第二百九十六巻目 存在しない過去の人
「信長君、もしかしたら答えにくいことを聞くかもしれないけどいいかな?」
「いいよ」
「信長君は、正直な話この時代の人間じゃないだろ?」
「……」
「なんだったら、僕らなんか形も存在しない、君から見てもこの時代が来ることすらわからない超昔から来たんじゃないのかい?」
「…………」
「まぁ、無言になっちゃうよね。そりゃそうだよ」
確かに、俺はこの時代には本来存在しない人間だ。ぶっちゃけた話、2010年代の人間に言わせれば安土桃山時代の人間だ。もちろん、それはのちの学者が名付けた時代だから俺にとって愛着はないけれども、どちらにしても昔の人間であることには変わりない。
ただ、2010年やこの耳朶に慣れようと少しばかり頑張ってきたが、こうもあっさりと指摘されてしまうと、拍子抜けしてしまう。やはり、見る人が見れば分かってしまうのか?
「一つだけ、僕が知っていることを話すよ。君は織田信長。日本の歴史上において非常に重要な人物なはずだ」
「……そうらしいな……?」
「どうしたのかな?」
別に自分が重要な人物であるかどうかは正直疑問に思わない。ただ、こいつの言葉には何かおかしなことがある気がする。
「織田信長は本能寺で倒れ、その後死体どころか痕跡も残さずにどこかに消えてしまった。その生涯や、死因などがミステリアスな点が評価を受け、現代や過去において書籍や映像、コミカライズ化され、人々が当たり前のように知りうる人物のはずだ」
「ちょっと待ってくれ」
「なにかな?」
「別に自分に自信がある訳ではないけれども、お前の“はず”というのはいったいどういうことなんだ? 当たり前のように知ってるんであればそんな語尾はいらないだろ? それに、お前は俺自身が何者であるかを知ってると言ってる、一体どういうことなんだ?」
「……」
「もう、時間がないから詳しい話はできないけれども、これだけ言おう。もしわからなくても、ひと段落してからまた聞いてね」
「……」
「僕の生きている時代。時代というか、正確には時代線には織田信長も本能寺も明智光秀も存在しないんだ。いや、本来存在はしていないというか……まぁ、その辺でごまかさせてよ。詳しくはかなーり長くなっちゃうからね」
「……………」
やっぱり理解はできない。俺が存在しない?いったいどういうことなんだ? 俺はよくはわからないが、過去からやってきた人間だ。ジョンだって未来からやってきたとか言ってた。つまりは、時代には一直線の流れがあって、それが過去が違っているとか未来が違っているというのはおかしいはずだ。
いや、でもそういえばさっき時空探査実験とかなんとか言っていた気が……
「信長君」
「……なんだ?」
「真実を知るには、ある程度の代償は必要なんだ。その代償を君は払うことはできるかい?」
「どういうことだ?」
「君の求めるカギは僕が持っているはずだ。それに、君だって僕の話の続きを聞きたいだろ?」
「……」
「もしよかったら、協力してくれないかな? 未来と過去を変えるために」




