第1話【マンドラゴラってどんな味?】
ファンタジー食材を"地球の味"で例える異世界転生です。
未知の味だ! とかよりも視聴者と一緒に食べて
こんな味か、って共感するお話です。
そこから異世界人を求める魔族と出会って~と進みます。
よろしくお願いいたします。
【オーク肉とジャガイモのマンドラゴラ炒め】
白ローブ姿の小柄な金髪女僧侶と、赤髪の長身女戦士。
客の前へ料理を乗せた木皿を置くと、二人は木製フォークでひと口運ぶ。
【同時接続者数20,000,000】
舌に料理が乗った瞬間、二人の目が大きく開く!
「ウマアアアッ!!」
「なんと濃い味だ! 醤油で焼いた肉と比較にならないほど美味い!」
「ウマアアアッ!!」
「シャキシャキしたジャガイモとマンドラゴラの食感が小気味良い!」
「ウマアアアッ!!」
「さらに爽やかさがオーク肉の油っこさを感じさせず、いくらでも食べれるぞ!」
『金髪ww』『語彙ぶっこわれてんぞ!』『目光ってて吹いた』
金と赤の感想のデンプシーロールに、視界右端に映るコメント欄が加速する。
「なるほど、マンドラゴラは丸揚げしないのか」
「センパアアアアアッ!! これはとてつもなく美味です――」
「コウハ!?」
二人の身長が逆転していた。
少女の身体が一気に伸び、筋肉が爆発的に膨れ上がる。もはや戦闘民族だ。
両腕の布が破け、黄金の後光が差している。
「タンスイさんこの人凄いことになってますよっ!」
タンスイの周囲を飛ぶ親指ほどの魔力球――妖精。
真ん丸な身体に小さな手足と翅を持つ妖精達。目も口もないのに喋る彼らは、異世界配信の視聴者の一部だ。
「モグモグモグ――そう! マンドラゴラは根が【生姜】葉が【大葉】汁が【酢】の万能サッパリ調味料! 千切りにするとシャキシャキ感が出るし肉の脂をさっぱり流してくれて濃い醤油味とも相性抜群でフォークが全然止まらないんですよねえッ!!」
「聞いてねぇっ!」
『そして発作が……』『草』『まぁつまり生姜焼きってことよ』
「あ、本日参考にしたのは料理研究家Vtuber飯芽メシアさんのレシピです、皆さんもよかったらどうぞ!」
誰でもない、空間に向かって喋るタンスイに、客は頭上に疑問符を浮かべた。
【マンドラゴラは万能サッパリ調味料でした!】
『お料理TIPS』
【マンドラゴラ】――ハニワみたいな三つ穴の顔がある茶色の丸い根菜。
マンドラゴラを千切りにし、ジャガイモも同様に刻む。
油でマンドラゴラを炒めて香りを立たせ、オーク肉、ジャガイモの順に投入。
塩、醤油、ぶん殴って出たマンドラ汁で味を調え、最後に葉を絡めて完成。
「根菜を殴って口の穴から出た唾液って、いつ見てもキモいんですが……」
「この頭に茂った卵型の青葉も最高なんだよなぁ~」
『無視すな』『どんな構造してんだよマジでww』
***
地下に広がる巨大空洞――ダンジョン。
その周囲に発展したレンガ積みの街、ダンジョン街イモモ。
最近、探索者ギルドが導入した自由屋台エリアは連日賑わっていた。
自由屋台エリアは街の大広場に作られ、調理と食事ができる屋台が多数並ぶ。
別途飲食スペースもあるので憩いの場としても使われている――のだが。
並ぶのは芋の丸揚げばかりだ。
生産ダンジョン産の食材は、それだけで十分美味い。
『風呂もトイレもあるのにな』
『芋を丸揚げするだけで絶品でしかも完全栄養食笑』
『謎すぎる』
***
「ドラゴンがダンジョンに!?」
異世界歴21年の男――タンスイは、茶髪に布と革の軽装を纏う探索者兼配信者。
