何っていうと、『Vampire』なのよ。』
もう一人、『Vampire』…。何だか意外だった。何かの創作物を読んだときに、その中に出てきた、いわゆる吸血鬼類のものは猛者として現れるようなイメージが強かった。何故そんな力のある者が手下を送り付けていない?尋ねる前に『Elf』が答えた。
『なんかねぇ、『Angel』と『Vampire』…仲が良かったのよ。話が合うんだか、何というか…。そこらへんは分かんないけどね。』
「意外な組み合わせだな。光の使いと闇の眷属が…そんなにも仲がいいとは。」
『まあ、あんたらはそう思うでしょうね。でも実際こっちの世界じゃ普通なのよ。そういう交流って。』
ああ成程そうですか…とは言いにくかったが、そちらの世界に住んでいた者の言葉なのだから、きっとそうなのだろう。『Elf』はその後、私が訊こうとしていたことを話した。
『で、これも数年前の話なんだけど…『Angel』の行方が分からなくなって、『Vampire』の奴、必死になって探し始めたのよ。まあ何せ、歯車の幻獣の一つが欠けるなんて大事が今まで無かったもんだからねぇ…。』
「でも結局また、そちら側の戦力が更に欠ける事となったんだろう?」
『いや、そうでも無かったわよ。あいつ、定期的に戻ってきてたんだから。』
「だが、今回のこの騒動に乗って、『Vampire』は部下も出さずに『Angel』の捜索に出た…。という事か?」
私がそう問うと、『Elf』は『そうそう。』と答えた。どうやら本当の事らしい。すると『Elf』は思い出した様に話をした。
『あ…『Angel』のいなくなった理由なんだけど…。』
「?」
『多分…『Devil』が関わっているんじゃないかって話が出てるわ。いや多分じゃなくてもあいつの事だし絶対関係あると思うけどね。』
『Devil』…。私はその言葉を思い出す。黒の歯車…だったか。
「そいつが何かしたのか?」
『あー…、何かした…って言っても、いつもの事なのよねぇ。』
「…どういう意味だ?」
『問題児なのよ。どういう訳かは分かんないけど、すぐ色んな奴らに突っかかっていくっていうか。そんな感じ。あ、ちなみに私も被害者よ。』
「被害者って…。まあいい。とりあえず、そいつが『Angel』失踪に関わっているんだな。でも…一体何故?」
『それが分かれば苦労しないわよ…。』
『Elf』の落胆した様な声がした後、部屋は静寂に包まれた。誰も分からないものなのだろうか。もしかしたら、話に出てきた『Vampire』あたりが有力な情報やら何やら持っているかもしれない。だが今のところ、歯車の幻獣が出没したという情報は聴かない。
とりあえず、チャンスを待つしかない。それしかもう、私に方法はないのだから。
窓の外を見た。冷たい様な風が、吹いていた。