赤髪の長身【センパ】、金髪の超・長身【コウハ】と自己紹介を済ませ、三人は飲食スペースの椅子に座り、テーブルを囲み顔を向かい合わせドラゴンの話題に入る。
タンスイは、この異世界でドラゴンの肉を求めていた。
「数百年ぶりのドラゴン……といっても挑戦にはランクがいるわけだが」
「私達には無縁でしょうか」
三人は肩を落とす。
ダンジョンの進入にはランク制限があり、探索者であろうと好き勝手入れない。
先日偶然記憶を取り戻したのは幸運なのか、不幸なのか。
「そういえば二人の天技って?」
「私は【飯バフ】で、センパは【索敵】なんですけど――」
「コウハ、あんまり人前で言うことじゃないぞ」
「え、あぁすみません! 私ったら何を」
あまりの覚醒ぶりについ気になって訊いてしまったが、能力は大勢がいる前で言うものではなく、つい訊いてしまったタンスイも謝罪した。
二人は立ち上がり、タンスイは餞別に空間に開けた小さな穴から白い紙を取り出し、作り方を書いて渡す。
「マンドラゴラ炒めの作り方か! 恩に着る」
「このお礼はいつか必ず返します。私の全てを使って」
コウハは両手でタンスイの手を握り握力で潰しかける。
続いて妖精達と握手をするが、あまりの強さに小さな手が潰れてしまった。
***
ダンジョン街イモモの宿、木造の部屋と白いベッドの上でタンスイは寝転がり妖精と会話していた。
「ドラゴンの肉、食べてみたいよな。君はどう思う? ええと……」
「私の名前は■■■――あっ」
『おい』『全員妖精で統一だから』『売名はアウトですよ』
妖精化は一時間ごと、抽選で十名の【視聴者が異世界に行ける唯一の手段】。
趣旨に反し、逸脱した行動をすると【異世界配信】から追放され二度と視聴できなくなってしまう。
例えどれだけのアカウントを作ろうと無意味、これはそういう力だ。
「とりあえずドラゴンダンジョン侵入してみませんか?」
「犯罪行為は駄目だから!」
コンコン。
木製の扉から音がした。
【同時接続者数 20,000,000】
【魔力供給】
【90%】
魔力を纏って扉を開けると、廊下に誰か立っていた。
肩から膝下までを覆う外套、フードを深く被っていて非常に怪しい人物がいるが。
【今のタンスイは、いかなる攻撃も受け付けない。】
その余裕から対峙して誰かと尋ねてみたが。
相手はフードを外し、外套を開き、そのまま抱きついてきた。
そして、突然唇が重なった。
若い褐色肌の、仄かに甘い香りと胸部に当たる柔らかい感触。
呆気に取られるタンスイとは対照的に、女性の目は見開かれていた。
口が離れ息がかかり、尚も女性は男の目を見ている。
顔が離れ黒いショートウルフヘアと半目で妖艶な眼差しを向け、口を開く。
【命令、オレ達の奴隷になれ】
「――なんて?」
「ガハッ!?」
――何を言っているんだ、この女性は?
麗人に地球人でも異世界人でも史上初の唇を奪われたが、そんなことよりも。
――何これ?
女性は口元を手で押さえ、殺人現場でも見たかのような目つきになり数歩引いた。
廊下の階段から軋む音が鳴り、女性の声が響く。
「ねぇパーン、異世界人いたー? ……ってうお!?」
『うおやめてね』『草』『だ、誰?』
『初見です、今来たんですがどういう状況なんですか?』
――こっちが訊きてぇよ。
"エルフ"が見たのは、両手両膝を床につけた友人の姿と、燃え盛る炎のように立ち上った黄緑色の"異世界の" 魔力を帯びた男の姿だった。
読んでいただきありがとうございます。
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